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忍び寄る影、打ち払う光⑦

(やった……! うまくできた! あいつを騙せたんだ!)


 リーフィラと立てた作戦が想像通りに行った。そのことが嬉しくてつい顔に出そうになる。だがまだ勝ったわけではない。一度ダメージを与えただけ。

 茂みの中で【回復(ヒール)】の魔法を使ったが、相手に位置がバレる訳にはいかなかったため、詠唱せずに使用したため大した効果は得られず、気休め程度の回復にしかならなかった。


「これで……戦える!」


 だが【回復(ヒール)】のお陰で痛みはかなりマシになった。無傷の時ほど素早く動くことはできないが、今は問題ない。相手はまだ動揺している。冷静さを取り戻させる前に押し切りたい。そう考え、ピュリステラ・ハーティアは駆け出した。





(一体、何ガ起キタッテンダ!?)


 一方、ガドボークは混乱から立ち直れていなかった。ピュリステラ・ハーティアが近くまで来てまた盾の陰に隠れる。


(ドッチカラ来ル!? ドウヤッテ盾ヲスリ抜ケタ!?)


 左は肩の眼で見張る。右は肩の眼を切られたので頭で確認する。どちらから来ても対応はできる。


(左カ! マタカ!)


 先ほど同じく左から出てきた。左に盾を動かそうとして動きが固まる。先ほどと同じように右から攻撃を受けるかもしれない。

 しかし、左から抜けられて肩の眼を切られる訳にはいかない。そう考えて急いで盾を左に向け、体もそちらへ向けた――その瞬間、ガドボークは見た。


(コイツ! ソノ場デ動イテ無イ? 左ニイタノハ――)


 そこまで考えた時、ガドボークの右腕が深く切られた。切られた箇所から黒い染みのように瘴気が漏れだす。


「ガアッ! テメェ!」


 急いで体勢を立て直す。相手の攻撃の種は分かった。次に接近してきたときには返り討ちにしてやるとガドボークは考え――


「グアッ! ガキメッ! マダ近クニ居タノカ!」


 左肩の瞳を切られた。今まで一撃離脱しかしてこなかったピュリステラ・ハーティア。しかし、今が攻め時と考え、右腕を切った後も離れずにスキを伺っていた。

 ガドボークが離れたであろうピュリステラ・ハーティアを探して視線を上げた際の死角に潜り込み、左肩の瞳を切り裂いた。


「グソガッ!」


 ガドボークは左側にいるピュリステラ・ハーティアに向けて盾を振り回して攻撃する。だが、ピュリステラ・ハーティアはすでに離脱しており攻撃は空振りした。


「フザケヤガッテ……!」


 ガドボークは憤慨する。相手はチビで未熟な聖騎士。何もできずに吹き飛ばされて喰われて糧になるはずだ。そうなる一歩手前だったはず。それなのにそれが笑みを浮かべながらガドボークを見ている。もう負けることは無いと言わんばかにピンク色の瞳を輝かせている。


(ダガ種ハ分カッテイル。次デ返リ討チニシテヤル!)


 ガドボークは魔力を高めながら相手が次に仕掛けてくるのを待った。





◇◇◇





 ガドボークが魔力をゆっくりと高めている。次に接近した時に合わせて何かをするつもりだ。


「もうバレちゃったかなぁ。【幻影(ミラージュ)】の魔法……」


 ピュリステラ・ハーティアが小さく呟く。ガドボークの盾をすり抜けた手段。それは新たに習得した魔法【幻影(ミラージュ)】によるものだった。

 【幻影(ミラージュ)】により自身の残像を生み出し、それを相手に見せることによって相手をかく乱した。ちょっと前にフロギー達に似たようなことをやられたのだ。その厄介さは身をもって知っている。


(リーフィラが言ってた。わたしは光の属性を持っているって)


 だからリーフィラに確認した。分身が作れるような魔法は無いか、それを使うことはできないかと。

 リーフィラは答えてくれた。そういう魔法はあると。光の属性を持っているピュリステラ・ハーティアなら使うことができるだろうと、本物と見分けがつかない幻影を動かせると。


「サッサト来ヤガレ! クソチビガ!」

「なっ!? もう! ……その体、見せかけだけで意外と柔らかいんだね!」

「ナンダトォ!」


 チビと言われてムッとしてしまい言い返してしまった。意外と効いているようだ。


「だからそんな盾で守ってるんだね!」


 ついでにもう一言言ってやってから地面を蹴る。


(決着をつけてやるんだからっ!)





