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この想いが、わたしの力④

 病室の時計の針が、コツリコツリと音を立てる。

 静寂の中で、男性の低く穏やかな声が再び響く。


「まずは自己紹介から。私はダリウス・ベルナードと言うものだ」

「ダリウスさん……ですね。あ、済みません。朝丘愛奈です」


 そう言えば相手の名前も知らなかったし、こちらの名前も言ってなかったと小さく頭を下げる愛奈。


「ああ、よろしく。そして私は〝翠芽の会〟の代表を務めている」

「〝翠芽の会〟って、あのボランティア団体の?」


 ダリウスの口から出た〝翠芽の会〟について愛奈は知っていた。確か自然保護や人道支援などの活動を行っているはず……と愛奈は思い浮かべる。しかし、なぜ今その団体の話が出てくるかは分からなかった。


「その団体で合っているよ。私たちは表向きはボランティア団体として活動している。しかし、その裏では星聖樹というマナを生む神聖な樹の守護や侵魔の討伐などマナに関わる活動を行っているんだ」

「そうなんですかっ!?」


 翠芽の会には愛奈も世話になったことがあった。その団体に裏の顔があり驚く愛奈。


「マナは、古来より世界に流れる見えざる力だ。生物の体内で蓄えられて魔力となり、様々な恩恵をもたらす――身体能力の向上、生命力の増幅、そして魔法の行使すら可能にする」


