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9 来訪者達 5

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。


イム:ガイが拾った妖精。謎の木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。

 ガイはゆっくりと起き上がって来た。

 あちこちに火傷を負い、服も焦げ目と泥で汚したまま、「ふう」と小さく溜息をつく。

「首の皮一枚て所だが……まだギリ、なんとかなってる」


 そう言いながら、ガイは手にした木刀――聖剣から自分に活力が流れ込むのを感じていた。

 装備した者の傷を癒す【自動回復(ヒーリング)能力】を持つ武具が希少ながら有る……この聖剣もその一つだったのだ。

 おかげでなんとか、致命傷を免れた。


 それを見ぬけたわけではないが、ガイが生きている事は確かなのだ。マスターキメラが叫ぶ。

「クッ……ならば改めてトドメを刺すまで! 剣もアイテムも通じないお前には打つ手はあるまい!」

 そう言われたガイは……聖剣の峰をなにやら眺めていた。

 訝しむマスターキメラ。

「何をしている。今さら木刀に別の能力でもあると言うのではあるまいな」


「この(くぼ)みがちょっと気になってな」

 ガイの言う通り、柄のすぐ上……刀身の付け根あたりに半球状の(くぼ)みがあるのだ。

 遠目にそれを見たスティーナが小首を傾げる。

「何かを入れる穴でしょうか」


(入れる物と言ったって……)

 少し考え、ガイは腰の鞄から珠紋石(じゅもんせき)を取り出した。これは【アイスボール】の呪文効果がある結晶である。


【アイスボール】水領域第4レベルの攻撃呪文。球状の範囲内に煌めく氷の結晶を大量に含んだ凍気が吹き荒れる。


 しかしガイはそれを投げつけず、聖剣の穴にセットした。

 実になんともピッタリ嵌る。

 すると剣から無機質な声が響くではないか。

『アイスボール』

「何その声!?」

 驚くマスターキメラ。


 その眼前で、聖剣が煌めく氷の結晶を含む白い輝きに包まれた。

 ガイは新たな力を得た聖剣を構えて踏み込む。

「氷球・一文字斬り!」

 凍気を帯びた剣筋が襲いくる中、マスターキメラは慌てて最大の奥義を放った。

「くっ!? ブレイズプラズマー!」



 熱線と凍気の激突!

 それは爆発を起こして互いをかき消しあう。

 しかし威力全てを無にする事はできず――



 ガイは新たな傷を負い、吹き飛ばされていた。

 だが転倒する事なく着地し、なんとか踏み止まる。荒い息を吐きながらも、聖剣の【自動回復(ヒーリング)能力】で傷が癒えるのを待った。


 マスターキメラも吹き飛ばされていた。

 彼女もたたらを踏みつつ持ち堪えるが、その顔には焦りと驚愕がありありと浮かんでいる。


「二つの威力が一つに……?」

 唸るマスターキメラ。

 ガイの手元では、聖剣にはめ込んだ珠紋石(じゅもんせき)が粉となって砕けていた。ガイは「ふう」と溜息一つ。

「やっぱ壊れるのか。でも威力が上乗せされるのは助かるな」



 マスターキメラは改めて身構える。その拳に光と熱がまたも宿った。

「クッ……よくぞ互角に達した。ならば後は地力の勝負」

 一方、ガイは。

 聖剣の峰をまた眺めていた。

「穴は()()()()な。今度は両方に入れてみるか」

「えっなにそれズルい!」

 思わず叫ぶマスターキメラ。


 もちろん構わず、ガイは珠紋石(じゅもんせき)を二つ取り出す。さっきと同じ物をもう一度、もう一つは大気領域の呪文が籠められた物を。

 それらをはめ込まれた聖剣からまたも無機質な声が響く。

『アイスボール。ホワールウインド』


【ホワールウインド】大気領域第4レベルの攻撃呪文。激しい旋風が敵を包み、風の刃で切り刻む。


 刀身を包む空気の渦。その中ではダイヤモンドダストが煌めく。

 二重の魔力を帯びた聖剣をガイは構え、走った。

「氷球竜巻・一文字斬り!」

「な、なんの! ブレイズプラズマー!」

 マスターキメラが高熱に燃える拳を打ち出し、無数の熱線が駆け巡る。



 熱線と氷嵐の激突!

 それは爆発を起こして互いをかき消しあう。

 だが今度は明らかに片方へ力が傾いており――


 マスターキメラが吹き飛んだ。踏ん張るも何もない、高々と宙へ。

 凍てつき切り裂かれたその体が、村の側を流れる大河へ落ちた。水柱が大きく上がる。


 ガイは木刀を下ろし、深く大きく息を吐いた。そして一言……

「勝った」



 魔王軍の雑兵どもが我先にと逃げ出した。

 頭を潰された彼らに、戦意も指揮も無かった。

 それを見た村人達が歓声をあげる。

 スティーナがガイの側に駆け寄って来た。

「やりましたね師匠!」


 だがガイは己が握る聖剣をしげしげと眺めていた。

(この聖剣、あつらえたみたいにあまりにも俺に都合のいい能力なんだが……なんでだ?)

 イムが飛んできて肩に着地したので、ガイは彼女に目をやる。

 視線が合うと、イムはにっこりと微笑んだ。


 主人公専用武器の真価をお披露目する回。

 鑑定用マジックアイテムを使ったのに能力の使い方詳細は出なかったのかよ‥‥という疑問には「自分が昔遊んだゲームでも表示されなかったので」と答えておく。

 正式名称がわかる「だけ」で性能はいっさい不明のまま、とかよく考えたら役に立ってなくないか。「メイジマッシャー」とか名前だけ表示されても何が何やら。てっきりメガスマッシャーみたいな必殺武器かと……。

 まぁ昔のゲームに今の視点で文句言うな、という考えも正しくはある。実際、シリーズが進むと性能詳細も表示されるようになったしな。おかげで「ハヤイボウ」を誰が装備すればいいのかわかってありがたい。そういうのでいいのだ。

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