表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/67

星が輝いた日⑥

 眩い光がわたしを包む。溢れんばかりの輝きに包まれる。光の奔流に身を任せ、眼をつむる。

 傷つき痛む体が癒される。柔らかいものに包まれて、身体が浮かんでいる感覚になる。

 着ていた衣服が端から輝く粒子になって光に溶けていく。全ての衣服が光に溶けて産まれたままの姿になる。


 恥ずかしくはない。

 むしろ、安心する。


 おぼろげにしか覚えてない。だけど、幼き日にお母さんに抱いてもらった時のよう。全てをゆだねられる。そんな安心が全身を包む。


 ありがとう。感謝の気持ちが溢れる。それでも、行かなくちゃならない。この安心に浸るだけではいけない。

 分かっていると、行ってらっしゃいと、背中を押された様な気がした。


 何にも持たないわたしだけれど。何にも持ってないわたしだからこそ。運命に抗うための力の象徴をイメージする。


 わたしのつたないイメージを誰かが補ってくれる。そして、そのイメージに沿って形作られる。戦うためのわたしに作り変える。

 光がわたしの体に収束する。光がわたしの衣装(コスチューム)を編み上げる。



 ――なびく髪が光を吸収して、鮮やかなピンク色に変わる。


 ――ハート型の結晶を中心に据えた、桃色の大きなリボンが首元に付く。


 ――セーラー風の付け襟が、リボンの下に添えられる。




 ――脚には真白のオーバーニーソックス。


 ――腕には乳白のオペラグローブ。




 ――トップスには肩の動きを阻害しない純白のノースリーブ。


 ――ボトムスには素早く動くための桜色のプリーツスカート。




 ――金色に輝く金属が斜めに腰に巻き付きベルトを成す。


 ――その上から黄色の大きなリボンが腰に据えられる。


 ――足には薄紅色のブーツが組みあがる。




 ――そして最後に飛んできた星が左前髪に付いてオーナメントに変わる。




 わたしを包んだ浮遊感が終わりを告げる。準備は整ったと終わりを告げる。


 ここからはわたしの時間だ。

 わたしが戦うための時間だ。


 強く眼を見開く。

 強く前を見据える。

 瞳はピンク色に輝く。



 〝ピュリステラ・ハーティア〟



 それが今のわたしの名前。

 誰に呼ばれたわけでもない。

 魂に刻まれたわたしだけの名前。





◇◇◇





 身体に力が入る。それと同時に地面を駆ける。胸元の結晶とか、この衣装のこととか、気になることはいっぱいある。


 理解ができない。説明の仕様がない。

 そんなことにももう慣れた。関係ないと足を前に出す。


 惚けてる場合じゃない。感慨にふける場合じゃない。わたしにはやるべきことがある。間に合わなくなる前に。

 ありえないくらい早く景色がスライドする。視界をスライドする情報が、いままでの人生で見たことのないほどに早く動く。

 だけれどわたしはその全てを把握する。


「はあああっ!」


 叫ぶ。力を籠めるために。

 わたしの声に反応し、バケモノはお姉ちゃんから口を放す。


「こっ……んのぉっ!」


 ここぞとばかりに足を振るう。振るった足は屈んでいたバケモノの顔面を捕らえた。蹴られたバケモノは後方に吹っ飛び転がっていった。重い買い物袋に微動だにしなかったバケモノが。


「お姉ちゃん!」


 あんなバケモノはどうでも良い。一番大事なのはお姉ちゃんだ。バケモノから解放されたその身体を受け止める。地面に打ち付けられるその前に。



「……っ血が、こんなに……!」


 首から血が吹き出てる。地面に血が溜まっている。もう手遅れ。そんな言葉が脳裏をよぎる。


「やだ!」


 だけど諦められない。見てるだけなんてありえない。でもどうすればいいか分からない。


――大丈夫。祈りを込めて!


 凛とした女性の声が聞こえた。声に従い身体が動く。何とかなれと念を込める。何とかしたいと希望を願う。呼応するかのように身体の奥が熱くなる。


「……っ! これならっ!」


 身体の奥から感じる熱をかき集める。何か分からないが集まってくる感触を得る。それをそのままお姉ちゃんに流し込む。


――そうよ! そのまま!


「わかった……! このままっ!」


 凛とした女性の声に肯定され、続きを行う。お姉ちゃんに流し込むところで何か詰まっている感じがする。それでも関係ないと力の限りお姉ちゃんに流し込む。

 お姉ちゃんの身体が淡い桃色の光に包まれる。淡い桃色の光がお姉ちゃんの首筋に吸い込まれる。そして首筋から流れていた血が、止まった。このままなら何とかなる気がした。


 でもこのままでは終わらなかった。



『ギュオォァァァアアァ!』


 バケモノが叫ぶ。こっちを見ろと、無視をするなと、そう言わんばかりに。





◇◇◇





「……っ……!」


(どうしよう……。どうしたら……)



 心の中に焦りが生まれる。お姉ちゃんの無事が分からない。このまま力を流し続けなければいけないのではないか。

 だけどあのバケモノがそれを許してはくれそうにない。治療か、戦闘か、どちらを取るべきか決めあぐねる。


――大丈夫! この人の魔力の欠損は補えたわ。


「ま、魔力……? え、えぇ?」


 また聞こえてきた凛とした女性の声に思わず反応する。魔力と聞こえた。ゲームやアニメに出てくるあの魔力なのだろうか。


――そうよ! その魔力でだいたい合ってるわ!


「うわぁあ! え、え……!?」


 返事が返ってくるとは思っていなかった。しかも心の中の声すら拾っているかのような返事が返って来た。さっきから聞こえるこの女性の声は何なんだろう。

 何処からともなく聞こえてくるが、声の主がどこにいるかが分からない。


――それより前を向いて! 侵魔(しんま)が来るわ!


「あ! そ、そうか!」


 シンマ……? 聞きなれない単語であったが、目の前にはバケモノがいるのだ。こんな会話をしている場合ではないのだ。



『ギュエッ、ギュエッ、ギュエッ』


 目の前のバケモノは笑っているかの様に肩を揺らしていた。なんでだろう。叫び声に驚いて慌てふためいているとでも見えたのだろうか。なんにせよ、お姉ちゃんの治療中に襲われなくて良かった。


 お姉ちゃんのことは心配だけど、この声が大丈夫って言ってくれた。何故だかわからない。だけども信じられる。わたしは立ち上がり、バケモノと対峙する決意を固める。




『ギュイッ? ギュ……ギイィィイイ!』


 わたしが対峙する姿勢を見せたためだろうか。バケモノは笑いを止めて怒ったように吠える。でも、もう全然怖くはない。

 わたしは、もう一歩も引かない。


 だってわたしは――

 〝ピュリステラ・ハーティア〟なんだから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