第10話:裏切りの朱砂と、閉ざされた扉
翠玉が李華と共に、香蓮の足取りを追う中、翡翠宮の壁の向こうで新たな波紋が広がっていた。
「この朱砂の染み……何かの印か?」
李華は調査の一環として、香蓮の部屋近くで発見された赤い粉を指差した。普通の朱砂とは異なり、毒の痕跡を含む複雑な組成だ。
「ただの装飾品じゃない。後宮の奥深く、禁忌とされる“符術”に使われるものかもしれません」
翠玉は眉間に皺を寄せた。伝統と迷信が混じる宮廷の闇の深さを思い知らされる。
そんな中、李華はある閉ざされた扉の存在に気づく。
「ここは――皇后の私室の隣の部屋だが、長らく封印されている」
扉の表面には細かい唐草模様が彫られ、錠は堅く閉ざされている。
「この部屋、なぜ封じられているのか?」
宮廷の古老の一人に聞くと、答えはこう返ってきた。
「かつて皇后が密かに薬壺を保管した場所だが、忌まわしい事件の後、封印されたと聞く」
翠玉の胸に、強い興味が湧く。
「もしかすると、ここに事件の核心があるのかもしれません」
その夜、李華と翠玉は忍び足でその扉の前に立った。
扉を押すと、錠は固く、容易に開かない。
「道具を持ってきた」李華は小さな鍵束を取り出すが、どれも合わない。
「特別な錠か……」
そこへ、不意に背後から気配が迫った。
振り返ると、そこには侍女頭の影があった。
「ここで何をしているのか、知っているのか?」
その眼差しは厳しくも、どこか不安を含んでいる。
翠玉は冷静に答えた。
「私たちは真実を探しているだけです。誰かが後宮の平穏を乱し、多くの命を危険にさらしています」
侍女頭は少し黙り込んだ後、静かに告げた。
「私も知っている。後宮には、表には出せぬ秘密がある。しかし、その秘密を暴けば……」
夜が深まる中、扉の向こうで何かが微かに動いた気配がした。
翠玉の鼓動が早まる。
「ここに、答えがある――」




