表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/147

19 新たな守護者 2

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。謎の木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。

――カサカ村近くの山中――



 夕闇の夜に月が浮かび始めた山の中。

 既に薄暗い森の中に、くぐもった断末魔が漏れる。それを漏らしたホブゴブリン兵は、剣を地面に落として2メートル近い巨体を()()()に折って倒れた。ゴボリという不気味な音と共に、牙の生えた口から血が漏れる。

 息絶えた兵を足元に、レレンは油断なく周囲を窺った。彼女はこの山に入った直後から、山羊の角と蛇鱗の鎧をもつ戦闘形態(バトルフォーム)に変身している。

 カサカ村が魔王軍残党に制圧され、周辺には魔物兵士が巡回するようになっている。その一人をレレンは仕留めたのだが、他の兵士に見られていたらそれも始末せねばならない。


 だが周囲は静かで何の気配も無かった。レレンは後ろへ合図する。

 数メートル後方の木陰から、ミオンとイムが顔を出した。


 足音をできるだけ立てないようにしながら、ミオンはレレンの側へ来る。

「ありがとう。貴女がいないともうここで終わっていたわ」

「私がいなければ竜神の方に行っていただけだろう」

 にこりともせずに言うレレン。

 ミオンは静かに頷く。

「そうよ。()()()()あっちにね」

 そして山を登る細い道の先へ視線を向けた。

「正しいのはこっち。そう思いながら」



――山中奥・隠し畑のそのさらに向こう――



 どんどん黒くなる空の下、既に大樹と言えそうなほどに成長したトネリコのような木。

 それを見上げてレレンは呟く。

「これが世界樹の若木か。ここにあるのを知っていたのも、ガイとミオンとイムの三人だけか」

「そうよ」

 頷きながら、ミオンもまた木を見上げていた。

 それを横目で見つつ、レレンは微かに「ぬう……」と呻く。その視線にはほんのちょっぴり、妬んでいるかのような色があった。


 しかしすぐに頭をふり、足元の紐を引っ張る。その先にあるのは――棺桶。冒険者達が仲間の遺体を運ぶ時によく使われる物だ。

 レレンはその蓋を開けた。

 中には大きな簀巻きが横たわっている。永遠の眠りについたガイだ……。


「で、ここでどうすればいい?」

 レレンが訊くと、ミオンは困って眉を(しか)める。

「何か反応してくれる事を期待したんだけど……」

 木を見上げはするが。

 白む空を背に、木には何も起こる気配が無かった。


 だがしかし。

 イムがふわりと飛ぶと、木の根元を指さす。

「ここ。ここにガイを置いて」


 レレンとミオンは顔を見合わせ――すぐに動いた。

 ガイの遺体を棺から出し、簀巻きのまま木の根元に横たえる。


 だがそうするや、レレンが「!」と何かに気づいた。

「続けてくれ」

 ミオンにそう言うと、一人で麓の方へと足早に歩き去る。

(何かあったみたいね)

 それを察したミオンはレレンを黙って見送った。



――山中、隠し畑への道――



 既に暗い山道を独り降るレレン。

 だがおもむろに足を止めると、その拳に光と熱が宿る。

「そこか!」

 叫びながら一撃! 迸る炎が斜め上へと放たれ、樹上の枝を吹き飛ばした。

 弾ける炎を避け、砕ける枝から別の枝へ跳ぶ影が一つ。


「これは驚いた。マスターキメラ、今さら何をしに来たのだ」

 その影は黒装束の男――暗殺者・影針(えいしん)だった。


(密かに山中へ入った筈だが、この男はそれでも気づいて様子を見に来たか)

 レレンはそれを察し、大袈裟な声と身振りで相手へ拳を突き付ける。

「言わねばわからんのか。してやられたままでおめおめ引き下がれん! 大局的には完敗であろうと……影針(えいしん)、せめてお前の首だけはとらねば私の気が済まんのだ!」

 辺りを窺い、近くに誰の気配も無い事を探ってから――影針(えいしん)は微かに笑う。

「意地という奴か。一銭にもならんのに、くだらん話だ」


「黙れえ! 例え私独りでも、お前だけは……お前ぐらいなら!」

 レレンは大声をあげた。いかにもムキになっている、という風に。


 影針(えいしん)は別の枝へと跳ぶ。より村に近い、山を降りる方へ。

「笑わせる。ではお前独りでどうなるか、教えてやろうではないか。さあついて来い」

 そう嘲ると、本気でなら容易く追える速度で次々と枝を渡ってゆく。麓の村へと。

 今や己らの手中にある村へと。


 無論、敵の勢力下に誘われている事はレレンにもわかった。だが……

(かかってくれたか!)

 内心では喜んで、顔は怒りに歪めて。レレンは影針(えいしん)の後を追った。



――山中奥・世界樹の若木の根元――



「次はどうすればいいの?」

 横たえたガイの簀巻きの側で、ミオンはイムを見上げる。

「みすてるていん。ガイのお腹に置いて」

 それがイムの返事だった。


 ミオンは急いで鞄から木の実が嵌った箱を取り出す。

 竜神アショーカからの贈り物、世界樹の力をより引き出せる筈の宝飾品を。

 イムの言葉通り、それをガイの腹部がある筈の所に置くと……


 箱からするすると帯が伸びた。

 簀巻きに使っている御座が裂ける。ガイの衣服も裂ける。

 箱はガイの腹部へ密着し、帯が腰を一周した。


「この実……ベルト!?」

 驚くミオン。

「動かして」

 イムがバックル部分――木の実が嵌った箱を指さす。

 そこで動きそうな物と言えば……

「これ?」

 半信半疑だが、ミオンは小さな刃のような部品に触れた。


 ほとんど力を入れずともそれは動いた。

 さくりと、木の実へと刃が食い込む。


 若木がぼんやりと輝いた。

 光が粒子となり、まるで水のように流れ落ちてくる。

 ガイの腹部にあるバックルへと。

 宝飾品ミステルテインを通して、若木からの光がガイの中へと流れ込んだ。



 不思議な事が起こった……!



 粒子は命を失った体内を循環し、固着し、いきいきと活動を始めたのだ。

 流れて沁み込み、同質となる。

 流れが脈動し、脈動は本来の流れをも動かし始めた。


 ミステルテインが粒子となって霧散する。

 御座が(めく)れた――内側からのけられたのだ。


 御座をのけたガイは、既に目を覚ましていた――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