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忍び寄る影、打ち払う光⑤

『ゲェィ! ゲゲゲッ!』


 星光の剣(ステラキャリバー)を警戒して下級侵魔〝フロギー〟達が騒ぎ出した。喉を鳴らし、泡立つような唾を垂らしながら威嚇をする。


「来ないなら……こっちから行くよ!」


 フロギー達は威嚇を行うばかりで攻撃を仕掛けてくる雰囲気が感じられなかった。そのため、ピュリステラ・ハーティアの方から戦端を切り出す。


「はあっ!」


 一気に駆け出す。薄紅の粒子を置き去りにして。


「せやぁぁ!」


 ピュリステラ・ハーティアの速度に、フロギーたちはまるで反応できていなかった。懐に潜り込み斜め下から上に切り上げる。


『ゲェェアァァ……』


 切られた箇所から黒い染みを噴き出してフロギーが後ろに倒れる。横にいたフロギーがようやく動き出した。


(頭を後ろに引っ込めた!? 口を閉じてる!)


 一瞬、炎を吐き出して来るのかと警戒した。しかし、フロギーの口元には魔力が収束している気配は無い。


(魔法の気配は無い! だったら来るのは…!)


 ビュッ!と風切り音が響き。何かがピュリステラ・ハーティアに向けて飛んできた。


「見えてるよっ!」


 フロギーが飛ばしてきたのは、その長い舌だ。それはピュリステラ・ハーティアの予想の通りだった。

 舌は鋭く槍のように突き出された。しかし、突きによる点の攻撃だったため、軽く身体を捻ることで回避する。


「危ないから――没収っ!」


 ピュリステラ・ハーティアは伸びた舌を切り落とした。


『ギョアアアッ!』

「隙だらけだねっ!」


 フロギーが動揺して叫び声を上げてうろたえる。その隙を見逃さずに腹部を横に深く薙ぎ払う。切られたフロギーは叫び声を上げたまま消えていった。


 早々に三体を倒したピュリステラ・ハーティア。しかし、相手も黙ってやられるだけでは無かった。


「うわっ! 重なってた!?」


 消えている最中のフロギーの真後ろに別のフロギーがいたようだ。まき散らされている黒い染みを目隠しにして真っ直ぐに突っ切ってピュリステラ・ハーティアに襲い掛かって来た。


「あぶなっ!」


 四体目のフロギーの振るう腕を紙一重で回避する。しかし、殴りかかって来たフロギーの更に後ろにもう一体別のフロギーが紛れていた。


「もう一体!?」


 今度は避けられなかった。先ほど無理に回避したため体勢が悪かった。五体目のフロギーが振るってきた拳がピュリステラ・ハーティアを捉える。


「きゃあぁっ!」

「ハーティア!」


 下から上に振るわれた拳により身体の小さなピュリステラ・ハーティアは吹き飛ばされた。そのことにリーフィラが名前を叫ぶ。


「くっ……!いったっ……」


 なんとか着地したピュリステラ・ハーティア。脇腹の鈍い痛みにわずかに顔をしかめた。だが、すぐに視線を敵に戻す。


(一体がいない!?)


 視界にとらえられたのは一体のみ。すぐにもう一体を探し始めようとする。


(足音!左の方!)


 目ではなく、耳が居場所を捉えた。すぐにそちらの方を向く。


「あの格好は……!」


 四体目のフロギーは口を閉じて頭を後ろに引いていた。体勢は崩れているが躱せないことは無いと足に力を入れようとした瞬間、背筋に悪寒が走り足を止める。


「同時にっ!?」


 五体目のフロギーを視界の端で確認する。こちらも口を閉じて頭を後ろに引いていた。それを確認すると同時に四体目のフロギーの舌が射出される。


「躱したら……狙い撃ちにされる!」


 五体目のフロギーからも舌が射出された。ピュリステラ・ハーティアは躱すことを止める。二本の舌がピュリステラ・ハーティアを貫かんと差し迫る。


(ほぼ同時、だけどほんの僅かにタイミングはズレている……だから!)

