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星が輝いた日⑧

 星光の剣(ステラキャリバー)を正中に構え、相手を見据えるピュリステラ・ハーティア。

 バケモノは剣に込められた魔力を警戒しているのか、唸りを上げるがそれ以上の事はしてこない。


「……っすぅ……ふっ!」


 息を吸い、吐く。一息ついて集中を高めてから相手に向かって走る。バケモノも吠え、ピュリステラ・ハーティアに向かって来る。


 先に攻撃を振るうのはバケモノの方。巨体を生かし、相手の攻撃範囲外から圧力をかける。牽制として放たれたその攻撃をピュリステラ・ハーティアは回避する。それも素人の様な大雑把な回避では無い。


(動きが……見える! 回避の仕方が……分かる!)


 先ほどまでは当たらないことばかり考え大きく避けていた。しかし今は身体が覚えているかの様に無駄の少ない動きで回避ができる。


「せやぁ!」


 回避の無駄が少なくなったため、反撃に転じる余裕ができた。掛け声と共に剣を小さく振るい、バケモノの腹を薙ぐ。


『ゲイィ……!』


 バケモノが驚いたように声をあげる。


(ここで……畳み掛ける!)


 バケモノが驚き固まった隙にピュリステラ・ハーティアは追加で切りつける。剣など初めて持ったが、その剣筋は素人のものでは無かった。


『ギイィ! ギイァ! ガアァ!』


 切られることを嫌がるようにバケモノが遮二無二に腕を振るう。ピュリステラ・ハーティアに当たらないことを理解したバケモノが地面を大きく殴った。


「……っこのっ!」


 衝撃により砕けたアスファルトの破片が飛び散り、ピュリステラ・ハーティアにも飛んでくる。回避するためにピュリステラ・ハーティアは後ろに飛んだ。距離が離れた。これこそがバケモノの狙いであった。


 バケモノは片足を半歩後ろにずらし、腕を交差させ、大きくのけ反った。今まで見せなかった動き。世界を歪ませた歪な力の奔流が起こる。


「……っ!!」


 あの炎が来る。紫黒の炎が。身体の至るところを、全身を痛みに支配された感覚がぶり返す。

 だが、それは一瞬のこと。剣が輝きを放ち、勇気をくれる。


 相手が力を溜めている。だが逆にこちらも力を溜める時間がある。


――決めるわよ! ピュリステラ・ハーティア!

「うん!」


 凛とした女性の声に元気よく返事をする。剣を上段に構え、魔力を込める。

 星光の剣(ステラキャリバー)が桜色の光を舞い散らし、夜空に一輪の輝きを咲かせる。






『ゴガアアアァァ!』


 バケモノの咆哮と共に空間が震える。反らした身体を勢いよく前に突き出す。バケモノの大きく開けた口の周りの空間は歪み、その中から紫黒の炎が勢いよく吐き出される。

 炎が地面に当たり、拡散する。横にも、縦にも拡散する。アスファルトすら溶かしピュリステラ・ハーティアを囲うように迫る。逃げ場を与えないつもりは無いらしい。



(もう、こんな悪夢は……終わらせる!)


 元より逃げるつもりも無い。


(お姉ちゃんと一緒に……家に帰るんだっ!!)


 ピンク色の瞳の奥、心を燃え(たぎ)らせる。



「はあああああああぁっ!」


 叫ぶ。二人で明日を迎えるために!



「スターライト・スラッァァァシュ!!」


 叫ぶ。この運命を断ち切るために!



 上段に構えた星光の剣(ステラキャリバー)を斜めに振り下ろす。込められた魔力が剣閃となり軌跡を残しながらバケモノへと放たれる。桜色の軌跡は星屑のように煌めき、空間に光のしぶきを描く。

 そして、紫黒の炎で歪んだ空間を割き――バケモノを両断した。


『ギィユゥゥゥ!』


 肩口から腰に掛けて両断されたバケモノは断末魔を上げ、黒い染みをまき散らした。バケモノが倒れ、黒い染みはやがて漂白され、空気に溶けていった。跡には黒い結晶が残されていた。





「はあっ! はあっ!…っはあっ!」


 大技を放った反動がピュリステラ・ハーティアに訪れる。肩を大きく動かし苦しそうに呼吸し、全身から汗が流れ出る。コスチュームはボロボロで際どいところまで見えている。それでもその表情に一切の陰りは無かった。


――よくやったわピュリステラ・ハーティア。もう大丈夫よ


「やっと……終わったんだね…」


 凛とした女性の声に教えてもらい、安心するピュリステラ・ハーティア。

 ゆっくりと剣の光が収束する。

 風にスカートがなびき、ツインテールを揺らす。



「……っ! お姉ちゃんは……!?」


 しかし感慨にふけるのは一瞬。姉である優奈の元に駆け寄る。


 いつの間にか変身は解けて制服を着ている愛奈に戻っていた。周りの家からは光が漏れていて、空には月と星が見えていた。


「お姉ちゃん!?……お姉ちゃん!」


 愛奈は優奈をゆすって声をかける。都合のいい物語であれば優奈はすぐに目覚めてハッピーエンドだろう。



――こっちにいたぞー!

――早く! 救急車を!



 遠くから近づいてくる男性たちの声が聞こえる。しかし、愛奈の耳には入らない。



「起きて……起きてよ……」


 姉に対し呼びかけ続け、身体をゆすり続ける愛奈。しかし、彼女に与えられたのは都合のいい物語ではなく――……


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