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この想いが、わたしの力⑨

「穴があったら……入りたい……」


 窓から光が差し込んでいる病院の談話室の中、負のオーラが幻視できそうなほどに陰気をまとう女の子がいた――愛奈である。

 すでに変身は解除しており、茶色が混じった黒色の髪に戻っていた。


「愛奈~、そろそろそこから出てきてー、ほらっ!」


 リーフィラが優しく愛奈に声をかける。


「やだ……リーフィラ、笑ったもん……」


 現在愛奈は談話室にあるテーブルの下で膝を抱えて丸くなっていた。膝と胸の間に顔をうずめているため表情はうかがえない。

 明るいはずの談話室であったが、テーブルの下だけは影だけでは説明できないほどに暗く見えた。


「愛奈~ごめんねー。ほらっ、何してるの! ダリウスからも言いなさい!」

「わ、私!? いや、そうだな。あ、愛奈くん。失敗は誰にでもある。そう落ち込む事でもないさ!」


 ダリウスが屈みこみ、テーブルの下にいる愛奈に話しかける。だが、愛奈には響かない。


「ダリウスさん……おとな……失敗しない……」


 愛奈にはダリウスが失敗する姿が想像できないようだ。そんな大人の人に失敗は誰にでもあると言われても信じられない。


「そんなことないさ。私もこの前コーヒーを持ちながら歩いていたら何もない所で躓いてしまってね。カップに入れていたコーヒーを全部カーペットに零してしまったんだ」


「……ダリウスさんでも……そういう事、あるの……?」


 愛奈が少し顔を上げ、ダリウスの方を見た。手ごたえを感じたダリウスは己の失敗談を続ける。


「何回もあるさ。コーヒーを零したときなんか、秘書の子の視線が冷たくていたたまれなかったよ。その後もその近くを通ると『なんだかコーヒーの香りがしますね』とチクチクと嫌味を言われてね」

「そうよ! その調子よダリウス!」


 リーフィラも愛奈に響いているのが分かり続きを促す。


「ぷいっ」

「愛奈っ!?」


 リーフィラのはやし立てる態度がお気に召さなかったようで、愛奈は再び顔をうずめる。


「精霊様は静かにしていてください」

「そ、そうね……」

「……ふふっ……」


 ダリウスによってリーフィラは注意される。尊大に敬意を払えと言っていたリーフィラが少し雑に対応された。そしてそれで引き下がるリーフィラを見たことにより、愛奈の溜飲が下がり小さく笑った。


 しかし、愛奈はまだテーブルの下から出てこない。そのため、ダリウスは話を続けた。


「それからというもの事務所でカップのコーヒーを持っているとその秘書の子が『今日は一段とコーヒーの臭いが充満してますね』とか『またカーペットにコーヒーをあげるんですか』と言われるようになってしまってね」


 ダリウスはその時の様子を思い出して、やれやれとため息を吐いた。


「結局、コーヒーはペットボトルのものに切り替えたよ。それでも許してくれなかったら、事務所のカーペットを自費で取り換えざるを得なくてね。お金は飛ぶわ、コーヒーの香りは楽しめなくなるわで散々だったよ」


 ダリウスは話し終えて、少し疲れたように乾いた笑いを出した。


「ダリウスさん……」

「人間なんて大なり小なり様々な失敗をするものさ。さあ、椅子に座って話をしようじゃないか」

「はい……わかりました……」


 ダリウスの説得が通じたことにより、愛奈はテーブルの下からおずおずと出てきた。


「~……」


 リーフィラが何か言おうとしたが、ダリウスは目線でそれを制した。





◇◇◇





「それで、愛奈くんが聖契士となったのはいつからだい?」

「えと……、昨日です」


 病院の談話室でダリウスと愛奈がテーブルを挟んで座って会話している。愛奈の機嫌は落ち着いたが、今一つ元気が無い。


「昨日、お姉ちゃんと……家に帰ろうとした時に、急にあたりがおかしくなって…それでバケモノが現れて……その次にあったこと……お姉ちゃんが――」


 愛奈の言葉は喉元で止まり、力なく俯いた。


「なるほど、それで優奈くんがああなってしまったという訳か」

「……はい……」


 おおよその事情を察知したダリウス。


「侵魔に襲われた時、愛奈が強く願ったことは〝お姉さんを助けたい〟と〝侵魔を退けたい〟の二つよ」

「侵魔と会ったのは、昨日が初めてですよね…!?」


 リーフィラが語った内容にダリウスが驚く。


「ですが、逆に納得できました。愛奈くんを聖契士に選んだ理由が」

「こんなにドジな……わたしが、ですか……?」


 すっかり自信を無くしてしまった愛奈は卑屈になってダリウスに尋ねる。


「我々でも侵魔と戦うとなるとかなりの覚悟が必要になる。侵魔と戦うならマナを効果的に使う必要がある。その中で特に重要となるのが『強い想い』だ」

「強い……想い……」

「そうだ。魔法を使うには技術も必要だが、それ以上に気持ちが重要なんだ。強い想いがあれば、それだけマナの流れも力強くなる。体内にある魔力だけでは不可能な大きなことも成せるようになる。君のような子こそ、大きな力を引き出せる可能性があるんだ」


