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夢幻と星屑、その代償⑥

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

本作もよろしくお願いします。

「お、お金……いくらあったっけ……」


 愛奈は顔を青ざめさせながら、スクールバッグの中をごそごそと探った。指先が財布の端に触れた――その瞬間、響華の手がそっと伸び、愛奈の手を押さえる。


「まぁまぁ、あーしはお金が欲しいわけじゃないっしょ」

「お金じゃないの? じゃ、じゃあやっぱり下僕ってこと?…………う~、わんっ!」


 響華の方を見た愛奈。そして下僕として忠誠を疑われないように、半ばヤケクソ気味に精一杯吠えた。


「ぶふっ! あ、愛奈っちの下僕のイメージって……犬なのっ! マジウケる~っ! あっはははっ! 〝わんっ〟って! やっぱ愛奈っちは可愛いなぁ!」


 響華はスクールバッグをバンバン叩きながら大笑い。対して愛奈は真っ赤な顔を伏せたまま動くことができなかった。


「~~~っ! 笑いすぎだよぉ……!」

「はぁ~、笑いすぎて涙出た……いやぁ、さすが愛奈っち! いつもあーしの想像の上を行くねぇ!」


 響華は目尻を拭いながら息を整え、すぐにニヤリと口角を上げた。


「下僕の愛奈っちも捨てがたいけど……あーしが知りたいのは、この後の〝よ・て・い〟――わかるよねぇ?」

「う、うぐぅ……」

「ほらほら~、さっさと彼氏のこと白状するっしょ~?」


 響華がぐっと顔を近づける。息がかかるほどの距離で、人差し指が愛奈の頬をつんつんと責め立てた。


「わ、わかったってばぁ……! でも、ほんとに彼氏とかじゃないから、ガッカリしないでね……?」


 愛奈はついに観念し、この後の予定について響華に話すことにした。





「へ~、愛奈っちってお姉ちゃんいたんだー。でも分かるわぁ。愛奈っちって、まさに〝妹〟って感じだもんね~」


 愛奈はこれから姉である優奈に会いに行く予定であることを響華に伝えたところ、妹であることを妙に納得されてしまった。愛奈はむくれたように眉を寄せる。


「なんでぇ!? ほらっ、わたしからだって〝頼れるお姉ちゃん〟ってオーラを感じるでしょ!」


 胸をぐいっと張り、片手を首元に添えて、雑誌で見た〝頼れるお姉ちゃんポーズ〟を全力で再現する。だが、その必死さがむしろ〝妹感〟を際立たせていた。


「いや~、ちょっと難しいね~。弟や妹はいないっしょ?」

「い、いないけど、なんでそんな断定的なの……?」

「だよね~。愛奈っちはイメージ通りだねぇ」

「むぅ~……わたしにも響華ちゃんくらいの背があればぁ!」


 愛奈は頬を膨らませ、背伸びをして精一杯見栄を張る。響華はその様子をニマニマしながら見て、愛奈の肩を軽く叩いた。


「愛奈っちはそのままが良いんだってば。で、お姉ちゃんに会いに行くってことは、一人暮らしでもしてるの?」

「違うよ。その……病院に、入院してるの」


 愛奈は姉のいる場所について、言いよどみながらも説明した。


「ありゃりゃ、そりゃ大変だねぇ。どこか骨折でもしちゃったの?」

「ううん。病気で……ちょっと寝たきりなの」

「えっ!? それ大丈夫なのっ!?」


 響華が思わず声を上げ、愛奈の顔を覗き込む。しかし、愛奈の表情は思ったより穏やかだった。その落ち着きに、響華の焦りも少しずつ和らいでいく。


「大丈夫だよ。命に関わるとかじゃないの。それに、時々起きたりもするの。今日も、もしかしたら起きるかもって聞いたから――」

「へぇ、そんな病気があるんだ。なんて病気なの?」


 響華の瞳には、純粋な心配と好奇心が混じっていた。


「うっ……その、病名は……詳しくは知らないって、お医者さんも……」

「医者も知らない!? それで大丈夫とか言うやつ、絶対ヤブ医者っしょ!」

「あああっ! ち、違う違う! お医者さんはちゃんと知ってるよ! その……病名が難しくて、わたしが覚えきれなかっただけで……!」

「ふぅん……」


(まさか〝瘴気〟のせいなんて言えるわけないよ~!)


