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3回目の私が再びめざす場所は

朝の空気は、冷たく澄んでいた。

私は教会の前に立って、無意識のうちに瓦礫を見回していた。


「もう一度、勇者のいる場所へ、か……」


黒い影は結界の内側に現れた。

崩れた壁。

割れたステンドグラス。

かつて、子どもたちの声が反響していた私の大切な居場所。


――未来を育てる場所が、無惨にも崩壊している。


すべてが偶然おきたこと?


いいえ、そうは考えづらい。

わたしの中に、確証のない仮説がひとつあった。


(なら、狙いがこの街でも、ハイデリカでもないとしたら……。

 私を誘い出すことが、目的だったとしたら?)


あの一体で終わりとは思えない。

むしろ、あの個体は様子見だった可能性が高い。


ここに留まれば、また同じことが起きる。


そのとき――


「せんせー」


声をかけてきたのは、

教室で一番前に座っていた子どもだった。


「今日、授業ありますか?」


私は教会の中を見た。


天井は抜け、黒板は倒れ、

長椅子は瓦礫の下だ。


「ざんねんながら、今日は無理ね」


「そっかぁ」


煙がまだ北の空に昇っている。壊滅した集落の方角だ。


物資の供給に警備の強化、結界の修復だって必要になる。

けれど、きっと復興はできると思う。


ハイデリカだって、皇都に掛け合ってくれると言っていた。

時間はかかっても、元の暮らしには戻る。


でも。


(元を断たなければ、また繰り返される)


「……せんせい?」


今度は、別の子が不安そうに聞いた。


「もしかして……行っちゃうの?」


子どもたちの視線が、一斉に集まった。


「大丈夫よ。先生は――」


ここに残るからね、そう言おうとした。

でも、言葉が続かなかった。


(……私ひとりで守れる?)


――一人じゃ何もできない。

――役立たず。


何度も前線で言われた言葉が蘇る。

実際、私の魔力は非力そのものだ。


そんな私の前に、ずらりと頼ってくれる生徒たちがいる。


私の人生は、一度終わっている。

死んだことにされ、

役割を失い、

ここで静かに人生は終わるはずだった。


(でも……)


脳裏に、銀髪の少女がよぎる。


——勇者マシューは行方不明なんです。


もしも、最終戦線が崩壊しているなら、早急に対策を打たないといけない。

いまの戦力はどうなっているのかしら。

場合によっては、より悲惨な未来もありえる。


犠牲はあったけれど、最終戦には勝利できた。

私が動けば……

最悪のケースは、防ぐことができるかもしれない。


「……ねえ、先生。気になるんだよね?」


ハッとして顔を上げると、子どもたちが次々に言った。


「行ってきても、いいんだよ」


「街のことは、ぼくたちが守るからね」


「節約魔法、ちゃんと使うから」


「先生がいっぱい教えてくれたから」


胸が、きゅっと縮まる。


「だから次はね……」


「世界のことを、先生が守ってあげて」


「この街を守ってくれたみたいに」


みんなの言葉に、

私の中の迷いは、静かに終わった。


「ありがとうね、みんな」


はっきりと頷いてみせる。


「そうね、先生、ちょっと行ってくるね」


子どもたちが、笑った。


「いってらっしゃい!」


街の門を抜けると、

外套を羽織ったハイデリカが待っていた。


「来ると思ってました」


私は特に返事をせず、

ただ、隣に並んで歩き出した。


「ひとつだけ、言っておくわ」


ハイデリカが、こちらを見る。


「私の指導は、とびきり厳しいから」


「もちろんです。わかっていますよ先生」


どこか弾むような即答だった。


「生き残りたければ、

私の指示、教え、言うことはきっちり聞くこと。いい?」


一回目の人生は、勇者パーティーとして

二回目の人生は、辺境の街の先生


そして——


三回目の私は、再び最後の大地を目指すことになった。




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