11 過去を訪ねて 3
ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。
イム:ガイが拾った妖精。謎の木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで?
ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。
黒装束を纏った新たなカエル獣人が、高い木の枝の上に現れた。
「だからこそさっさと国をまとめ直さないとならんのだ。シソウ国が次も帝王の座を維持するためにな」
そして黒装束の下の素顔を見せる。
その体色は明るい黄色で、頬が鮮やかな青という、妙にカラフルな色彩の素顔を。
それを見上げるモードック。
「自ら来たのか、弟よ」
「王子なのに暗殺者? それとも忍者か?」
ガイは驚いた。
いきなりの黒幕出現に、そしてよくわからない職業分類に。
だが相手はそれを見下し言い放つ。
「暗殺者の恰好をした王子だ。それもわからんとはな」
「いや、当然みたいに言われても……」
ちょっとひっかかるガイ。
だが王子はそんなガイを放っておいて、己の兄に声をかけた。
「兄よ。王位には私、インディブルが就く。覚悟はいいな」
「弟よ。王位にはお前が就いても私は一向にかまわん。だから覚悟はしない」
毅然というモードック。
すると弟――インディブルが「ゲコー」と鳴いた。
「往生際の悪い。だが兄弟を手にかけてでも私は強い国を作る」
「うむ、頑張れ。だが手にかけられるのは断る」
モードックも言い返して「ゲコー」と鳴く。
二人の間に殺気が膨れ上がった。剣を抜くのは全くの同時。
「ゆくぞ!」
「来るか!」
「行きも来もしなくていいだろ! 相手の話聞いてるのか!」
ガイの怒鳴り声が響き渡った。
「「?」」
兄と弟、二人のカエル獣人が首を傾げる。
「だから弟さんが王様になる事を兄さんは認めてるんだろ? 戦う必要どこにもねーだろ!」
苛立つガイ。
しかしインディブルは「ゲー」と鳴いて一笑に付す。
「何をバカな。クレバーに考えて、理由もなく王位を捨てる筈がない。何か企んでいるのだ」
「何かって何だよ!」
「知らんけど」
「そこが大事だろうがよ!」
正直なインディブルに怒鳴るガイ。
だがモードックが「ゲゲー」と鳴いた。
「捨てる理由なら有る。あえて言わなかったが」
「言えよ!」
怒鳴るガイ。
インディブルは「ゲー」と鳴いて一笑に付す。
「言えぬのだろう。手紙にも『言えないけど理由がある』と書いてあったしな」
「理由がある事がわかってるなら一足飛びに殺そうとしてんじゃねーよ! 確認しろよ確認をよー!」
怒鳴るガイ。
その後ろからミオンがモードックに尋ねた。
「それで、理由とは何なんです?」
モードックが白い頬をぷくーと膨らませた。
「長い話になる」
「まぁ……仕方ないか。どうぞ」
とりあえず促すガイ。
「私は幼い頃から世界を旅する事を夢見ていた。成人し、こうして冒険家となった」
モードックの話は幼少時代から始まった。
「連合国内を一周してからこのケイト帝国に来た」
すぐに現時点に達した。
「そこで素敵な女性と知り合い、恋に落ちた」
そこで白い頬にほんのり朱がさす。
「結婚する事にした」
「おめでとう」
祝福する弟。
「ありがとう」
礼を言う兄。そして話を〆る。
「だから帰らないのだ」
「別に長くねーだろ! 手紙に書けるだろ!」
ガイは怒鳴った。こめかみに青筋が浮いていた。
一方、モードックは「グー」と鳴く。
「恥ずかしいし」
「殺し合いになる寸前だったろうが! 恥ずかしがるなよ!」
ガイは怒鳴った。割と本気で苛立っていた。
一方、モードックは「グー」と鳴く。
「君は好きな人ができたら照れずにはっきり言うタイプか」
「刃傷沙汰になるよりはな!」
ガイは怒鳴った。こめかみの青筋がピクついていた。
しかしインディブルは「ゲー」と鳴いて一笑に付す。
「だが兄よ。それでは兄の妻が王妃になるだけで、私に王位が転がり込んで来るわけではない」
(結局は戦うのか……)
苛つきながらも諦めて聖剣の柄を握るガイ。
今ならこのカエル獣人の頭を容赦なく叩き割れる。さっさとそうしようと割と本気で思っていた。
だがなんとした事か。
インディブルは黒装束の懐から一枚の羊皮紙を出すのだ。
「ここに役所への提出用紙がある。死亡届にするつもりだったが相続放棄申請に変更するので、名前と拇印を記すのだ」
「うむ」
頷いて羊皮紙を受け取るモードック。
マント下の背負い袋から羽ペンを取り出すと、さらさらと結構綺麗な字を書く。最後に親指で判を押した。
「記入したぞ弟よ」
「ありがとう兄よ」
インディブルは羊皮紙を受け取った。
兄弟互いに「「ゲコゲー」」と笑いあう。
「世話になったな。礼を言う」
「言う前にちゃんと話し合えよ……」
大きな頭を下げるモードックに疲れ果てるガイ。
そんな彼にインディブルが声をかけた。
「士官が望みならシソウ国に来るがいい。これから新帝王を決める戦いがあるはずだからな。ではこれにて」
そして羊皮紙を手に、倒れていた部下を引っ張って去って行った。
(絶対行かねーぞ)
インディブルを見送りながら決意するガイ。
相手が見えなくなってから、改めてモードックに声をかけた。
「とりあえずモードックさん、あんたを探してたんだ」
万年敵を殴って解決するのも芸がなくてマンネリかと思い、すれ違いを対話させて平和的な解決に導く話にしてみた。
昔のヒーロー番組なんかでもごくたまに主人公が戦わない話があったように思うので、方向性は間違っていないと思う。
現代の流行りかどうかは知らない。