『日本改造計画外伝』その拾<『多夫多妻』ドラマ(6)結婚保険>
「……ワタクシ、こう言うものです。」
「『ココロのスキマ、お埋めします』?」
弁護士の「●●保険会社結婚保険課〇〇〇〇」は、「『ココロのスキマ、お埋めします』?」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某セールスマンとも無関係に相違ない。
「我が社の新商品プレゼンテーションにお付き合い頂き誠にありがとうございます。」
「で、何なのです。その『結婚保険』という新商品は。」
「はい。ご説明申し上げます。そもそも結婚とは、人生において極めて重要です。」
「当然でしょう。人生の大多数の時間を『共有』する相手を選択するのですから。」
「その結婚をサポートする。それこそが、眼目であります。例えば、離婚危機ですね。
離婚危機と言って何を思い浮かべますか。」
「浮気、托卵、浪費、料理技術の劣悪さ、家事や育児の放棄、ハラスメント、レス……
考えられるだけで、こんな所ですね。それが何か。」
「離婚危機だけで、それだけ多岐に渡る。結婚は、するだけでは終わりではありません。
『夫婦とは長い会話』とは、言ったものです。それらを包括的にお助けします。」
「生涯独身を貫いた哲学者が、よく言ったものです。すると仕事量も膨大でしょう。」
「ええ。ですから先生には、離婚危機の回避を前提とした相談相手をお願いします。」
「私の専門は、托卵調査と相手の男性捜索です。ご存じでしょう。」
「勿論、存じております。ですから『夫婦とは長い会話』の精神に則った相談相手としては、うってつけの人材なのですよ。それに、お持ちなのでしょう。私立探偵とのコネ。」
「…………分かりました。検討したいので、資料を頂けますか。」
DISKをその場に置いて立ち去る保険会社社員だった。
* * *
「次のニュースです。結婚相談所の合併になります。いずれも業界、第二位、第四位、第五位であり、一位には、およびませんが、データベースの統廃合などで、結婚希望者の約八割が網羅可能との事です。では……次のニュースです。」
* * *
「……と言う次第です。これで、入り口、継続など結婚保険に必要な部品は、ほぼ揃っております。如何なものでしょう。局長。」
「……確かに、完璧なものではありませんが、一通り揃っていますね。問題ありません。
その旨、上に報告しましょう。」
「ははぁっ……有難うございます。局長。」
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、経済産業省事務次官だ。
「で。」
総統のかざした右手の平に「゛」が見えた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某常春の国国王とも無関係に相違ない。
「挨拶など無用。まず、報告しなさい。」
「はっ。報告申し上げます。総統閣下。ご提案の『結婚保険』、キャッチフレーズの
『成婚から墓まで』を達成可能となりました。以上です。」
「一つ確認させてください。事務次官。」
「はっ。何なりと。総統閣下。」
「それは、私が指示した国内保険会社全てから同じ報告が上がった訳ですね。
事務次官。」
「はっ。仰る通りにございます。総統閣下。」
「分かりました。報告書は、こちらで確認します。保険会社には、販売開始させなさい。
私からは、以上です。何か質問はありますか。」
特になかったので、今回の会議は、これでお開きとなった。
* * *
「●●保険会社結婚保険課□□□□と申します。本日は、誠にありがとうございます。」
「そんな事より本当なのか。只で私の両親を介護する妻がいると言うのは。」
「正確には、生活費だけでですね。これは、食費家賃光熱費水道代となります。」
「で、幾らかかるんだ。」
「こちらが、料金プランになります。ご覧ください。」
「んーーっ……。40代以降って、ババアじゃねぇか。」
「ですが、無料プランとなりますと、これくらいが限界となります。」
「しゃーーねぇーーかぁ。じゃそれで。」
「無料プランで、宜しいでしょうか。」
「それで。」
「一週間以内に奥様一名『お届け』致します。」
* * *
「粗茶ですがどうぞ。」
「ありがとうございます。その後いかがでしょう。」
「本当に感謝だけですよ。あなたが、紹介して下さった嫁さん、頑張ってます。」
「それは、何より。」
「お袋も喜んでますよ。仕事人間で、女っけの無い生活してきた40代の息子に、
