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瑞葉の学び舎⑦

「こんちゃ~っす。体験入部いいですか~?」


 響華が気負いなく尋ねる。愛奈、伊吹、響華の三人はバスケットコートを離れたが、同じ体育館で体験入部の募集をしていたバレーコートに来ていた。


「いいわよー。歓迎するわ。えーと、人数は二人……じゃなくて三人ね」


 女子バレー部の部員と思われる女性が気軽に答えてくれた。


「伊吹ちゃん、もうちょっと気配だそうよ……」

「……めんどい。これがあたしの普通だし……」


 バスケ部の時といい、バレー部の時といい、最初に人数に数えられないくらいに気配を薄めている伊吹。気になって愛奈は指摘したが、伊吹は改める様子は無かった。


「バレー部は適当にチームに混ざってラリーを楽しんでもらう感じよ。試合って訳じゃないから気楽に楽しんでね。三人一緒の方が良いわよね?」

「三人一緒でお願いします!」


 愛奈は体験入部の趣旨を聞き、三人で同じチームになれるように希望した。


「オーケー。えーっとじゃあ……Bチームー、三人入るから代わってー!」

「あー交代ねー。はいはーい、汗かいた~」


 バレー部の部員が声を出すと、片方のコートから軽口を叩きながら三人ほど出てきた。そこで愛奈が少し戸惑った表情を浮かべた。


「ああ、あの三人は穴埋めで入っていたバレー部の部員だから気にしなくて大丈夫よ」

「あ、そうなんですね。部員さんだったのか~。よかった! じゃ、行こう。伊吹ちゃん! 響華ちゃん! Bチームの皆さん、よろしくお願いしまーす!」

「……愛奈、ノリ気だね……」

「いいじゃん、いいじゃん。バレーも楽しそうだし!」


 愛奈の懸念は即座に解消し、バレーボール楽しむために三人はバレーコートに入っていった。





「そーれ!」


 Bチームに入った三人が構え、そしてAチームからサーブが飛んできた。


「ボール行ったよー。伊吹ちゃんお願いー」


 飛んできたサーブは伊吹のいる方へ飛んでいき――


「……(サッ)……」

「避けたぁ!?」


 伊吹はひらりと身体を傾けてボールを避け、愛奈が驚きの声を上げる。サービスエースが決まり、Aチームのメンバーが盛り上がる。


「伊吹っち―、避けてちゃ話にならないっしょ~」


 さすがに響華も苦言を呈する。


「……レシーブは腕が痛いからやだ。愛奈交替……」

「え~もう、伊吹ちゃんはしょうがないなー」


 さすがに悪いと思ったのか、伊吹は目を逸らす。しかし、レシーブはやりたくない態度を変える気は無く、仕方なく愛奈は伊吹と場所を入れ替わる。



「そーれ!」


 再びAチームからサーブが飛んでくる。


「愛奈っち―、お願いー」

「まっかせてー!」


 愛奈が軽快に落下地点に入り、レシーブの構えを行い――バシッ!


「いったぁぁ~い!」


 激しい音と共にボールはふわりと宙に浮く。レシーブは上手くいったが、愛奈は腕を赤くして、眼に涙を浮かべる。


「……トス。後はよろ……」


 愛奈が受けたレシーブはやや高く上がり、ネット付近までは飛ばなかった。そのボールを伊吹が受け継ぎ、ネット付近に正確にトスを上げた。


「いよっしゃ! アターック!」


 響華がドンピシャのタイミングで強烈にスパイクを決める。Aチームのメンバーは誰も動くことができなかった。


「いえーい! ナイストス、伊吹っち~」

「……いえーい。響華やるぅ……」


 スパイクが決まったことに響華は興奮する。そのテンションに伊吹も多少合わせて、二人はハイタッチを交わす。


「わたしも褒めて! あと慰めて!」


 二人だけで盛り上がるところに、腕をさすっている愛奈が物申したが二人は聞いていなかった。


「あ、あなたのレシーブも良かったわよ! よ~しよしよし~」

「う~、ありがとうございますぅ……」


 さすがに不憫に思われたのか、同じBチームのメンバーが愛奈の腕をさすってフォローしてくれた。



「アンダーハンドのレシーブは慣れないと痛いわよね~。でもちゃんと組めばあまり痛くないわよ」

「え~、どんな感じなんですか?」

「そうね。ちょっとポーズをやってみようかしら」


 愛奈の質問に対し、構え方についてバレー部員が教えてくれることになりBチームのメンバーが集まってくる。Aチームの方でも別のバレー部員が同じようにメンバーを集めていた。


「こうやって手のひらを包むようにして、両手の親指の高さを合わせるの。そして腕と肘をしっかり伸ばすの。やってみて」

「こんな感じっすかね!」

「あ、うまいうまい!」


 響華がさっそくポーズを真似してみる。バレー部員から見てもさまになっていた。


「私のポーズもあってますかー?」

「こっちもお願いしますー」

「みんないい感じよ!」


 Bチームの面々がバレー部員からレシーブの構え方について合格をもらう。


「あ、あれ? 腕そろえてー肘伸ばす……んだけど、あれ?」


 そんな中、愛奈は構えの練習がうまくできていなかった。


(胸でつっかえてるなー愛奈っちー)

(……デカ乳の悲劇、ぷふっ……)