「てぇやあぁぁぁ!」


 横に一線、星光の剣(ステラキャリバー)を迷わず振り抜く。

 刹那、世界が止まったように感じた――そして、次の瞬間、桜色の閃光が宙を切り裂いた


(わたしは――負けられない!)

『ギョイイイィアアァッ!』


 二つの悲鳴が上がる。ピュリステラ・ハーティアは一閃で二つの舌を同時に切り裂いた。わずかにズレていたからこそ一振りで仕留められた。

 舌を切られたフロギーたちは口から泡をまき散らし、悲鳴を上げてのたうち回っていた。





◇◇◇





「ふぅ……もういないみたいだね」


 舌を切られたフロギーは戦意を喪失していた。その二体に止めを刺し、最初に蹴り飛ばした個体を含めて合計五体のフロギーを討伐した。討伐の証としてか、フロギーが消え去った場所には黒い小さな結晶が残っていた。


(ちょっと心苦しいけど……)


 侵魔とは言え、人間大の生物の命を取ったのだ。思うところがないわけではない。


(この衣装(コスチューム)が、わたしの心も守ってくれているのかな)


 下級と言われているがフロギーもバケモノだ。生身で相対したら足が竦んで何もできないだろう。

 そんな相手に立ち向かう勇気をこの衣装(コスチューム)はくれる。恐らく同時に、ただの少女である愛奈の心も守ってくれているのだろう。首元のハート型の結晶にそっと手を添えて物思いにふける。


「まぁ……血や死体が出ないってのも、マシな理由かな」

「いきなり物騒なこと言わないでよね」

「リーフィラ! いや、これはっ、違くって……!」


 独り言として呟いた言葉をリーフィラに拾われてしまった。慌ててワタワタと言い訳を始めるピュリステラ・ハーティア。


(こういう時にも役に立って~わたしの衣装(コスチューム)! 変身システムさーん! 冷静でかっこ良くてついでに背の高いわたしにしてよぉ!)


 残念ながら、いくら衣装(コスチューム)でも全て都合良くとはいかないようだ。



「あはっ。冗談よ。でもあの一瞬で回避ではなく同時に舌を切り落とす判断をして、それを実行してみせた。本当に素晴らしかったわよ。ピュリステラ・ハーティア」

「本当……? 攻撃受けちゃったし、最後はちょっと危なかったかもって……」


 リーフィラが戦いの内容を誉めてくれた。しかし、ピュリステラ・ハーティアにとっては反省すべき内容のある戦いだった。


「ちゃんと冷静に対処できたじゃない。能力任せの力押しだけで勝つよりも良いことよ」

「そ、そうかなぁ。あ、でも最後の一振りはわたしもすっごく良かったと思う! 実はスマホで動画撮ってたりしない? ね、リーフィラ!」


 最後の一振りに自画自賛のピュリステラ・ハーティア。先ほどの動きを思い出すかのように剣を振りなおして決め顔を作る。達人のような動きができたのだ。動画にして投稿すればバズれるはずとテンションが上がってツインテールが跳ねる。


「遊びじゃないんだからそんなことしてないわよ……そもそも魔結界の中なんだから電子機器はまともに動かないし、あなたの認識阻害で動画には映らないわ」

「ええっ! そんな~。じゃあ誰もわたしの活躍を見られないってコト!?」


 二つの意味で動画は無いと分かりガックリする。


「でも、魔法少女だもんね。やっぱり動画はダメだよね!」


 魔法少女とは人知れず悪と戦うものだ。動画で身バレなどもっての外と思い直した。

(それに、わたしはお姉ちゃんのために戦ってるんだもん。よそ見はダメ!)


