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この想いが、わたしの力⑦

「どうしたの愛奈? 変身の仕方は分かるでしょう?」

「え、わ……分かってるけど……」


 リーフィラから変身を迫られる。やり方の問題ではない。


「正直に言うと……私もちょっと恥ずかしいなと……」

「ダリウスさん……!」


 今の気持ちを分かってくれる人がいた。さすが大人の男性である。自称精霊である人でなしとは違う。


「私も昔は聖契士に憧れた口でね。目の前で見られると思うと……恥ずかしながら少年のように興奮してしまうよ」

「ダリウスさんっ……!」


 違う。そうじゃない。



「なにか問題でもあったかしら……」

「えっと、その……変身後の、衣装(コスチューム)の……見た目……」


 訝しむリーフィラに衣装(コスチューム)の事を伝える。直接露出が多くて恥ずかしいとは言いにくいため、愛奈は言葉を濁し何とか伝えようとする。


「聖契士の装備の事かい? あれは契約者本人の深層心理をくみ上げて精霊と作り上げるものだ。個性的な外見をした人もいるようだが、私が今まで見たことがあるものは全て素晴らしいものだったよ」

「……ぅえ゛っ!?」


 衝撃の事実である。



(じゃあピュリステラ・ハーティアであれ(横乳)とかこれ(背中)とかそれ(おへそ)とかが見えちゃってるのって、わたしの願いってことなの~~!?)


 そんなことを望んだ覚えはない。


(バケモノと戦うためにって、姿を変えるってことで、あんな風になりたいって思ったけどぉ!)


 愛奈が願った姿は幼き日にお母さんと一緒にテレビで見た魔法少女だ。悪に毅然と立ち向かい、夢と希望を届け、みんなを笑顔に幸せにしてくれる唯一無二の存在。


(でも魔法少女ってもっとふわふわでフリフリで……もうちょっともこもこしてて~)


 自分で考えていて魔法少女の衣装(コスチューム)がよく分からなくなってきた愛奈。


(スカートが5段くらい重なってて、リボンが10個くらい付いてて、キラキラの宝石が30個ぐらい輝いててー)


 それはもはや魔法少女ではなく、ただの趣味の悪いドレスである。


(髪とかリボンとかは合ってるけどぉ!)


 愛奈はいつもツインテールにしている。あの日見た魔法少女に合わせてしている事は誰にも言ったことが無い。


(綺麗なピンク色になって嬉しかったけど……)


 その魔法少女はピンクのツインテールをなびかせていた。自分の黒髪を恨めしく思ったことは何度もあった。


(じゃあやっぱり、あの衣装(コスチューム)はわたしが望んだ姿だったの~~!?)


 考えがぐるぐると巡る愛奈。恥ずかしさのあまり顔がまた真っ赤になる。





「大丈夫、愛奈? 顔が真っ赤よ?」

「ぅわぁあっ! だ、大丈びゅ……! 大丈夫だよぉ! なぁんにも考えてないよ!」

「何言ってるの愛奈……ちゃんと考えて発言しなさい……」


 リーフィラに顔の赤さを指摘された愛奈は堂々巡りの思考のドツボから急に引き上げられた。そのせいで盛大に噛んだ。無理やり言い直し、言い訳にならない説明を行いリーフィラを呆れさせた。


「それで、衣装(コスチューム)がどうかしたのかしら?」

「え!? 衣装(コスチューム)! あ、いや、可愛いなって!」

「何でそんな他人事みたいな言い方なのよ。あなたの衣装(コスチューム)でしょう。自信を持ちなさい!」


(うわぁぁん! 今更衣装(コスチューム)が恥ずかしいなんて言えないよー!)


 リーフィラに衣装(コスチューム)が恥ずかしい事を伝えようとしていた。しかし、深層心理からくるものと聞いてしまったので恥ずかしいとは言えなくなった。

 言ってしまったら、なぜ恥ずかしいと自覚している衣装(コスチューム)を選んだのか。心の奥底でそういう歪んだ願望があるのではと疑われてしまう。


(わたしそんなエッチで変態さんな趣味なんて無いよぉ~!)



「大丈夫なら早く変身なさい、愛奈」

「え、えっと……明日……とか、また来週に、とか……ねっ!」


 覚悟が決まらない愛奈は何とか理由を付けてこの場での変身を回避しようとする。それが根本的に何の解決にもならないとしてもだ。

 空中にいるリーフィラに対し上目遣いでお願いする。このお願いの方法を使えばお姉ちゃんは結構聞いてくれる。だからリーフィラにも――


「その間に侵魔が現れたらどうするつもりよ」

「うっ……」


「明日とか来週にして良い事あるのかしら」

「うぐっ……」


「今朝タクシーがー、お金がーとか言ってなかったかしら?」

「ふぐっぅ……」


「それで、今行わない理由はあるかしら?」

「あ、ありません……」


 全く効果が無かった。まさかの理詰めである。


 自分でもあざといと思っている方法を使っての撃沈である。お姉ちゃん以外には効果が無いのかと、ちょっと自分の行為を見つめなおす愛奈であった。





「それで愛奈、このやり取りを何回続ける気かしら?」


 心なしか、リーフィラの視線が冷たく感じる。


「わ、わかったよ! リーフィラ!」

「おお、ついに……!」


 ダリウスが感極まったように声を上げる。

 事ここに至っては後には引けない。愛奈は際どい衣装(コスチューム)を人前で着ると言う羞恥心の試練に打ち勝った――


「そう、良かったわ愛奈。さあ、変わるための〝言葉キーワード〟を!」

「うん!……うん?」


(ああああ! 〝言葉(キーワード)〟叫ぶのぉ!)


