星が輝いた日⑥
眩い光がわたしを包む。溢れんばかりの輝きに包まれる。光の奔流に身を任せ、眼をつむる。
傷つき痛む体が癒される。柔らかいものに包まれて、身体が浮かんでいる感覚になる。
着ていた衣服が端から輝く粒子になって光に溶けていく。全ての衣服が光に溶けて産まれたままの姿になる。
恥ずかしくはない。
むしろ、安心する。
おぼろげにしか覚えてない。だけど、幼き日にお母さんに抱いてもらった時のよう。全てをゆだねられる。そんな安心が全身を包む。
ありがとう。感謝の気持ちが溢れる。それでも、行かなくちゃならない。この安心に浸るだけではいけない。
分かっていると、行ってらっしゃいと、背中を押された様な気がした。
何にも持たないわたしだけれど。何にも持ってないわたしだからこそ。運命に抗うための力の象徴をイメージする。
わたしのつたないイメージを誰かが補ってくれる。そして、そのイメージに沿って形作られる。戦うためのわたしに作り変える。
光がわたしの体に収束する。光がわたしの衣装を編み上げる。
――なびく髪が光を吸収して、鮮やかなピンク色に変わる。
――ハート型の結晶を中心に据えた、桃色の大きなリボンが首元に付く。
――セーラー風の付け襟が、リボンの下に添えられる。
――脚には真白のオーバーニーソックス。
――腕には乳白のオペラグローブ。
――トップスには肩の動きを阻害しない純白のノースリーブ。
――ボトムスには素早く動くための桜色のプリーツスカート。
――金色に輝く金属が斜めに腰に巻き付きベルトを成す。
――その上から黄色の大きなリボンが腰に据えられる。
――足には薄紅色のブーツが組みあがる。
――そして最後に飛んできた星が左前髪に付いてオーナメントに変わる。
わたしを包んだ浮遊感が終わりを告げる。準備は整ったと終わりを告げる。
ここからはわたしの時間だ。
わたしが戦うための時間だ。
強く眼を見開く。
強く前を見据える。
瞳はピンク色に輝く。
〝ピュリステラ・ハーティア〟
それが今のわたしの名前。
誰に呼ばれたわけでもない。
魂に刻まれたわたしだけの名前。
◇◇◇
身体に力が入る。それと同時に地面を駆ける。胸元の結晶とか、この衣装のこととか、気になることはいっぱいある。
理解ができない。説明の仕様がない。
そんなことにももう慣れた。関係ないと足を前に出す。
惚けてる場合じゃない。感慨にふける場合じゃない。わたしにはやるべきことがある。間に合わなくなる前に。
ありえないくらい早く景色がスライドする。視界をスライドする情報が、いままでの人生で見たことのないほどに早く動く。
だけれどわたしはその全てを把握する。
「はあああっ!」
叫ぶ。力を籠めるために。
わたしの声に反応し、バケモノはお姉ちゃんから口を放す。
「こっ……んのぉっ!」
ここぞとばかりに足を振るう。振るった足は屈んでいたバケモノの顔面を捕らえた。蹴られたバケモノは後方に吹っ飛び転がっていった。重い買い物袋に微動だにしなかったバケモノが。
「お姉ちゃん!」
あんなバケモノはどうでも良い。一番大事なのはお姉ちゃんだ。バケモノから解放されたその身体を受け止める。地面に打ち付けられるその前に。
「……っ血が、こんなに……!」
首から血が吹き出てる。地面に血が溜まっている。もう手遅れ。そんな言葉が脳裏をよぎる。
「やだ!」
だけど諦められない。見てるだけなんてありえない。でもどうすればいいか分からない。
――大丈夫。祈りを込めて!
凛とした女性の声が聞こえた。声に従い身体が動く。何とかなれと念を込める。何とかしたいと希望を願う。呼応するかのように身体の奥が熱くなる。
「……っ! これならっ!」
身体の奥から感じる熱をかき集める。何か分からないが集まってくる感触を得る。それをそのままお姉ちゃんに流し込む。
――そうよ! そのまま!
「わかった……! このままっ!」
凛とした女性の声に肯定され、続きを行う。お姉ちゃんに流し込むところで何か詰まっている感じがする。それでも関係ないと力の限りお姉ちゃんに流し込む。
お姉ちゃんの身体が淡い桃色の光に包まれる。淡い桃色の光がお姉ちゃんの首筋に吸い込まれる。そして首筋から流れていた血が、止まった。このままなら何とかなる気がした。
でもこのままでは終わらなかった。
『ギュオォァァァアアァ!』
バケモノが叫ぶ。こっちを見ろと、無視をするなと、そう言わんばかりに。
◇◇◇
「……っ……!」
(どうしよう……。どうしたら……)
心の中に焦りが生まれる。お姉ちゃんの無事が分からない。このまま力を流し続けなければいけないのではないか。
だけどあのバケモノがそれを許してはくれそうにない。治療か、戦闘か、どちらを取るべきか決めあぐねる。
――大丈夫! この人の魔力の欠損は補えたわ。
「ま、魔力……? え、えぇ?」
また聞こえてきた凛とした女性の声に思わず反応する。魔力と聞こえた。ゲームやアニメに出てくるあの魔力なのだろうか。
――そうよ! その魔力でだいたい合ってるわ!
「うわぁあ! え、え……!?」
返事が返ってくるとは思っていなかった。しかも心の中の声すら拾っているかのような返事が返って来た。さっきから聞こえるこの女性の声は何なんだろう。
何処からともなく聞こえてくるが、声の主がどこにいるかが分からない。
――それより前を向いて! 侵魔が来るわ!
「あ! そ、そうか!」
シンマ……? 聞きなれない単語であったが、目の前にはバケモノがいるのだ。こんな会話をしている場合ではないのだ。
『ギュエッ、ギュエッ、ギュエッ』
目の前のバケモノは笑っているかの様に肩を揺らしていた。なんでだろう。叫び声に驚いて慌てふためいているとでも見えたのだろうか。なんにせよ、お姉ちゃんの治療中に襲われなくて良かった。
お姉ちゃんのことは心配だけど、この声が大丈夫って言ってくれた。何故だかわからない。だけども信じられる。わたしは立ち上がり、バケモノと対峙する決意を固める。
『ギュイッ? ギュ……ギイィィイイ!』
わたしが対峙する姿勢を見せたためだろうか。バケモノは笑いを止めて怒ったように吠える。でも、もう全然怖くはない。
わたしは、もう一歩も引かない。
だってわたしは――
〝ピュリステラ・ハーティア〟なんだから!