 確かにピュリステラ・ハーティアになったとき、信じられないくらい早く動けた。愛奈もその恩恵を感じていた。


「しかし、マナは便利なものというだけでは済まなかった。マナの中には異常に変質してしまうものがある。それは〝瘴気〟と呼ばれている」

「瘴気……」


 その言葉を聞いた瞬間、愛奈の背中にぞくりと冷たいものが走った。意味はわからない。でも、〝瘴気〟という音だけで、何か危険なものだと分かった。


「一般的にはマナが悪意と結び付くと瘴気になると言われている。そしてこの瘴気に侵されて人々を襲うようになった存在が〝侵魔〟と呼ばれる存在だ」

「侵魔……あのバケモノ……」


 愛奈は昨日自分たちを襲ったバケモノがどういう存在かを知った。





「そして……落ち着いて聞いて欲しいのだが……」


 とダリウスは愛奈の反応を見つつ言葉を続ける。


「君のお姉さんの中で……瘴気が結晶化してしまっているんだ」

「瘴気が……結晶化……?」


 どういう状況か、いまいち愛奈はピンとこなかった。しかし、すぐに嫌な情報と結び付く。


「……なっ! じゃあお姉ちゃんが!……あんなバケモノみたいに――」

「大丈夫だ!!」


 瘴気に侵されたものが侵魔――バケモノになる。

 そして姉である優奈に瘴気がある。その情報から最悪な未来を愛奈は想像して取り乱しそうになる。


「大丈夫だ! そんなことには我々がさせない!」


 だが、ダリウスが強い口調でそんな最悪な未来を否定する。


「……っ。すみません……」


 強く否定されたことにより愛奈は落ち着きを取り戻し、声を荒げたことを謝罪する。


「いや……こちらこそ申し訳ない。説明の仕方が悪かったね」


 ダリウスからも謝罪があった。そして気を取り直してと説明が再開される。


「瘴気は〝浄化〟というものを行えばマナに戻り無害となる」

「それじゃあ……!」


 浄化という新しい単語が出てきた。それは希望につながる言葉として愛奈は前のめりになる。


「ただ、君のお姉さんに対して行うには問題があるんだ……」

「問題、ですか……」


 事は単純にいかないと、逸る気持ちを抑える愛奈。


「結晶化した瘴気を一気に浄化するほどの力が今の我々には無いんだ。我々の力不足で申し訳ない……」

「いえ、そんな……」


 ダリウスたちも決してイジワルな気持ちから言っている訳では無いことくらいは分かる。


「だが、浄化を定期的に行い、徐々に瘴気を取り除いていくことで君のお姉さん必ず回復する。」

「……良かった。お姉ちゃん……きっと大丈夫、だよね……」


 小さくうなずきながら、愛奈は手元のシーツをぎゅっと握りしめた。ようやく優奈の回復への道筋が分かり一安心する愛奈。


「君が来たことだし、早速最初の浄化を行おうと思う」

「わたしが来たから……ですか?」


 浄化と自分がいることがどのように関係するか分からず質問する愛奈。


「ああ、浄化を行えば、短時間だが彼女は起きるだろう。話したいことは色々あるだろう?」

「お、お願い致します!」


 お姉ちゃんが起きる――そう聞かされた愛奈は若干食い気味に返事を行った。





◇◇◇





「それでは、頼むよ」


 そう言ってダリウスは同じ部屋にいた医者である男性に声をかけた。


「その人は…?」


 ダリウスとばかり話していたため、医者の存在を忘れていた愛奈。


「ああ、彼はこの病院の医者だが、翠芽の会でマナに関する活動もしている。今回、浄化を担当するのは彼になる」


 紹介を受けた医者は愛奈に軽く会釈した。


「では、浄化の議を始めたいと思います」

「よろしくお願いします!」


 男性の開始の合図に思わず力が入る愛奈。

 ダリウスが無言で窓の方に移動し、カーテンを閉める。午前中ではあるが、それにより室内は少し薄暗くなる。


 ダリウスが医者に向かい短く頭を下げて合図を送る。それにこたえて医者も短く頭を下げた。

 医者が優奈に手を両手をかざし力を込め始める。愛奈の肌にも魔力が動いている事を感じられた。


 そして医者が魔法の詠唱を始める。


「――星よ……我が祈りに答え給え……」

「――光よ……集い、束ね、織りなせ……」

「――闇を払い、汚れを清め給え……」


 医者の静かな詠唱が響くたび、空気が微かに震えるように感じられた。粒子の光は揺らぎながら、まるで星の残光のように薄暗い部屋を明るくする。


「――【浄化(ピュリフィケーション)】」


 そして魔法が発動する。





 愛奈はその一連の動きを真剣に見つめていた。医者の発動した浄化の魔法が優奈の身体を包むのが分かる。


(よく見たら……お姉ちゃんの身体に黒い染みみたいなのがまとわりついてる……)


 あの黒い染みみたいなのが瘴気なんだろうと察する。


(お姉ちゃんの胸のあたりが凄く濃い……あのあたりに瘴気の結晶があるのかな……?)

 愛奈が見ている間も浄化が進む。


(お姉ちゃんを包んでいる光が瘴気を散らしてくれてる……でも……)


 浄化は進んでいるように見える。しかし、あくまで表面に見える範囲の瘴気にしか働いていない。


(ダリウスさんも、一回では浄化しきれないって言ってたけど、どのくらいかかるのかな……)


 優奈の身体の内から漏れ出る瘴気には浄化の光があまり届いている様には見えない。あと何回浄化を行えばお姉ちゃんは回復するのか、愛奈に不安が募る。


(わたしにも……何かできないのかな……?)


 今は見てることしかできない。愛奈はそんな自分を歯がゆく思う。





「ぐっ……!」


 医者がくぐもった声を上げる。それと同時に優奈を包んでいた浄化の光が消えた。


「大丈夫か……?」

「すみません……大丈夫です」


 崩れ落ちそうになる医者をダリウスが支えた。そして医者を椅子に座らせた。医者の顔には大量の汗が流れていた。そして椅子に座りながら苦しそうに呼吸を続けていた。

 愛奈は医者の状態が心配になった。だが、ダリウスがこちらに向かって軽く微笑んだのでひとまずは問題なさそうと安心した。

 ダリウスの態度的にも浄化に問題が合ったように見えない。自分の眼から見ても瘴気が浄化されているようにも見えた。


 ダリウスの言っていたことが本当ならお姉ちゃんの目が覚めるかもしれない。愛奈はそう思い、優奈のベットの傍らに近づく。


「……っ!」


 そうして優奈の顔を見ていた愛奈だったが、優奈の表情がわずかに動きを見せたことに驚き、喜びの声が漏れる。


「お姉ちゃん……」


 起きて欲しいと願いを込めて呟く。本当は強く呼んで目を覚まさせたいが、迷惑になりそうと自分を抑える。


「……んっ……あい、な……?」

「お姉ちゃん!」


 そして優奈はわずかに眼を開き、愛奈の名前を呼んだ。


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