 そして、すぐさま第二の試練()が立ちはだかった。





 愛奈も幼いころは〝ぷりてぃちゃーじ!〟とか〝きらきらえぼりゅーしょん!〟などと目一杯叫び魔法少女になりきり遊んだものだ。


(でもそれは小さい時の話だよぉ)


 しかし、ごっこ遊びが許されるのは小学校低学年までである。高学年になってからやったときの周りの冷めた視線はトラウマものである。

 いや、トラウマというほど高尚なものではない。単なる黒歴史だ。


(ああああ、古傷がーーっ!)


 稀に中学二年生くらいになっても独自の世界を繰り広げられる人もいる。しかし、愛奈はそのころには人並みの羞恥心を持っていた。

 独自の世界を繰り広げる人を周りの人は遠巻きに冷笑していた。

 そんな中、愛奈は周りに合わせ曖昧に同調しながら、過去の己を見るようでいたたまれなかった。そんな思い出がある。


 頭を抱え、振り回しながら羞恥心のままに叫ぶ。もちろん、想像の中でのみだが。


「愛奈……?」

「う、うん……うん、うん……」


 だが今は自分がその状況に立たされている。何か方法は無いか。全く何も思い浮かばないまま、時間を稼ぐように相槌だけを無駄に打ち続ける。


(ダメェェー! 何も思い浮かばない~!)


 所詮は浅知恵。すでに逃げ道をふさがれた後。時間を稼ごうが無からは何も生まれない。


「愛奈。ねぇ愛奈、聞いてる愛奈」


 リーフィラが愛奈の名前を笑いながら連呼する。しかし――


(リーフィラの眼が怖いよぉ~!)


 その眼は全く笑っていない。



「せ、精神統ぉ一をぅ、していた、だけだよぉ!」


 ものすごく上擦った声で言い訳をする愛奈。


「じゃ、じゃあ行くよ!」


 これ以上リーフィラに言葉を紡がせる訳にはいかない。理由は分からないが本能がそう警鐘を鳴らす。


(やるぞー! わたしはやるんだぁーー!)


 顔は真っ赤だ。変な汗が流れているような気もする。だがもうそんなことは気にしていられない。

 意を決し、愛奈は変わるための〝言葉(キーワード)〟を紡ぐ。


「ピュ! りてぃ、ッテラ……ぐろーぃ……っ」


 そして、愛奈の身体が光に包まれ――









――ることは無かった。




 談話室に時計の針の音が響く。時が止まったかのように動かない三人に対し、時計の音だけが正常に時間を告げていた。




「えっと……済まない。今、何と言ったのかね……?」


 沈黙に耐えかねたのか、なにも変わらない現状を変えるためか、ダリウスが声を上げた。


(あぁー! やっちゃったぁぁぁ!)


 勢いよく声を出したが、その勢いが続いたのは最初の一音のみだった。その後は噛んで勢いが完全に失われ、最後の方は蚊の鳴くような声しか出なかった。


「聞こえなくてね。申し訳ないが、もう一度言ってもらえるだろうか」


 ダリウスが追撃をかましてくる。いや、相手に攻撃の意図は全くないのだろう。しかし、今の愛奈には辛い。

 まるで、まったくウケなかったギャグの説明を求められた気分だ。


「あ、いえ……その、大丈夫です……」


 何が大丈夫なのだろうか、愛奈自身も良くわからない。しかしながら返事をしない訳にもいかないので大丈夫とだけ返す。


(……!)


 ゾクッ、と背筋に悪寒が走った。すごく嫌な予感がする。そう思い愛奈は周りを見渡した。

 そして、愛奈はそれを見てしまった。




(リーフィラが無言で笑ってるーー!)


 リーフィラが無言のまま笑っていた。先ほどまで愛奈の名前を連呼していたが、今は無言である。無言のまま笑っている。先ほどまでよりも強く笑っている。当然眼は笑ってない。


「い、今のは練習だよ、練習! えっと、えーっと……、そうだっ! 予行演習! リハーサル! 準備体操! 発声練習!」


 リーフィラに発言させてはならないとばかりに、とにかく言葉を並べて練習であることをひたすらに強調する愛奈。


「……」

「だだだだだだだいじょうぶっ! つぎが、つぎが本番だからねっ!」


 ひらすら無言をつらぬくリーフィラが怖い。


(次もし失敗したら何されるか怖いーっ!)


 具体的に何ができるのか、何をされるのかは分からない。しかし、そんなことが気にならないくらいに圧がある。凄みがある。



(こうなったらヤケクソだぁーっ!)


 リーフィラの視線によって冷や汗が止まらない。ダリウスからのキラキラした目線が耐えがたい。こうなれば一刻も早く事を進めたい。

 その一心で愛奈は変わるための〝言葉(キーワード)〟を投げやりに叫ぶ。


「ピュリティステラ・グローイング!」


 そして、愛奈の身体が光に包まれる。眼をつむり、光の奔流に身を任せ――








――ようとした瞬間、変身は終わった。





(…………あれ?)


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