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瑞葉の学び舎⑥

「試合終了ー! 六対四で赤チームの勝利!」


 体育館の一角で行われていた女子バスケ部の試合。体験入部用の短い時間の試合が今、終了した。


「やったー! 勝利だよ、伊吹ちゃん! 響華ちゃん!」

「……当然の勝ち……」

「いえ~い! あーしらのチームワークの勝利っしょ!」


 愛奈はぴょんぴょん跳ねながら伊吹と響華の元に駆け寄り、三人でハイタッチして勝利を祝う。


「三人ともよくやった! 全員それぞれの個性が出ていて良い活躍だったぞ!」


 三人の喜びの輪に百瀬たちも加わった。改めて赤チーム五人でハイタッチを交わす。


「モモちゃん先輩のブロックやリバウンドも凄かったよ!」


 愛奈が百瀬の活躍を誉める。そこに他の青チームのメンバーやバスケ部員も集まって来た。



「流石の百瀬先輩よね。でも百瀬先輩って本当にモモちゃんって呼ばれる事あったんだ」

「私も思った! いつも〝モモちゃん〟と呼んでって、あれ一種のすべり芸かと思ってた! 先輩も聞いたことあります?」

「いや~、三年でもモモちゃん呼びの人はいなかったわねぇ」

「誰も呼んでなかったですもんねー」

「呼んだらビンタがとんで来るかと思ってた!」

「あんたもやっぱそう思ってた! 実は私もー!」


 女子達が集まり、場が一気に騒がしくなる。話題の中心は百瀬の呼び方についてだった。その話の発端となった愛奈は驚きの声を上げる。


「ええっ! モモちゃん先輩って、モモちゃん先輩って呼ばれていないんですか!?」

「そうなんだよー。コイツらいっつも余所余所しくってよ~」


 百瀬が悲しそうな表情を浮かべる。だがその表情は少しオーバーで部員達には作ったものだとすぐに分かった。


「いやいや、百瀬先輩が泣き落としって似合ってないですよ」

「百瀬先輩はモモちゃんよりも〝ゴリさん〟って感じだしー」

「おういい度胸だな、お前たち!」


 じゃれあいの範囲とは言え、あまりの言われ様に百瀬がちょっと怒りだす。


「えー、モモちゃん先輩はかっこいいから良いんじゃないですか~!」


 愛奈の一言に部員たちが一瞬きょとんとした表情を浮かべ、言葉が止まる。


「あ、あれ? えっと……」


 まさかいきなり全員が静かになるとは思っていなかった愛奈はその反応に戸惑いを覚える。そして部員が愛奈を取り囲み、さらに愛奈は混乱する。


「え、えええっと! 皆さん!? うわぁっ!」

「まーでも実際、〝モモちゃん〟呼びを聞いてみたら案外アリかも」

「ホントに言ってる子がいるとはねー。意外と度胸あるわね! 胸も大きいわね!」

「本人もまんざらでも無さそうだし~。ねー〝モモちゃん先輩〟!」

「あえてギャップを楽しむのも面白そう! あははっ、怖い顔しないでよ〝モモちゃん先輩〟!」

「お、おう……いや、怖い顔はしてないぞ!……ふふっ」


 部員が思い思いに愛奈の頭をわしゃわしゃとなでる。そうして部員たちに〝モモちゃん〟呼びが浸透していく。

 百瀬も最初は驚いていたが、〝モモちゃん〟と呼ばれることを嬉しそうにしていた。


「か、髪はやめてください~」


 ちょっと迷惑そうにしていたが、愛奈も嬉しそうだった。





「愛奈っちお帰り~」


 バスケ部の先輩方に囲まれていた愛奈はやっと解放された。


「うぅ、わたしのツインテールが~」


 愛奈は乱れた髪を気にして、手櫛で髪を整えていた。


「あっはっは、活躍した証拠だよ」

「……愛奈にしてはよくやった……」

「いやいや、伊吹っちは結局無得点だったじゃん」


 響華と伊吹が改めて愛奈の活躍を誉めたが、伊吹の上からの態度に響華が突っ込みを入れる。結局最初のジャンプシュート以降も伊吹は何回かシュートを放ったが全て得点には結びついていなかった。


