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瑞葉の学び舎④

「お~! ここも賑やかだね!」

「……音が反響してうるさい……」

「さてさてー、そろそろ本格的に体験してみましょうかね~」


 部活動の体験入部巡りのため、体育館にやってきた愛奈、伊吹、響華の三人。


「お、朝丘じゃん! お前も瑞葉に入ったのか」


 体育館で部活の宣伝を行っていた女子生徒の一人が愛奈を見つけて話しかけてきた。その女子生徒は体操着の上にゼッケンを身につけており、片手にはバスケットボールを抱えていた。


「あ、モモちゃん先輩だー! お久しぶりです!」

「相変わらずのツインテールだなー。胸はさらにデカくなったな!」

「ツインテールはわたしの〝あいでんてぃてぃ〟ですからっ!」


 愛奈は胸を反らしながら誇らしげにツインテールを揺らす。なお、一緒に揺れた大きな胸の事は意図的に無視した。


「なになに~、愛奈っちの知り合い?」

「うん! この人は百瀬(ももせ)先輩! 二つ上の先輩だよ。わたしはモモちゃん先輩って呼んでる」

「三年の百瀬だ。私のことはモモちゃんと呼んでくれていいぞー」


 そう言って百瀬は気さくに手を上げた。男子と比較しても長身であり、短く刈り上げた髪に、鋭い目つきと整った眉。女子にはめずらしく強面な雰囲気で、いきなり〝モモちゃん先輩〟と呼ぶのにはちょっと勇気がいる。


「一年の天雷です! よろしくおねがいします!」

「……同じく、風谷です……」

「そんな硬くなんなくって大丈夫だって! 気軽にモモちゃんで良いんだぞ!」

「いや~、あははー……(ちょ、顔こわっ……て言えないわコレ……)」

「モモちゃん先輩! 初対面じゃ難しいですよ!」


 その風貌に驚いて響華はつい硬い返事をしてしまった。だが愛奈がその空気を和らげてくれた。


(意外と愛奈っちって、ああいうとこ上手いのよね~)


 百瀬は自分のいかつい風貌を気にしているのかもしれない。そんな中でも怖がらずに〝ちゃん〟付けで純粋に慕ってくれる。百瀬にとって愛奈は可愛い後輩なのかもしれない。短いやり取りではあるが、そんな風に見えた響華であった。


