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19 新たな守護者 1

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。謎の木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。

――カサカ村へ続く道――



 黙々と歩き続ける、巨大なゾウムシ型の運搬機。

 その助手席で、不安を抑えきれずにレレンが訊いた。

「ほ、本当にこっちでいいのか? ガイの故郷の竜神に頼んでみるというテもあるんじゃないのか?」


 運転席のミオンは真っすぐ前を見たままだ。

 その視線はいつになく険しく、いつものような余裕や、ガイといる時にはしばしば見せる茶目っ気など微塵も無い。

「正直、迷ってはいるわ。でも……最上位竜(アークドラゴン)だからといって、死者の蘇生を得意とするわけではなかった筈よ」

 ()()()()()によれば、その筈なのだ。


「なんで知っているんだ?」

 合点がいかずに疑わしい目を向けるレレン。

 ミオンは前方を、村への道を睨んだまま振り向きもしない。

「なぜでしょうね。以前から……ガイの村の竜神アショーカに会う前から知っていたんだと思う」

 レレンの目も険しくなった。

 敵意……とまではいかないが、ミオンに向ける視線はその胸を貫こうとせんばかりだ。

「どういう意味なんだ? ガイが死んだというのに、泣きも取り乱しもしないし……何か隠している事があるのか?」

「あるわ。この状況で貴女に疑念を持たれているのは不味いし、私達の真実を教えておいた方がいいのかもね」

 そう言うと、初めて……ミオンはレレンへと振り向いた。

 やはりその顔に笑顔も柔らかさも無い。

 だが強い意志だけは語るまでもなく露わだった。



 そして、ミオンは。

 己がガイに拾われた、記憶の無い身の上である事を。

 護衛としてガイを雇い、村に流れ着いた経緯(いきさつ)を語った。



「なんと……夫婦というのは偽装だったのか」

 話を聞き終えてレレンは心の底から驚いていた。彼女が見る限り、二人の間はビジネスライクな雇用関係だと思えなかったからだ。

 だがミオンは淡々と口にする。再び視線を前方に、山間の荒野を遥かに伸びる街道へ向けて。

「ええ。けれど私はまだ記憶も身元も取り戻していない。ここでガイが(たお)れると頼る物が無くなってしまう。それは困るわ」

「そんな言い方!」

 自分の都合ばかりを口にするミオンへレレンは抗議した。

 とても薄情に聞こえて。ガイ自身を大切にしているのではないように思えて。


 しかし冷たく突き放すような口調で、レレンを一瞥もせず、ミオンは静かに告げる。

「貴女を助けた事も、ガイの死因の一つよ」

「く、ううっ!」

 呻くレレン。

 悔しく、腹立たしく、許し難かった……が、ただ呻くだけだ。

 ミオンの指摘が間違っていない事を、他ならぬ自分が感じていたのだから。



 レレンが唸っているのを他所に、ミオンは宙にいるイムへ目を向けた。

「イム。ガイはまだ貴女にも必要よね?」

「ガイがいないとヤだよう!」

 べそをかいて叫ぶイム。

 その涙に、声に、ミオンは小さく頷く。

「ガイは世界樹の番人に選ばれた……竜神アショーカはそう言っていたわ。世界樹が滅びから蘇ろうとしている、とも。そんな力があり、ガイが必要とされているなら――復活する力を分けてもらえるかもしれない」

 そう言ってレレンにも目を向けた。

「私が知っていた知識によれば……死者蘇生の薬の素材となる植物の葉がこの世にはある。そして世界樹は全ての植物の祖なのよ」


 ガイを蘇生させるための、ミオンなりの考えを聞かされ、レレンは唸るのをやめた。

「いいだろう。協力はする。私の責任も大きいからな……」

 怒りと悔いを(こら)え、そしてどこか切なげなレレン。

 そんな彼女を少しの間、横目でみつめて――ミオンは訊く。


「貴女……ガイの事、好きなんじゃない?」


 一瞬大きくのけぞり「んな!?」と漏らすレレン。

「わ、私に勝った男だから認めてはいるが、だからって!」

 露骨に動揺しながら必死に訴える彼女を横目に、ミオンがほんの少しだけクスッと微笑んだ。

「あら、そう。私が全てを取り戻していなくなったら、誰かがガイと一緒にいてあげていいと思うけど」

 真っ赤になって「ぐぬぬ……」と唸り、レレンはしばし言葉に詰まった。

 何か言う事を探そうとしていたのだろうが、結局たいした言葉は見つからなかったようで、ミオンから目を逸らして運搬機が進む街道を睨む。

「ともかくガイが助かってからの話だ!」

「そうね」

 小さく頷くとミオンも前方へ視線を戻した。

 その顔からは既に微笑が消えている。



 実の所、ミオンの胸の内は平静でも何でもない。

 荒れ狂う暗い波を底へ押し込めようとしているのだ。


(遺体を保存する手段が私達には無い。竜神アショーカか世界樹か、今の位置からではどちらかしか試せない)


 この世界の死者蘇生魔法は確実な成功率をもたない。その上、条件が悪くなれば成功率は急激に下がる。

 その条件には死後の経過時間もあるのだ。


 ガイが倒れた時、帰還の道は既に七割ほどには達していた。

 どちらがより近いか……これは決して無視して良い要素ではないのだ。


 運搬機の格納庫に、御座(ござ)で包んで寝転がしてあるガイの遺体。

 それが否応なしにミオンの脳裏に浮かんで消えない。

 

(私の判断が正しくあって欲しい……どうか、正解であって欲しい)

 誰にも言えない弱音がミオンの中で浮かび続け、消えない。

 だが、祈る対象も縋る相手も、今のミオンには無いのだ。

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