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ダメな理由は3つあるわ

屋根の上から二人。

路地の奥から一人。


鎧は古くて、統一感がない。

だけど、武器だけは手入れされている。


――訓練された身のこなし。元ギルドね。


しかも、仕事を選ばなくなった厄介な連中。


「……へぇ」


一番前の男が不敵に笑った。


髭面に左目に古傷。

魔力の流れが荒れている。


「こりゃあ驚きだ。ほんとに皇女様だ。連れには女が1人。ククッ楽勝だなぁ」


ハイデリカの肩がびくりと跳ねる。


「誰ですか、あなたたち……!」


男はわざとらしく両手を広げた。


「おいおい、いい声で鳴くねぇ。

俺たちゃ雇われ。依頼主の要望に応えるビジネスマンよ。

ただ、お願いされただけ、ってな」


「お願い……?」


「そうそう。連れ戻してこいってな」


男はにやりと歯を見せ、ハイデリカの顔色が変わった。


「……まさか、あの人が?」


「んん? 愛しのご婚約者様を、あの人呼ばわりとはね。

本人が聞いたら、嘆いちゃうだろおねえ。

連れ帰る条件はただ一つ、皇女が生きていること。

怪我の有無は問わない。懸賞金もたんまり出てるんだぜぇ」


想定よりも混みいった事情がありそうだけれど……

それはさておき。

私はゆっくりと一歩、前に進みでた。


「さあ、ハイデリカお話はここまで。

実践の時間よ。

魔法だけで、3人を戦闘不能に追い込むこと

もちろん、剣の使用は禁止」


「ん? 誰だお前ぇ?

いや、待て。

まさかお前が……

例の役立たずの生き残りか?」


私は眉をひそめた。

男が警戒心を強め、眼を細める。魔力が瞳にあつまる。

私の実力を測っている。

そして、男はニタニタと口角をあげて、やがて腹を抱えて笑いはじめた。


「くへえへえへえ!

本ぉん当に実在するとはな!

しかも聞いてた通り!

魔力攻撃力ほぼゼローぉ!

戦場の寄生虫」


私は腕を組んで微笑んでみせる。


「だからどうなの?

それとも、気づいていないのかしら?

あなた達は、私たち以下。

皇女を捕まえたいなら、もっとマシな人選をよこしなさい」


男の顔が、不快と言いたげに歪んだ。

そして、ハイデリカの顔もわなわなと歪む。


「わ、ワウト先生!?

そんな挑発しなくても……」


男たちの顔色がハッキリと変わった。


「チッ。ガキが喚きやがって。

まとめて始末してやりゃ――」


男の舌打ちが合図だった。

ハイデリカが反射的に前へ出て、魔力が弾けた。

指先から輝きが走り、髭面の男に一閃する。


しかし、足を狙ったはずの魔法は、地面を削り壁に散る。


初手で下段を狙って、立てなくする動き——。

教えていないのに、やっぱりセンスがいいわ。


「おおん? どこ狙ってるのかなぁ?」


男が笑った。ハイデリカに不安の色が滲む。


別の男が、横から回り込んできて、短剣で薙ぎ払う。


「その程度じゃあ、お嬢様のお・ま・ま・ご・と、だな」


ハイデリカの手が咄嗟に剣に伸びる。


「ダメよ!」


私の叫びに、ハイデリカの体ぴくりと硬直する。

慌ててハイデリカが障壁を展開する。


けれど、広すぎるし厚すぎる。


――無駄が多い。


ガンッ、と衝撃が響く。

魔法障壁が形成されて、斬撃の直撃は免れた。

でも、すぐ次が来る。


「……いやッ!」


障壁の隙をつかれて、ハイデリカの体が揺らいだ。


鋭い切先がハイデリカをかすめ、

美しい桃銀の髪が、パラパラと大地に落ちた。


(フルオートの魔力操作が発動したわね。

ハイデリカは気づいていないだろうけれど、

直前で不自然に軌道がかわったわ……)