 響華、伊吹がその光景を見て同じような事を思った。


「あー、この子の胸大きいわねー」


 軽く目を細めたあと、バレー部員の言葉は急に棒読みになった。


「まー前傾姿勢を取ればそんな胸も邪魔にならないわよー」

「え? あっ、ハイ……って、なんか急に冷たくなってませんか!?」


 バレー部員の声に刺が混じったような気がして、愛奈は目を瞬かせた。愛奈はちょっと涙目になって訴えたが、今度は誰もフォローしてくれなかった。





「そーれ!」


 響華が放ったサーブは鋭くAチームのコートに突き刺さった。


「ナイスサーブ!」

「響華ちゃんすごーい!」

「あーし輝いてるぅ!」


 Bチームのメンバーや愛奈が響華のサービスエースを誉める。


「……つぎはあたしの番。響華ばかりにいい思いはさせない……!」


 今回は体験入部であり、本格的な試合ではない。そのため、サーブは一人一回で交代している。

 スパイクとサーブで目立っている響華に静かに対抗心を燃やす伊吹。


「そーれ!」

「……そーい……」


 気の抜けた掛け声と共に思い切り腕を振りサーブを放つ伊吹。しかし、思い切り振った腕はボールをかすっただけで力は伝わらず、へろへろと飛んだボールはネットにすら届かずに落下した。


「ちょっとー、伊吹ちゃーん! わたしのサーブの番はー!?」

「……どうせ愛奈は失敗するから問題ない。そうに違いない……」

「そんなことないし! 伊吹ちゃんとは違うもーん」

「……なにおぅ……」


 愛奈は次は自分のサーブの番と張り切っていたのに伊吹のへろへろサーブでサーブ権が相手に移ってしまった。そのことに文句を言うが伊吹は取り合わなかった。


「伊吹っちー」

「……失敗は誰にでもある……」

「もっと言ってやれー、響華ちゃーん!」

「……ぐぬぬ……」


 響華にジト目で見られた伊吹はさすがに目を反らした。愛奈にはやし立てられたが、響華に睨まれているため、伊吹は言い返せなかった。





「そーれ!」


 Aチームからサーブが飛んでくる。


「わたしの方に来た! …って、あ、あれっ!?」


 先ほど教えてもらったようにレシーブの体勢を取ろうとした愛奈。しかし、先ほど同様に胸が邪魔でうまく腕を組めない。その間にもボールは迫る。


「あああっ、ボール来た! えーいっ!」


 胸でつっかえた腕を無理やり振りあげようとする。全身を使い、身体も反らせて腕を振るう。胸を超えところでつっかえが取れた。だが今度は勢い余って腕が想定以上に高く上がってしまった。

 そこへ飛んできたボールが腕に当たった。本来当てるところよりも手前の、肘の内側付近にボールが当たった。そのボールが飛んだ先は上でも前でも無く――


「あっ――ぶへぇっ!」


 愛奈の顔面に飛んできた。愛奈は視界が白いものでいっぱいになったと思った瞬間、強い衝撃に襲われ、変な声を出してしまった。


 部活動で騒がしい体育館の中、ある一つのバレーコートでは誰もが固まったように動けず、テーン、テーンとただボールが跳ね続ける音が響いていた。



「……いたぁい~……」


 のけ反った体を元に戻し、ボールが強く当たったであろう鼻を抑えながら涙目の愛奈が言葉を発した。それによりバレーコートで止まっていた面々が思い出したように動き出した。


「顔面に行ったけどあなた大丈夫!?」

「愛奈っち、鼻! 鼻から血がっ!」


 Bチームのメンバ-が愛奈の事を心配してくれた。続けて響華が愛奈に近づき、愛奈の鼻から血が出ている事を指摘する。


「鼻血!? 出てないよ! 女の子だもん!」


 鼻血を出したことが恥ずかしいのか、愛奈は顔を赤くして鼻を抑えて否定する。


「いやいや、女子だって鼻血が出る時は出るっしょ、ちょっとティッシュ持ってくるから待っててね愛奈っち!」


 ティッシュを取りに離れた響華、変わって伊吹が愛奈に近づき、愛奈にささやいた。


「……愛奈、下を向くんじゃない。あたしたちはバレーボールをやっているんだから……」


 その言葉に愛奈はハッとする。痛みで下を向いていたが、鼻の奥から流れ出てくる液体が床に落ちてしまう。上を向けば落ちてくることはない。

 そして何より、愛奈も知っている有名なバレーボールのマンガのセリフにもあった。〝バレーは!! 常に上を向くスポーツだ〟と。


「そうだね伊吹ちゃん! バレーは、常に上を向くスポーツ――!」


 そのセリフ通り、愛奈は勢いよく頭を上げ――


「げっほ! げほげほげほっ……!」


 思いっきりむせた。


「だっ、大丈夫!? 背中さするね!」


 血が鼻の中を逆流し、喉の奥を刺激した。その刺激により咳き込み、上を向いた愛奈はすぐさま下を向くことになった。Bチームのメンバ-が愛奈の背中をさすってくれる。


「う~、すびばせん~。げっほっ、ごほっ!」

「血を吐いた~!?」


 鼻の奥から逆流した血が喉を通って咳きと共に愛奈の口から出てしまった。


「血なんて吐いてな……げほげほっ!」

「きゅ、救急車ー!」

「ティッシュまだ~?」

「ちょ! 体操着にも血がついてる~!?」

「なにそれー! 危ない病気ぃ!?」


 AチームもBチームも関係なく、てんやわんやの大騒動。


「あ~んっ! こんなのお嫁に行けないよ~!……げっほげほ!」

「……くっくっくっ。さっきさっきはやし立ててくれたお礼だよ、愛奈……」


 そんな中、愛奈はズレた心配をしており、伊吹はほの暗い笑みを浮かべていた。


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