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滲む黒影、満ちる月③

 拠点型魔結界特有の空間である洞窟の中に足を踏み入れたピュリステラ・ハーティア。岩肌からほのかに光が滲んでおり、洞窟の中を幻想的に照らしている。


「中は意外と明くて広いんだね。洞窟だから真っ暗なのかなってちょっと心配してたけど、これなら大丈夫そう。よかった~」


 ピュリステラ・ハーティアがほっと息をついて安心する。


「瘴気が充満しているから普通は体調に異変が起こるのだけれど、聖契士であるあなたは問題なさそうね」

「うん、体調は大丈夫だよ。でもヨルシアさん達と一緒に戦えると思ったのになぁ」


 翠芽の会の戦闘メンバーであるヨルシアやジュードは前回の戦いの傷が癒えていなかった。更に、拠点型魔結界の瘴気にあてられてしまうと判断されてしまったため、今回は来ていない。


「でも洞窟の中を探索って、なんだかゲームのダンジョン攻略みたい!」

「気を抜いてんじゃないわよ。ここは敵陣の中なのよ。せめて武器ぐらい構えておきなさい」

「うっ……それもそうだね」


 リーフィラに注意されてちょっと気まずいピュリステラ・ハーティア。片手を前に出し手のひらを広げて魔力を込める。集められた魔力は魔法となり小さな光を放つ。


「来てっ」


 光が収まった後、その手にはステッキが握られている。先端に星と翼が形どられた短いステッキ。


「ふっ!」


 短く息を吐き、ステッキに魔力を込める。星が軽く回り、翼が小さく羽ばたく。

 込めた魔力にステッキが呼応し、先端から桜色の光がゆっくりと伸びて刃となる。


 〝星光の剣(ステラキャリバー)


 頼れる武器を握りしめた。



「こんな感じかな」


 軽く振って感触を確かめる。広いとはいえ洞窟の中。壁に引っかかる可能性を考慮していつもより刃を短くした。


「ホントはもっとかっこよく召喚したかったんだけどなぁ」


 敵を目の前にしているわけでは無いので己を鼓舞する意味もなく、派手にすれば敵に自分の位置を知らせるだけだ。そのため、いつもより地味な武器の召喚になってしまった。


「それに……」


 不満気な表情のまま己の拳を見つめる。


「どうしたのよ、ハーティア?」


 急に立ち止まり、ピュリステラ・ハーティアは真剣な表情で拳を見つめていた。その様子にリーフィラが振り返る。


「ふぬっ!」


 ピュリステラ・ハーティアは腰を落として肘を後ろに引く。そして、ちょっと間の抜けた掛け声と共に、シュッという軽快な音を残して勢いよく拳を前に突き出した。


「剣を持っちゃったから、わたしの必殺技『ハーティア・パンチ』のお披露目はまた今度かな!」


 ピュリステラ・ハーティアは決め顔を作り、リーフィラの方を向く。


「だっさ……」

「ふわぁ!」


 決め顔は一瞬で崩れ去った。


「ポーズも口上もひどかったけど、必殺技の名前もだっさいわね。あなたのセンスが壊滅的だってのは理解したわ。十歳の男の子でも、もう少しまともな名前を考えるわよ」

「ひっ、ひどい……」

「あなたのセンスよりはマシよ」

「ぐっふ……」


 ピュリステラ・ハーティアは戦う前から精神的なダメージを負ってしまった。


「はぁ……戦っている時はちゃんとカッコイイんだから。あなたは考え過ぎない方が良いのよ」

「ホントっ!?」

「ええ、本当よ。自信を持ちなさい」

「そっか! よーし、今回も頑張るぞ~」


 落ち込んだと思ったら、すぐに元気を取り戻して歩き出した。


(まったく……手のかかる子なんだから)


 前を歩くピュリステラ・ハーティアが振り返る。言葉を発せずとも〝早く行こう〟と目で訴えているのが分かる。リーフィラは苦笑しながら隣に飛んでいった。





◇◇◇





「……っ!」


 意気揚々と洞窟を歩いていたピュリステラ・ハーティアは微かな音を捉える。それは、〝ザリッ〟と砂を踏む音に聞こえた。光る刃を一度消し、素早く岩陰に身を隠して息を潜める。リーフィラもピュリステラ・ハーティアの行動を理解し、同じように身を隠す。


(あれは……フロギーだ!)


 カエルのような醜悪な顔。口は半開きで長い舌がだらんと垂らし、ブヨブヨとした身体をしている下級の侵魔。そのフロギーが二体、洞窟の奥からゆらゆらと揺れる影となって近づいてきている。


(こっちには気づいて無さそう)


 フロギー達が近づくにつれて、様子が分かるようになってきた。見たところ、フロギー達は周囲を警戒する様子もなく、足音も気にせずにただ徘徊しているようにしか見えなかった。