 ピュリステラ・ハーティアは本来の目的を思い直して自分に喝を入れた。



「それにしてもあのフロギー達、ただの下級侵魔の割に無駄に知恵があったわね」

「えっ!そうなの!」


 リーフィラが少し悩むようにフロギー達を評価した。


「下級侵魔って本来は本能的にしか動かない……はずなのよねぇ。でもあのフロギー達は連携して攻撃してきたわ」

「確かに! 倒したと思ったら後ろから同じ顔のやつが出て来たり、攻撃よけても同じ顔のやつが出てきて攻撃してくるんだもん。分身かと思ったら全部本物でしたーって感じでちょっとズルかったよね!」

「同じ顔のやつって、あなたねぇ。下級侵魔に見た目の個性なんてほとんどないけれど……」


 下級侵魔と戦うのは初めてなのだ。知恵の有無に関しての違和感はピュリステラ・ハーティアには無いのだろう。あるいは、星聖樹の記憶が誤っている可能性もある。

 下手に敵を侮って痛い目を見るよりは、最初に強い個体と当たって警戒する方がよほどマシと考え、リーフィラはこれ以上は言わなかった。





「少し、変ね……」

「どうしたの、リーフィラ?」


 リーフィラが違和感を覚えて辺りを見回す。


「この魔結界の中にいたのはフロギー達だけ。全員倒したのに魔結界が崩れる気配がしないのよ」

「フロギーがまだいるのかな!?」


 ピュリステラ・ハーティアは少し警戒しながら辺りを見回す。


「でもいないわね。気にはなるけど魔結界なんて残しておけないわ。ダリウスに連絡してから浄化を使って魔結界を壊しましょう」

「わかった。じゃあ、ダリウスさんに連絡するね!」


 ピュリステラ・ハーティアは片手を顔の横に持ってきて指を耳に沿える。


「…………」

「どうしたの? テレパシーのやり方はわかっているでしょう」


 なかなかテレパシーを行わないピュリステラ・ハーティアに問いかける。


「いや……なんていうか、さ……」

「なんていうか?」

「緊張するね!」

「いいから早くしなさいな……」


 大した理由ではないことに肩透かしをくらうリーフィラ。


「だって! いざ電話しようって思ったら、なんか緊張するじゃん!」


 首筋に緊張による汗が流れるピュリステラ・ハーティア。


「しないわよ。そもそも電話じゃなくてテレパシーでしょう」

「ほとんど同じだよぉ! う~、リーフィラが人の心を分かってくれない……」


 と、少し涙ぐんでみせた。だが、リーフィラが痺れを切らし初めている。すぐに涙を引っ込めた。


「わ、分かってるって! テレパシー、送信っ!」


 連絡が遅いのはよくない事だと分かっている。勢いで誤魔化してテレパシーを実行した。


『ハー……ア……ん…………じ……た……!』


 ダリウスとテレパシーがつながった。しかし、事前に聞いてはいたがノイズが激しい。


「もしもーし。ダリウスさん、聞こえますかー!」


 つながれーと念を込めながら話すと声がクリアになっていく。


『良かった! 連絡が取れて。こちらから何度も送ろうとしたんだが、全くつながらなくて!』

「ダリウスさん? 何かあったんですか!?」


 声は聞こえるようになった。しかし、ダリウスの声は慌てているのが分かる。ピュリステラ・ハーティアにも緊張が走る。


『他二つの班と連絡が途絶えたんだ! 気を付けてくれ。今回の魔結界は普通ではな……っ――』

「ダリウスさん!? ダリウスさーん!」


 ダリウスからの連絡が突然途絶えた。何度も呼びかけるが反応が返ってくる様子は無く――


「ハーティア! 上から!」


 リーフィラが声を上げる。大きく、しかも差し迫ったような声で。


「っ……!」


 ピュリステラ・ハーティアは前に大きく飛ぶ。己の感じた危機感を信じて――

 直後、背後から雷が着弾したかのような、轟音。


「きゃあ!」


 そのあまりの衝撃に身体の芯にまで衝撃が及ぶ。


「……くっ!」


 すぐさま体勢を立て直した。衝撃の中心は煙で中が分かりにくい。


「大丈夫!? ハーティア!」

「大丈夫だよ。リーフィラ」


 お互いの無事を確認する。ホッとするリーフィラ。しかし、ピュリステラ・ハーティアの顔は険しいまま、煙を睨み続けた。


 ようやく煙が収まりだしたころ、その中に大きな影が浮かび上がる。


「新たな、侵魔……」


 ピュリステラ・ハーティアは絞り出すように呟く。

 魔結界の空に、明かりはまだ一つも無い――


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