20代の嫁さんが、来てくれたって。今は、孫の顔を見せろですよ。」
「当然です。彼女は、元犯罪者。それをご承知の上で受け入れたお客様の人徳に
ございます。それでも『頑張らない』人間など何処に行っても生きる事など
できません。お子様は、時機や好機で何とでもなります。焦らない事です。」
「御社の薦めで受けた『検査』のお陰で、夫婦ともに身体は正常でした。むしろ、
あの検査があったおかげで、安心して結婚できましたよ。まさしく感謝です。」
「それは、何より。では、特に問題点もなさそうですね。」
「大丈夫ですよ。」
「では、本日はこの辺でお暇します。」
* * *
「クレジットカードですか。ベーシックインカムで一つ持たされていますよ。」
「それは承知の上です。お客様は、これから結婚して奥様を扶養なさるのですよね。」
「ええ。それも『結婚』の条件です。」
「ですが、『浪費』が、目に余るようならクレジットカードを一時使用停止などの
『対処』をすべきでしょう。その証拠集めには、クレジットカードが一番です。
勿論、ベーシックインカムのカードと紐づけて『日本人価格』で購入可能にします。
クレジットカードに紐づける銀行口座は、給与とは別にし、一定額を振り込みます。
勿論、保証人は、弊社が務めます。如何でしょう。」
「………………分かりました。手続きは、そちらでサポートして下さい。」
「できる限りお力になります。こちらが、カードデザインの一覧になります。」
「後で、彼女に確認します。」
「それは、何より。では、特に問題点はございませんか。」
「大丈夫ですよ。」
「では、本日はこの辺でお暇します。」
* * *
今日は、ある夫婦の会話である。
「大事な話があります。」
「あら、あなた。どうしたの。」
「僕は、家計の為に、カードにお金を入れました。」
「まさか、それに感謝を要求する訳。そんなもの当然の義務でしょ。」
「君の生活費としていれた訳じゃない。」
「だから、私は妻の務めを果たしているじゃない。そこまで言うなら夜の営み無しよ。」
「君の昼食代2千円は、高過ぎると言っているんだ。」
「ご近所づき合いよ。近所の奥様方は、その程度の食事常識なのよ。」
「知っているさ。全て保険会社が調べたからな。その奥様方の旦那にも手を回した。
全員、カードに同じ制限をかけられたそうだ。」
等と言う無駄口を叩かなかった。
「僕の昼食は、一食約300円だ。」
「あなたが、ご近所づき合いをやらないから、あたしが代わりにやってあげているのよ。
当然の事実に誇らないでよね。恩着せがましい。」
「君のードには、制限をかけた。一品に最大1000円、半額で500円。」
「ふざけないでよ!」
「そもそも外食しているのは、君が弁当を作らないからだ。とは言え毒でも盛られては、本末転倒。当面、君の弁当は、必要ないかな。」
等と言う無駄口を叩かなかった。
* * *
「申し訳ありません。奥様は、『また』パパ活……売春をしていました。」
「『また』……ですか。これだけ色々手を尽くしているのにですか。」
「何しろ憲法規定があります。お客様が、稼いだお金を一切触らせておりません。
これ以上の対応は、不可能です。残された対応は一つだけです。」
「……………………仕方ありません。僕としては、今の妻を愛しています。
が、いくら注意しても『悪癖』を直してくれません。『あの件』お願いします。」
「はい。新居へのお引越しと、新しい奥様を準備いたします。」
「宜しくお願いします。」
* * *
後日、SNSに書き込みがあった。
「夫が、何も言わずに蒸発しました。
29歳、子供なし、専業主婦です。
家事もこなし、夜の営みも全て受け入れて来ました。
また、夫が稼いだお金を、夫が、全て消費していることも受け入れて来ました。
電話その他あらゆる連絡手段が、ブロックされています。
子供ができないからと言ってこの仕打ちです。
こんな男をどう思いますか。」
* * *
「外回り終わりました。」
「お疲れ様。」
「あれ、今日は先輩最後っすか。」
「つか、俺も報告書終わった所だ。」
「うわ、今日は外回り五件だったせいで、定時過ぎちゃいましたよ。」
「これから報告書か。お疲れ。でも、やりがいある仕事だろ。」
「確かにキャッチフレーズの通りっすね。『人生のプロデュース』ってパワーワード。」
「まあ、そこに『やりがい』を感じないと只の過剰労働でしかないからな。で?」
「そうっすね。そこに『やりがい』を感じてなきゃとっくの昔に退職願ですね。」
「ちげぇ無ぇ。じゃ、御先失礼。」
「お疲れ様です。先輩。」
<END>