夢現ニート
俺の名前はタケル。現実の世界では、ただのニートだ。昼夜逆転した生活で、部屋に引きこもり、唯一の楽しみは、オンラインゲームのランキングを眺めること。そんな俺にとって、もう一つの世界があった。
それは、夢の中の世界。そこでは、俺は勇者だった。神聖な剣を手に、強大なモンスターを討伐し、国を救う英雄。仲間たちからの信頼、民衆からの歓声、すべてが現実の俺には無縁なものだった。
夢と現実を行き来する日々が続いた。夢で強くなるほど、現実は虚しくなった。現実で無気力になるほど、夢の世界での俺は輝きを増した。
しかし、ある日、その均衡は崩れた。
けたたましいサイレンの音で目が覚める。窓の外は、人々が悲鳴を上げて逃げ惑い、空には禍々しい影が浮かんでいた。テレビのニュースキャスターが、震える声で叫んでいる。「未確認生物による、日本全土への攻撃です!」
それは、夢の世界で俺が戦ってきた、モンスターだった。現実の世界に、夢が侵食してきたのだ。
人々はモンスターに為すすべもなく、次々と倒されていく。警察も、自衛隊も、彼らの圧倒的な力の前には、ただの無力な存在でしかなかった。
「なぜ、俺だけが……」
俺は、夢の中で勇者として戦ってきた記憶を呼び覚まし、部屋の隅にあるガラクタの中から、神聖な剣に似た、錆びついた金属バットを見つけ出した。
震える足で外へ出ると、俺はまるで夢の中の勇者のように、モンスターを討伐していった。次々と倒れていくモンスターたち。俺の行動は、あっという間に人々の間で知れ渡った。
いつしか、人々は俺を「英雄」と呼び、俺の周りには、戦う仲間たちが集まってきた。俺は、夢の中の力を使い、現実の世界を救ったのだ。
英雄になった俺は、現実で忙しい日々を送ることになった。
ある日、俺の元にアメリカ大統領がやってきた。
「勇者様、ルーズベルト大統領がお越しですよ。」
「あぁ、めんどくせーな。ハイハイ。」
心の中のつぶやきを隠し、俺は笑顔で大統領と握手した。
「こんにちは、ルーズベルトさん。ええ、大砲をくれるんですね。ありがとうございます。こちらも、魚介類の関税をなくしますから。ハイハイ。次のG7も楽しみにしていますよ、オセアニアの。では、ハイ。お元気で。」
形式的なやり取りを終え、大統領を見送ると、俺は深くため息をついた。
「あー、ダルいわ。早く夢でニートしよ。」