「でも伊吹ちゃんはスティールとかパスとか凄かったよ! あれだよね、〝幻のシックスマン〟ってやつだね!」

「バスケは五人でするものでしょ愛奈っち~。シックスマンじゃ六人であふれちゃうっしょ」


 愛奈は有名なバスケマンガを思い浮かべながら伊吹の活躍をなぞらえる。だが響華には通じなかった。


「あ、あれ。そうだね……シックスマンってどういう意味なんだろ?」

「ベンチスタートだが、スタメンに劣らない選手をシックスマンと呼んだりするんだよ」

「モモちゃん先輩!」


 指摘を入れられてうろたえる愛奈に、百瀬が補足を入れた。


「そうなんですねー」

「……あたしは知ってたし……」

「いや、伊吹っちも愛奈っちと同じようによく分からないって感じの顔してたっしょ」

「……あたしの活躍は分かる人にしか分からないのさ……」

「セリフも活躍も渋いね、伊吹ちゃん!」


 百瀬の補足に感心する響華にドやる伊吹。改めて突っ込まれたが、伊吹はよく分からないセリフと共に煙に巻こうとした。愛奈は巻かれていた。


「いやいや、意味わからないし……って、あれっ?」


 和気あいあいとしていた響華たち。そこに唯一輪に加わっていなかった青木が近づいて来た。眉根を寄せ、口をへの字に固く結んだ表情をしていた。


「なーに、あーしらに何か文句でもあるの?」


 響華が青木に警戒感を出して告げる。愛奈と伊吹も声は出さなかったが同様に青木に警戒感をにじませる。


「悪かったね。チビとか馬鹿にして……それだけだよ」


 青木はそれだけ言うと言い終えると、気まずそうに目を合わせることなく、そそくさと背を向けて離れていった。



「やったよ伊吹ちゃん! わたしたち〝チビーず〟の勝利だよ!」


 愛奈は目的であった青木に認めさせたことを勝利と誇り、伊吹と喜びを分かち合おうとする。


「……あたしはチビじゃないし。愛奈とは違う……」

「愛奈っち……チビって言われて怒ってたんじゃないの……?」


 自らチビと言った愛奈に伊吹と響華は呆れた様子を見せた。


「ああっ! そ、そうだった! わたしたち……えーと、そう! 〝デカーず〟の勝利だよ!」


 〝チビーず〟改め〝デカーず〟と自分たちを称する愛奈。


「チビは嫌だからって、いきなりデカは安直っしょ……それに愛奈っちがデカいはちょっと無理があるかなー」

「……デカいのは愛奈の胸だけ。ちっ、デカ乳め……」

「あああっ! えーと、えーとぉ……」


 適当すぎるネーミング変更に呆れを強くする響華。愛奈の大きい胸を恨めしそうに見る伊吹。愛奈は双方の視線に耐えられず続きを何か言おうとしたが、結局何も思い浮かばなかった。



「三人ともバスケは上手いし面白いな! ウチの部に入ってもらいたいもんだ!」


 百瀬が響華たちに声をかけて改めて入部を勧める。他の部員も「オススメだよー」、「一緒にバスケやろー」などと誘ってくる。


「あーしら体験入部巡り中だから、入るかどうかは分かんないっすよー」

「ははは! そうか、まぁ考えておいてくれ」


 残念ながら望み薄かと感じた百瀬。強引に勧誘しても逆効果と感じて引くことにした。


「あ、モモちゃん先輩! あっちに一年生が来てますよ。体験入部の希望者かもしれませんよ」

「お、本当だ。さっきまで端で見ているだけだったが、朝丘たちの活躍を見てやってみようという気になってくれたかな?」

「……見世物にされた。賃金を要求したい……」

「わたしたちの試合がモモちゃん先輩たちの役に立てたのなら嬉しいです!」

「はっはっは! 賃金は渡せないが、良い宣伝になったよ」


 離れたところにいた五、六人の女子達。新入生らしい初々しい雰囲気が感じられる。「私たちも体験入部いいですか!」と言っているのが愛奈たちにも聞こえた。


「……次、行く。じゃあね……」

「そだねー。そろそろ行こっか。バスケ部の皆さんありがとうございましたー!」

「モモちゃん先輩もまたね~。バスケ部の皆さん、楽しかったです! 青木さんもじゃあね~」


 伊吹、響華、愛奈はそれぞれバスケ部の面々に挨拶を行う。


「おう! またな、朝丘たち!……どこに行ったとしても、活躍を期待してるぞ!」

「ちっ。どうせなら他の部活でも目にもの見せてやれ!」


 百瀬と青木が三人に挨拶を返した。


 バスケットコートの喧騒とボールの跳ねる音を背に――三人は笑い合いながら、次なる部活へと軽やかに歩き出した。


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