「はあっ!」


 ピュリステラ・ハーティアはガドボークの盾の死角に潜り込む。近づきすぎてシールドバッシュを受けない距離は保つ。


「【幻影(ミラージュ)】!」


 ガドボークは気づいているかもしれないが、念のためバレないように魔法を小さい声で唱える。そして左右に分かれた。ガドボークの肩の眼は両方とも切りつけた。どちらから攻めてもガドボークの反応は遅れると考えて。


「ナメルナァ!」


 ガドボークは叫びながら持っていた盾を両手で持ち上げた。その開けた視界に、盾の陰にいた二人のピュリステラ・ハーティアを見つけた。


「なっ!?」


 ガドボークの行動に虚を突かれ、二人のピュリステラ・ハーティアの足が一瞬止まる。


「ドッチガ本物カナンテ関係ネェ!」


 ガドボークは持ち上げた盾を地面に叩きつけた。面を下にして叩きつけた。その衝撃で二人のピュリステラ・ハーティアが体勢を崩した。


「吹キ飛ビヤガレ! 【爆破(ブラスト・ボム)】!」


 ガドボークは貯めていた魔力を解放して盾の先から【爆破(ブラスト・ボム)】の魔法を放つ。


「きゃああっ!」


 【爆破(ブラスト・ボム)】の衝撃が周囲に広がり二人のピュリステラ・ハーティアが吹き飛ばされる。盾の上に乗ったガドボークは反動で高く跳ぶ。


「ザマアミヤガレッ!」


 空中で下を確認するガドボーク。二人のピュリステラ・ハーティアがうずくまっており、そのうち片方が幻のように消えた。


「テメェガ本物カァァ!」


 着地までは少し時間がかかる。その間にまた隠れられたら探すのが面倒だ。


「潰レヤガレ!」


 ガドボークは空中で態勢を変え、足元に抱えていた巨大な盾を振りかぶって投げ飛ばす。もう身を守る必要はない。あのチビな聖契士を潰せれば、それで終わるのだから。


「あぐぅ……げほっ……」


 地面でうずくまっていたピュリステラ・ハーティアがうめき声を上げている。その身体に盾が迫る――


「――なんてねっ! べ~っ」


 すぐに身体を起こした。まるで怪我などないように。

 盾に潰される直前、ガドボークに対してピュリステラ・ハーティアはぺろりと舌をだした。その後、幻のように消えた――淡い桃色の粒子を残して。





「マサカッ! 両方偽物ダトッ!?」


 盾で潰して終わりと思った。だが潰れたと思った瞬間に幻のように消えた。ご丁寧に挑発してから消え去った。


「はあああああああぁっ!」


 跳んでいるガドボークの更に上空から叫ぶ声が響く。ガドボークは身体を捻り空を見上げる。


「フザケルナッ! クソチビガァァアッッ!」


 ただ悪態を吐くガドボーク。その身を守るものは――もう持っていない。



(この一撃で……)


 ピュリステラ・ハーティアは空中で剣を上段に構え、魔力を込める。

 星光の剣(ステラキャリバー)が桜色の光を舞い散らし、輝きを咲かせる。


(終わらせる!)


 空に一点の星が輝く。強く、桜色に輝く星が。


「スターライト・スラッァァァシュ!!」


 上段に構えた星光の剣(ステラキャリバー)を斜めに振り下ろす。込められた魔力が剣閃となり軌跡を残しながらバケモノへと放たれる。桜色の軌跡は星屑のように煌めき、空間に光のしぶきを描く。


「グギギャァァアアァッッ!」


 肩口から腰に掛けて両断されたガドボークは断末魔を上げ、黒い染みをまき散らした。





「アァッッ! アァッッ! オレ様ノッ! 瘴気ガッ!」


 ガドボークは真っ二つに切り裂かれ、断面から黒い染みが勢いよく吹き出ている。止まる気配は、もう無い。


「……コンナガキニッ…………アンナチビニィ…………アアッ」


 地面を暴れもがくガドボーク。だがその動きは、叫びは段々と鈍くなっていく。


「アアッ……申シ訳……ア……マ……セン、……ァ……ド……サマァ……」


 最後には何かに謝罪するような言葉を残しガドボークの体は全て黒い染みとなった。黒い染みはやがて漂白され、空気に溶けていった。跡には黒い結晶が残されていた。




「はあっ! はあっ!…っんっ!」


 大技を放った反動がピュリステラ・ハーティアに訪れる。肩を大きく動かし苦しそうに呼吸し、全身から汗が流れ出る。


「よく……やってくれたわ。ピュリステラ・ハーティア」


 リーフィラが近づき、言葉を紡ぐ。だが、その表情はいつもの誇らしげな顔ではなかった。


「ありがとっ……リーフィラ。でも、どうしたの……? 疲れたような、顔をして」


 息を整えながら答えるピュリステラ・ハーティア。その指摘通り、リーフィラは少し憔悴した雰囲気を出していた。


「あなたに騙されたのよ。盾に潰されそうになったあなたを見て、心臓が止まるかと思ったわよ」

「リーフィラも驚いてくれたの! わたし、意外と手品の才能あるのかな!?」


 騙せたのはガドボークだけではなかったようだ。そのことにちょっと気分が良くなるピュリステラ・ハーティア。


「あなたねぇ……ま、今回はいいわ。それにしても最後は良く分かったわね。あれってガドボークが跳ぶって分かってたんでしょう?」


 最後の攻撃、あれは完全に相手が空中にいることを想定した動きに見えた。


「あ、うん。……最初に襲われた時、あの侵魔って上から襲ってきたから。でも戦ってる最中はあんまり動こうとしてなかった。なんでかなって思って。最後くらいは使って来るんじゃないかなって思ったの」