 なお、ほぼ存在が取り上げられなかった伊吹だが、本人はまるで気にする様子もなく、愛奈たちを観察していた。



「ところで朝丘たち、暇ならウチに寄ってかないか?」


 百瀬は背後のバスケットコートの方を体を向けて示した。女子バスケ部の体験入部のお誘いだ。


「どうする響華ちゃん? やってみる?」

「やるやる~。ってか、そのために来たっしょ! ほらー伊吹っちー、こっち来ーい」

「……うぃ……」


 響華は百瀬に対してちょっと臆し気味だったが、本来の目的である体験入部をすることに関してはノリ気だ。我関せずな態度だった伊吹も呼び寄せた。


「おお、三人いたのか! 体験入部は五対五の試合を五分やってみる感じだ」

「じゃあわたしたち三人は一緒のチームでお願いします。モモちゃん先輩も一緒にやりましょうよ!」

「お、誘ってくれるかい。私も一緒でいいかな?」

「お、お願いしますっ!」


 チーム分けに関して愛奈から希望が出たため、百瀬は念のため響華に確認を取った。

 その後は百瀬が適当にバスケ部の部員を指名して、体験入部用に一つ空けていたコートで五対五の試合が行われることになった。





「わたしたちは赤チームだね! ……うん、しょっと。みんな、がんばろうね!」

「……あぁ、ん……」


 愛奈は手渡されたゼッケンの色を確認して袖を通す。胸のところが引っかかり、少し着にくそうにしていたのを伊吹はジトっと見ていた。


「愛奈っちはやる気にあふれてますな~。あちらさんは青チームだね」


 響華も軽口を叩きながらゼッケンを着て、別に集まっている一団のゼッケンの色を確認した。


「……それじゃあ、集まる……」


 全員がゼッケンを着終わり、伊吹の言った通り、両チームのメンバーがバスケットコートの中央に集まった。



「青チームのみなさん! 今日はよろしくおねがいします!」


 メンバーが中央に集まった後、愛奈は相手チームのメンバーに頭を下げた。


「うわっ、ちっさっ……ぶふっ……」

「ほあっ!?」


 いきなり相手チームのメンバーに失笑されて固まる愛奈。


「……愛奈、言われてる。ぷぷっ……」

「こっちもじゃん。チビ二人とか、笑えるっ」

「……ほあっ……!?」


 固まった愛奈をからかった伊吹。だが同じように失笑され、同じように伊吹も固まった。


「おい青木、体験入部に来てくれた人に失礼だろう!」

「はいはい、済みませんね。百瀬先輩」

「いや、私にじゃなくてだな!……あぁ、ったく……」


 青木と呼ばれた青チームのバスケ部員は百瀬の注意も適当にあしらい、舌打ち混じりに視線を逸らして去っていった。



「すまんな青木の奴、最近ちょっと調子に乗っていて……うおっ!?」


 百瀬が青木の態度を代わりに詫びようとした。しかし、振り返って驚きの声を上げる。


「あいつ! 絶対ぎゃふんと言わせようぜ! 伊吹ちゃん!」

「……おう! やるぜ愛奈……!」


 その失礼な態度に愛奈と伊吹のやる気に火が付いた。二人の背後に、謎の火柱が立ち上がる勢いで闘志が燃え上がった!――もちろん、心の中での話である。


「おーい、二人とも~。キャラが少し変わっちゃってますよー」


 やる気に燃えている二人に響華の言葉は届かなかった。





「最初のボールはわたしが跳ぶ! どいて、伊吹ちゃん!」

「……いいや、あたしが取る。愛奈がどく……!」


 バスケの試合の最初に行われるジャンプボール。その役目を取り合いもみ合う愛奈と伊吹。

 背の高さが重要なのに、無駄に燃える二人のやる気は空回る。


「やる気があって頼もしいな! よし、天雷! 頼んだぞ!」

「はいはーい」

「あーっ! なんでっ!?」

(さすがに愛奈っちの背の高さじゃ無理だよね~。伊吹っちも大して変わんないし~)


 百瀬は二人のやる気を買いつつも、ジャンプボールは比較的背の高い響華に任せた。響華も口には出さなかったが二人には任せられないのでジャンプボールを引き受けることにした。そして愛奈が文句を叫ぶ。


「なんでですか! モモちゃん先輩!」

「朝丘は切り込む役だ。天雷がジャンプボールを取ったら速攻だ!」

「なるほど、そういうことですね! さすがモモちゃん先輩です!」


 愛奈の文句を百瀬は軽くあしらいつつ、空回りしないように適した役割を与える。


「守りは私らに任せて、お前たちはガンガン攻めていけー」


 百瀬ともう一人のバスケ部員は主に守りを担当する姿勢を見せた。体験入部に来てくれた人に攻撃を任せ、バスケの楽しさを知ってもらおうという狙いのようだ。


「大丈夫だよモモちゃん先輩! 私たちだって守りにも参加しますよ!」

「どうせやるなら、どっちもやっとかないと損っしょ!」


 愛奈と響華は守りにも参加する姿勢を見せた。


「そうか、好きに動いて楽しんでくれ! 遠慮はいらないぞ!」


 百瀬は最後にそう言って、赤チームのポジショニングが決まった。





 部活動でにぎわう放課後。体育館のある一角だけが、切り離されたように静寂が支配していた。緊張した面持ちで十人が散り散りに円を囲み、全員が中央に集中する。そして、中心にいる一人がゆっくりとボールを高く放り投げ――静寂が喧騒に反転する。


「ほっ……と! いよっしゃ! あーしやるぅ!」


 上げられたボールが速度を失い最高到達点に達した時、響華がボールを叩く音が響いた。着地した響華は自身の成果を誇る。


「……やるじゃん、響華……」

「ナイスジャンプだ天雷! そら」


 ジャンプボールの出番を取られ、ぶすっとした態度だった伊吹だが、響華が先にボールを叩いたことに納得の声を出す。そして、弾かれたボールを取った百瀬は前にパスを出した。


「……えっ!? ちょ、うお……!」


 自分にボールが来ると思っていなかった伊吹が慌ててボールを受け取った。しかし、捕球体勢が悪くてすぐに動けなかったため、青チームの選手に囲まれてしまった。


「伊吹ちゃん! パス、パス! プァァァッス!!」

「……いや、ちょ、無理無理……」


 愛奈はギラギラした表情でボールを受け取るために伊吹の方に近づいた。だが、相手選手が二人がかりで伊吹を取り囲んでいる。ボールを奪おうと伸ばされる手をかわすのに精一杯なため、パスを出す隙が無い。


「……うがぁっ……!」

「あっ! ディフェンスーっ!」


 伊吹の腕をかすめた青チームの選手の手が、ボールに触れた――その瞬間、無情にもボールは伊吹の手を離れ、コートに転がった。

 そのボールを青チームの選手が拾い、赤チームのコートに走りだす。愛奈は赤チームに守備に戻るように声を上げた。

 赤チームのコートはバスケ部員二人が守っていて、青チームの勢いがすぐに止まる。そこに愛奈と響華も加わり、赤チームの守備隊形が整う。


「あれ、伊吹ちゃんは?……って」


 赤チームのディフェンスは四人。一人足りない伊吹を愛奈は探す。そして、コート中央付近のサイドライン際にいるのを見つけた。

 見つけられたと分かった伊吹はゆったりとポーズを取る――サムズアップだ。


「……がんばっ……」

「伊吹ちゃん! ディフェンスする気ないの!?」


 ポーズの意味を理解し、愛奈は驚きと共に伊吹に突っ込みを入れる。


「カウンター用に一人残しておくのも……ま、ありっしょ」

「そーだけど! 伊吹ちゃん絶対ディフェンスやりたくないだけだよね!」


 戦術的に採用価値のある策なのは分かる。しかし、どう見てもそういう態度には見えなかった。


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