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11 過去を訪ねて 4

ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。


イム:ガイが拾った妖精。謎の木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。

――山中の薬局――



 ヘイゴー連合シソウ国の元王子モードックを連れて、ガイ達は店に戻った。

「ただいま、マーメイ」

 事もなげに挨拶するモードック。

 店主の少女はカウンターを回り込んで駆け寄ると、躊躇なくその旨に跳び込んだ。

「お帰りなさい! 遅かったじゃない、心配したわ」

 優しく抱き合う二人。


 それを呆然と見ていたガイだが、やがて声を絞り出す。

「……婚約者って、まさか」


 モードックが振り返って頷いた。

 店主の少女は照れてはにかむ。


「マジ!?」

「異種族の婚姻は昔から結構ある事だが」

 再び驚くガイに、モードックは事も無げに答えた。


 この世界インタセクシルには多数の人間型(ヒューマノイド)種族がいる。

 それらの大半は異種族間での生殖が可能であり、それゆえに異なる種族での婚姻も古代から行われてきた。

 その事はガイも当然知っている。


 だがそれも外見の近しい種族同士での話。

 人間やそれと同じような顔の種族と、頭部が丸ごと動物というタイプの獣人では、種族を超えた婚姻例は非常に少ない。


 だがまぁ無いではない事だ。

 そんな関係を生まれて初めて見るガイにとって衝撃ではあるが。

 しかし珍しかろうと他人の幸せ、ガイは気を取り直して祝福する。

「そ、それは素敵ですね……おめでとうございます」

 モードックは「ゲゲー」と笑った。

 少女も恥ずかしそうに微笑み、軽く一礼する。

「ありがとうございます。さっそく薬を調合いたしますね。何をお望みでしょうか?」


 ここは薬局、少女は薬師。彼女はガイ達が薬を探しに来たと思っているのだ。

「いえ、薬じゃないんです。セイカ子爵ご夫妻に会いたくて、ここまで訪ねて来ました」

 ガイは改めて説明した。


 すると少女は目を丸くする。

「え!? 祖父母に御用なのですか」

「祖父母!? では貴女はセイカ子爵のお孫さん?」

 今度はガイ達が驚く番だ。

「はい、マーメイ=セイカです」

 そう名乗ると、少女は事情を話しだした。



 魔王軍との(いくさ)で祖父・セイカ子爵が負傷した事。

 高齢のためか、それにより病も患った事。

 大事をとり、防衛や統治を腹心の部下に任せて療養に専念している事。

 マーメイは以前から薬学を学んでいたので、祖父母に同行している事。

 良い薬を求めながら安全な奥地へ、奥地へと移り、ここにまで引っ越して来た事。

 引っ越しを繰り返す途中でマードックと知り合い、共にいるうちに惹かれあった事。

 現在はこの近所に祖父母が住んでおり、マーメイは実技と人助けも兼ねて薬局を経営し、素材の調達をマードックに任せている事……。



「なんと……」

 呻くガイ。

 ようやく求める人物の側に来たのだ……というより、ミオンの身元を確認するなら、この少女に聞いてもいいのだ。

 それに思い至り、ミオンはマーメイに話しかけた。

「あの、ではミオンという名はご存知でしょうか」

 マーメイは頷いた。


「私の母ですね。10年ほど前、父が没してすぐに上京して皇族に仕える女官になりました。あまり便りをよこさない人で、今どうしているのかはわかりません」


 この少女こそが『ミオン』の娘だったのである。


 ガイと()()()はしばらく金縛りになる。

 イムがきょろきょろと、二人の顔を交互に見回した。


 やがてガイが声を絞り出す。

「……母上のお歳はいくつぐらいになられますかね?」

「35です」

 怪訝な顔をしつつもマーメイは答えてくれた。どう考えても《《ミオン》》とかけ離れた年齢を。

 再びガイが声を絞り出す。

「……種族は人間ですよね?」

「ええ。うちに限らず、ケイト帝国の貴族はほとんどが人間族ですし」

 怪訝な顔をしつつもマーメイは答えてくれた。


 ガイと()()()は再び金縛りになる。イムがきょろきょろと、二人の顔を交互に見回した。

 そんな二人に、怪訝な顔をしつつマーメイが訊いた。

「あの……母がどうかしました?」



 今度はガイ達が状況を説明する番だった。

 カーチナガ子爵からの招待状も見せて経緯を語る。



 話を聞くと、マーメイは言い難そうに告げた。

「……薄々感づかれておられると思いますが、母の持ち物を拾っただけで、そちらの女性は別人です」

「そのよう、ですね……」

 頷く()()()

 その横でガイは呆然と突っ立っていた。



 別人の可能性がある事も頭では理解していたのだが……子持ちの既婚者という可能性の衝撃と、それへの覚悟を決めているうちに、同一人物だという前提で考えてしまっていたのだ。



 ()()()は宝石入りの小袋をマーメイに差し出した。彼女の母親の、ミオンの名前が刺繍された小袋を。()()()が眠っていた避難機で拾った物を。

「貴女のお母様の物です。すいません、結構使ってしまいました」

「お気になさらず。その状況なら誰でも同じ事をするでしょう。使ったお金はモードックを助けていただいた報酬として前払いした、と考えます」

 そう言ってマーメイは小袋を受け取った。


 そしてモードックは。

「私からもお礼をしよう。これは我が一族に伝わる回復アイテム【ガマーオイル】だ。量さえあればケイオス・ウォリアーにさえ使える」

 そう言って金属の缶をガイに渡した。

 感嘆の声をあげるガイ。

「それは凄い! 製法を知りたいぐらいです」

 モードックは大きな頭で頷いた。

「ああいいよ」

「え?」

 ガイは驚いた……が、一族に伝わる物ではあっても秘伝の類ではなかったという、ただそれだけなのだ。


ヒロインのルーツ探し、空振りのまき。

拾い物の名前を頼りにしても頼れなかったというそこそこ珍しい展開にしておいた。

さて、次はどうするか……。

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