「ハーティア……」


 正直リーフィラはそこまでピュリステラ・ハーティアが考えているとは思っていなかった。しかし、聞いていると確信があったわけでは無いようだ。


「あなたって……見た目に寄らず、結構ギャンブラーね」

「ええっ! そんなことないよ! わたしはお姉ちゃんと安定した生活をしてきたってば!」

「あはっ。敵の狙いを読み切ったのは確かね。今日のあなたはやっぱり鋭いわね」

「今日だけじゃないし! いっつも鋭いもん!」


 戦いが終わり、いつもの調子で言い合う二人。魔結界の暗かった空にも光が差し込んでいた。





『無事だったか! ハーティアくん!』

「うわぁっ!」


 いきなりダリウスの声が響いて驚きの声が出てしまったピュリステラ・ハーティア。

 目の前にホログラム的なスクリーンが現れ、そこにダリウスと他二人の顔が映し出された。


『先ほどテレパシーが通じやすくなってね! 皆の状態を確認したくてね。映像付きのテレパシーを……』


 そこでダリウスの言葉は止まった。だが、皆の確認のためと言っていた。つまりこの画面に映っている知らない二人は――


「あ! もしかしてジュードさんとヨルシアさんですか! 良かった! 無事だったんですね!」

「え、あ……はい。お陰様で……なんとか全員、無事でして……」


 だが二人の反応は薄かった。


「あれ? 認識阻害……かな?」


 二人に対して姿の認識阻害を解除するように心の中で変身システムさんにお願いした。だが、ヨルシアやダリウスの態度はあまり変わったようには見えなかった。


「お~、お嬢ちゃんがそうなのか~。いやしかし、生き残って良かったわぁ! こんな立派なモン見れるたぁな~。いやぁ福眼、福眼!」


 軽薄そうな男性がこちらを拝んできた。声や話し方的にこの人がジュードで間違いないだろう。しかし――


(立派なもの? 福眼ってどういう意味?)


 何を言っているのか良くわからなかった。しかし、自分の姿を見て拝んだようだ。そう思い自分の身体を見下ろしてみて――固まった。


 元々際どい格好のピュリステラ・ハーティアの衣装(コスチューム)。しかも今はボロボロだ。特にガドボークの【爆破(ブラスト・ボム)】を受けた側が危ない状態だ。


 トップスは破れており、布切れが胸にかかる程度で横どころか下まで胸が見えている。

 ボトムスに至ってはスカートどころか金属製のベルトも砕けており、パンツが今にも千切れそう。


「あっ……!」


 そう思っていたら千切れた。そしてパンツが落ちた。パサっと落ちた。冗談みたいに落ちた。


「イヤアァァァァ! なんで! なんで今落ちたの!?」


 ピュリステラ・ハーティアはしゃがみ込む。片手で胸を隠し、もう片手でスカートを引っ張って身体を必死に隠そうとする。


「カメラ! なんでこっち向くの!? あっち向いてってばぁぁぁ!」


 ご丁寧にテレパシー用のスクリーンがピュリステラ・ハーティアが見やすいように傾いた。つまり、スクリーンのカメラが彼女の全身をくまなく映すように、わざわざ向きを変えたということだ。


「テレパシー切って! 切ってください~~!」


 顔を真っ赤にして必死に叫ぶ。しかし、二人は固まっており、もう一人は拝み続けるだけ。ピュリステラ・ハーティアの声が虚しく響き続けるだけだった――





――お姉ちゃん。わたし、がんばってるよ。

 お姉ちゃんは眠っちゃったけど、わたしは独りじゃない。

 支えてくれる人たちがいる。頼りになるパートナーもいる。

 怖いバケモノも、痛いことも……乗り越えられた。

 だから、起きたら話をしようね。いっぱいお話しようね。

 詳しい事は言えないけれど、できればたくさん褒めて欲しいなって。

 憧れだった魔法少女になれちゃった。――でも、それはナイショだよ。

 だってこの衣装(コスチューム)……ちょっぴり恥ずかしいんだもん――


ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白いと思ったり、愛奈のことをカワイイと思って頂けましたら、

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