ハイデリカの足がもつれて、身体がよろける。

手が小刻みに震えている。


「おいおい、俺の出番も残しておけよな。

必死の形相……たまんねぇなあ」


奥の男が、肩をすくめて笑っている。


「別に殺しに来たわけじゃねぇ」


「むしろ死なれちゃ困るからなぁ。適度に遊ばねえと」


「いい感じに心を折って、言うこと聞かせりゃいいってな」


三人の男たちは、くつくつと笑いあった。

ハイデリカの桃色の瞳が、悔しさと怒りに揺れている。

両手を突き出して、ハイデリカは魔力を指先に集中させる。


次の瞬間——


「そこまでよ!

中断して」


低い声が、路地に落ちた。


「……あ?」


男たちの動きが、止まる。

私はハイデリカの前に出た。


「聞こえなかった?

戦闘は中断よ」


「は? んだこいつ」


拍子抜けしたような沈黙。

男たちに意識を集中させて、私は彼らを眼光の奥から睨んだ。


男の一人が、苛立ったように一歩踏み出そうとするが——


「なんだこれ……う、うごけねぇ!」


男たちの足が前に出ない。

ジッとりして、空気が重い。


「先生……これって……?」


戸惑うハイデリカをよそに、私は静かに言った。


「ダメ」


「え……?」


「今のは、全然ダメ」


ハイデリカが息を詰まらせる。


「初手で足を狙ったのはいい判断よ。

教えてないのに、そこは褒める。

でも、魔力の使い方が雑すぎるわ」


私は、指を一本立てる。


「まず、防御。

広げすぎ、厚くしすぎ。

魔力を怖がって、全部外に出しちゃってるの。

壁を作るんじゃなくて、イメージとしては的を絞った盾をつくるの」


ハイデリカの肩が、しょんぼりと沈む。


「それから攻撃」


これが二つめ。


「ムリに威力を出そうとしすぎ。

壊そうとする必要はないの」


そして三つ目——


「一番ダメだったのは……」


私は彼女の剣を見る。


「剣に逃げようとしたこと」


「……!」


「魔力操作をしながら剣を抜くのは、

いまのあなたにとっては、自殺行為そのもの。

自分で負け筋を作る行為よ」


ハイデリカの唇が、震えた。


「……だって……

怖かったんです……」


「そうね」


私はあっさり肯定する。


「だからこそ、ダメ」


男が耐えきれずに声を荒げた。


「おい! ごたごた言ってねえで――」


その瞬間。


ギンッ——。


金属が鳴るような音が響いた。


「――っ!?」


男が膝をつく。


「な、なにしやが……!」


他の二人も、身じろぎできない。

魔力は見えない。圧力もない。


けれど動こうとすると、

壊れる

という感覚だけが全身を縛っている。


私はようやく男たちを見て、口元に指をそえた。


「お静かに。今は授業中よ。邪魔しないで」


男の喉が、ひくりと鳴った。

私は再びハイデリカに向き直る。


「まとめるわよ。

あなたは、才能がある。

その証拠に、フルオートによる魔力が致命傷を避けてくれる。

あなたを魔力に守護されているわ。

でも、それと同時に才能に振り回されてる。

これからは、制御できるようになるのよ。

あなただけの才能を」


コクリと頷くハイデリカの頭を優しくなでて、

私は彼女に下がっているように指示した。


そして、ふっと息を吐く。

硬直していた男達の緊張が解ける。


「ここからは、私がお手本を見せる」


私は指先を軽く鳴らした。


パチン。


路地の空気が軽くなり、男たちが歯を食いしばる。


「……なめやがって……!」


「でも、先生。

先生の魔力は……」


そうね。

わたしの魔力攻撃は、ほぼゼロに等しい。

かすり傷を負わせる程度がやっとね。

でも——


「まあ見てなさいハイデリカ」


私は男たちの間へ歩き出した。


「コスパ最強、出力最大。

節約魔法の使いどころを、ご覧にいれましょう」



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