 想い、意思、精神。これらが重要であることを昨日リーフィラからも聞いたと思い出し、愛奈はリーフィラの方を見た。


「そうよ、自信を持ちなさい愛奈。普段はドジかもしれないけど、昨日のあなたは聖契士の名に恥じない素晴らしいものだった。それは私が保証するわ!」


 リーフィラは己が事のように自慢気に話す。


「普段は、ドジ……」

「そ、そっちを受け取らないでー愛奈~」


 だが、卑屈な状態の愛奈は悪い方に受け取ってしまった。


「昨日、あの一帯の魔結界が消失したのが観測された。原因は分かっていなかったが、今までの話を聞くと、愛奈くんがやってくれたという事のようだね」

「魔結界……。あのバケモノが現れる前に辺りの様子が急におかしくなって……あれの事でしょうか?……確かにあのバケモノを倒した後、気が付いたら元の場所に戻っていた気がします」


 昨日の事だが、バケモノを倒したときは必死だったし、倒した後は姉である優奈の心配をしていた。そのため、周りの様子は細かく観察していなかった。


「魔結界に関してはその認識で大丈夫だ」

「愛奈はやる時はやるのよ。魔結界を展開していた侵魔は明らかに下級の侵魔じゃなかったわ。それでも愛奈は侵魔を打倒したんだから!」

「それは……! いや、だが確かにあの魔結界の濃度を考えると下級ではないのは明らかか……。そう考えると、愛奈くんの聖契士としての才能は素晴らしいな」


 どうやら昨日倒したあのバケモノは結構強い部類だったようだ。


「あの侵魔を好きにさせていたらもっと多くの被害者が出ていただろう。我々が戦っても困難を極めた可能性が高い。仕留めてくれて感謝する」

「わたし一人で倒した訳じゃないし……。リーフィラが大丈夫って言って、一緒にいてくれたからだよ」

「ダリウスも言っていたでしょう。マナを扱うのに大事なことは気持ちだって。あなたの強い想いがあるから、あの侵魔に負けることは無いって。そう言う事よ」

「本当……?」

「ええ、本当よ」

「そっか……。ふふっ……♪」


 その侵魔を倒せた自分は結構凄いらしい。二人に認められたと分かった愛奈は小さく笑みをこぼした。


「わたしでも……誰かの役に立てたんだ……」


 自分が、誰かを救えたんだ。お姉ちゃんのことも、街の人たちのことも。そう思うと、胸の奥にふわっと温かいものが広がった。





◇◇◇





「そう言えば、わたし以外の聖契士ってダリウスさんのところにはいないんですか?」

 ダリウスは聖契士について何人か知り合いがいるようなことを言っていた。そのことが気になった愛奈はダリウスに聞いてみた。


「済まないが、翠芽の会には聖契士はいないんだ。一応来てもらえないかと打診はしたんだが……断られてしまってね」

「そうなんですか……? わたし以外の聖契士さんともお会いしたかったなぁ。どんな感じの人なんですかダリウスさん?」


 残念ながら会うことはできなさそう。ならばと人となりを聞いてみる。


「それも申し訳ないが、直接話をしたことも無いんだ。遠巻きにお見掛けする程度しかなくてね」

「じゃあ、どんな格好だったんですか?」


 自分以外の聖契士が気になるので、突っ込んで聞いてみる愛奈。


「私が見たことがあるのは男性一人、女性一人だ。両名とも輝くような鎧を着ており、大変立派な騎士様であったよ」

「鎧!? 騎士!?」


 一体どこの世界の話だろう。いやでも戦う格好として正しいような。


「あれ……じゃあ、わたしの衣装(コスチューム)って……」


 しかしそうすると自分の格好は聖契士としてどうなんだろうと思いダリウスの方を向く。


「あ~、愛奈くんの聖契士としての姿か……。大変刺激て……いや、奇抜……、あ~風通しが良い……でもなくて、……個性的! そう、個性的だったね!」

「……おぅ、ぐぅ」


 滅茶苦茶言いよどまれた。いくつか聞いてはならない単語が聞こえた。しかもフォローの末に言われたのが個性的とは褒め言葉なのだろうか。


「わ、わたしだって、あそこまでスース―した衣装(コスチューム)になるなんて思ってなかったんですよ!」


 顔を赤くして精一杯の自己弁護を行う愛奈。立ち上がりながら机をバンバン叩いている。


「いいじゃない、鎧なんてむさくるしいだけよ。ピュリステラ・ハーティアの衣装(コスチューム)は素晴らしいものよ。私としてはもっと素肌を出した方が良いと思うけど」

「リーフィラ!?」


 さらっと恐ろしい事を言われた愛奈。今でさえ結構際どい衣装なのだ。これ以上素肌を晒したらほぼ裸になってしまう。

 いや、しかしこの精霊、小さいからそこまで気にならなかったが、よくよく考えてみると草と蔓でできた下着だけでほぼ裸というとんでもない格好だった。


「もしかして、わたし衣装(コスチューム)がスース―するのってリーフィラのせい!?」

「なに言ってるの愛奈。あなたのイメージが全然形になっていなかったから私が少し整えてあげただけよ」


 なんということでしょう──愛奈の拙いイメージがリーフィラの手助けにより、見事に形となったのです。


「ま、まぁ……聖契士の装備は契約者と精霊が協力してつくるものだからね……」


 ダリウスが聖契士の装備に精霊が関与している事を伝えてくる。しかしそれは愛奈にとって何のフォローにもなってない。


「わたし、恥ずかしかったんだからね! もっと布地増やしてよ! 危ない所見えちゃうじゃん!」

「もう無理よ。愛奈の中でもイメージが固まっているし、愛奈だって良いと思ってからああなったのよ」

「確かにカワイイと思ってるけど! 良いと思ってるところもあるけど!でも恥ずかしいと思ってる部分もあるんだからね! ねえ聞いてる!? リーフィラ!」


 ぎゃいぎゃい騒ぐ愛奈とリーフィラ。この後はまともな話し合いにならなかった。ダリウスの予定が押してしまったため、結局この日は解散となった……


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