 愛奈はしどろもどろになりながら、ウソを交えながら説明する。正直に瘴気のことを話しても、到底信じてもらえるような内容にはならないからだ。

 それなら、信じてもらえるように瘴気や侵魔を実際に見てもらうというのか――それこそ論外だ。


(うう~、だからあんまり話したくなかったのに~)


 心の中で泣き言をこぼす愛奈。けれど今日は、響華に散々助けてもらってしまった。その借りを思うと、これ以上黙っているわけにもいかなかった。


「でも彼氏じゃなかったか~。朝早くに来てそわそわしてたから、絶対そうだと思ったのに! あーしの恋愛センサーも鈍ったかぁ……。あーっ! 恋バナがしたいっしょ~!」


 愛奈の説明には少し引っかかるところがあったが、響華はそれを深く追及しなかった。おどけた調子で声を上げ、空気を柔らげようとする。


「あはは、恋バナじゃなくてゴメンね……って、あれ?」


 愛奈はふと首をかしげた。

 ――そういえば、響華が〝彼氏〟の話を持ち出したのって、この放課後が最初じゃなかったような……。


(えーっと、いつだったっけ……? あ、そっか、朝――)

「って! ああーっ!」

「うおっ、どしたの愛奈っち!?」


 突然の叫びに、響華がびくりと肩を揺らす。愛奈は背伸びしながら、勢いよく身を乗り出した。


「響華ちゃん! 朝からわたしに彼氏のこと聞いてたっ! もしかして今日一日〝愛奈さま〟って呼んでくれてたのって、まさか……!」


 ――そう。

 今こうして予定を話すことになったのも、響華に〝恩〟があったからだ。けれど、もしその恩が最初から計画的に積み上げられていたのだとしたら――


「あれ~、気づいちゃった~?」


 響華は軽く舌を出しながら、握りこぶしで額を小突いた。わざとらしく「てへぺろっ」と小声で効果音まで添えていた。


「詐欺師っ! 確信犯っ! 計画的犯行~っ!」


 愛奈は指さしながらぶんぶんと腕を振って響華を非難する。


「愛奈っちって結構頑固そうなとこありそうだったからさ~。だから、ちょっと手の込んだ作戦を仕掛けてみたってわけ。うまくいってよかったっしょ!」


 響華は笑って愛奈の非難を受け流した。


「うわーん! 響華ちゃんの不届き者~っ!」


 結局、愛奈は今日一日、響華にうまく転がされ続けていたのだ――



「ぶぅ~」

「ありゃりゃ、見事に不貞腐れてるっしょ」


 愛奈は頬をぷくりと膨らませながら半目でにらみ続ける。しかし、どう見てもその顔には怖さなど微塵もなかった。


「まぁまぁ、マスクドデリシャスメロンパン、美味しかったっしょ? タダでいいから機嫌直してよ~」

「おいしかったけど~……」


 頬をふくらませたまま、愛奈は目をそらす。そんな様子も、響華には〝可愛い妹がちょっと拗ねているだけ〟にしか見えなかった。


「それで~、彼氏はいつ作るの? 愛奈っち!」

「またその話!? 作ろうと思って作れるものじゃないってば! だいたい今は――お姉ちゃんが入院してるんだから、それどころじゃないよ!」

「愛奈っちはほんと、お姉ちゃんっ子だね~。そしたらさ、退院はいつごろになりそうなん?」


 軽い調子で聞きながらも、響華は愛奈の言葉に耳を傾ける。彼氏よりも、姉の存在がずっと大きいことを察していた。


「えっ!? え~っと……詳しくはまだ分からないって。場合によっては一年くらいかかるかもって……」

「うわぁ、結構長くかかるんだね~。入院費用とかめっちゃ高くなりそ~」

「えっ……!?」


 その一言に、愛奈の動きがぴたりと止まった。口を開きかけたまま、喉の奥に何かが引っかかったように言葉が出てこない。

 そんな愛奈をわき目に響華は一足先に校門から出ていった。残念ながら思っていたような恋バナにはならなそうだと悟り、今日のところは引き上げることにしたらしい。


「ま、そんなのは親に適当に払わせときゃいいっしょ。これからお姉ちゃんに会いに行くんだよね? それじゃ、ここでお別れだね。じゃね~」


 響華は明るい声を響かせて、軽く手を振りながら別の方向に歩き出した。


「にゅういん……ひよう……?」


 最後に特大の爆弾を愛奈の心に残して――

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