 ピュリステラ・ハーティアは下げていたステッキを胸元に置き、リーフィラを見つめる。リーフィラはその視線に気づいてうなずく。

 無言で意志の統一を図った二人の横をフロギー達が通り過ぎ――


「ふっ!」


 ピュリステラ・ハーティアは星光の剣(ステラキャリバー)に魔力を込めて桜色の光の刃を瞬時に作り出し、手前のフロギーの胴を一閃で断ち切る。

 両断されたフロギーは何が起きたか分からないと言った様子のまま黒い染みをまき散らして消えていく。


『ギゲェ?』


 残ったもう一体のフロギーが異変に気付き声を出す。しかし、ピュリステラ・ハーティアは死角に滑り込むように移動していたため、残ったフロギーも侵入者に気付かなかった。


「せやぁっ!」


 死角への移動を優先したため、少し体勢が悪かった。このフロギーには異変は気づかれている。ならば声を出して居場所が察知されようと、一撃でたおせれば問題ない。そう考え、ピュリステラ・ハーティアは掛け声と共に全身を捻り、足の踏み込みと同時に渾身の一撃を叩き込む。


『ギョホッ!』


 ピュリステラ・ハーティアの狙いどおり、残るもう一体のフロギーも、桜色の残光と共に霧散していった。





◇◇◇





 足音に注意しつつ洞窟を奥に向かって進むピュリステラ・ハーティア。周囲を警戒しているが、緊張はしていない。


「この洞窟って、フロギーしかいないのかな?」


 最初に倒した二体以外にも何度かフロギーと接敵していた。どのフロギー達もツーマンセルで行動していたが、今のピュリステラ・ハーティアにとっては問題にはならなかった。すべてのフロギーを一太刀で切り伏せることができたため、フロギーに攻撃する隙を与えていなかった。


「そうみたい。このフロアにはフロギーしかいないようね。」

「フロア……って、あれ?」


 リーフィラのセリフに含まれる〝フロア〟という言葉の意味を聞こうと思ったピュリステラ・ハーティア。だが、その前に進んでいた洞窟に違和感を覚えた。


「行き止まり……?」


 ピュリステラ・ハーティアは少し広い空間にたどり着いた。だが、周りを見回しても岩ばかりで道が繋がっているようには見えなかった。


「あれっ、道間違えたの!? でも分かれ道なんてあったっけ!?」


 ピュリステラ・ハーティアは不安になり、慌てて来た道を振り返る。


「落ち着いて、ハーティア。あそこを見て」

「えっ?……あっ! あんなところに階段!」


 リーフィラが指す方に近づいて見てみると、岩の隙間に下に続く階段が見つかった。最初に見渡した時には岩の陰になっていて見落としていたようだ。


「もうちょっと分かりやすくしてよ~。焦っちゃったじゃん……」

「ふふっ、それもそうね。さ、階段を下りて次のフロアに行きましょう」

「うっ、うん!」


 ピュリステラ・ハーティアは焦ってしまった恥ずかしさを誤魔化すために階段の位置に文句を零したが、リーフィラに拾われると思っていなかった。ましてや、素直に同意されるとは思っていなかった。

 気恥ずかしさを感じたピュリステラ・ハーティアは大きめの声で返事をして、階段を下り始めた。





「あれって出口?……もしかして、外につながってるの?」


 長い階段を下り切ったピュリステラ・ハーティア。洞窟が続くと思っていたが、短い道の先では洞窟が途切れており、そこに光が差し込んでいて――


「眩しっ……!」


 息をのんで外に出たピュリステラ・ハーティア。洞窟の中はわずかに光があったが、外に比べると暗かった。暗い場所に長くいたため光に目が慣れておらず、しばらくその場に立ち止まった。



「うわぁ、なにこれ……」


 ようやく光に目が慣れたころ、ピュリステラ・ハーティアは眼前の光景に思わず困惑の声を上げてしまう。魔結界に入って洞窟を見た時も困惑したが、今回も同じか、それ以上の衝撃を受けた。


 肌に感じる気温は今までのひんやりしたものではなく、どこか温かさを感じられる。鼻から入る空気は洞窟の中のよどんだ空気とは異なり青臭さが混じる。そして、足元は乾燥した砂利ではなく、水分を含んだ柔らかい土になっていた。


「これって、草原……だよね」

「そうね。このフロアは草原エリアのようね」


 目の前の光景が理解できずに固まっているピュリステラ・ハーティアに対し、リーフィラは特に気にする様子は無いまま返事を返す。


「何でリーフィラはそんな平然としてるの!? 洞窟を下りて草原出るって変じゃん! って、なにあれ! 上につながって無い! わたしたちどっから来たの!?」


 ピュリステラ・ハーティアは出てきた方を指差しつつ声を荒げる。指差した方に顔を向けて、さらに驚きの声を上げる。

 岩が積み上がり、洞穴の入り口を形成している。しかし、その洞穴は決して高くない小さな丘にある。長い階段を下りてきたはずなのに、小さな丘の中にそんな長い階段が入っているようには全く見えなかった。


「さっきの洞窟とこの草原は別のフロアよ」

「あの丘の中に長い階段入らないよ! 物理的におかしいよ!」

「ここは魔結界の中よ。特にフロアの境目は空間的に捻じ曲がっているから仕方ないわ」

「そういうものなのっ!?」


 納得がいかない様子で洞窟の入り口を見つめる。


「でも――」


 振り返って今度は草原の方を見つめる。


「――考えてみれば洞窟も草原も初めてかも!」


 幼いころに両親を亡くしたため、旅行らしいことを今までしたことは無かった。住んでいる街を離れるなんて修学旅行か遠足の学校行事以外でしたことは無かった。

 ここは憎むべき敵の拠点である。だけど、自分の知らない世界を見せてくれたことには、ちょっとだけ、感謝した。


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