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4 新生活 3

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。


イム:ガイが拾った妖精。不思議な木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで‥‥?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。

「あの、すいません。この近くに村はありますでしょうか?」

 街道でガイに声をかけてきたのは若い女性だった。


 髪をヘアバンドで纏め、ディアンドルタイプの服を着ている。武具の類も荷物も持っていない。

 それを奇妙だ、とガイは感じた。まるで近所を散歩でもしているかのような格好だが、村落があるかどうかもわからない所まで出てくるとは。


「一応、有りますよ。魔王軍に襲撃されて大変でしたけど」

 多少の警戒をしながらも教えるガイ。

 すると女は身を乗り出さんばかりに訊いてくる。

「壊滅したわけではないのですね?」

「ええ、まぁ。田舎村だからか量産型が四機しか来なかったし。それでも結構苦労しましたけどね」

 驚きながらも答えるガイへ、女は鋭い目を向けてきた。

「苦労して……退けたのね?」

「そうですけど、それが何か?」

 不穏な雰囲気を感じ、ガイは思わず身構える。


 女は胸を逸らし、ガイを見下ろしながら剣呑な笑みを浮かべた。

「何かも何も、戻ってこない連中に何があったかを洗い出している所だ。その村を調べさせてもらおう。案内しろ……命が惜しくばな!」

「あんた! 魔王軍?」

 ガイは後ろに跳び退き、間合いを離した。


 女の体が膨れ、衣服が破れる。だが露わになったのは裸体ではない。緑色に輝く爬虫類の鱗と獣毛の皮だ。蛇鱗の鎧を纏ったがごとき獣人の体である。

 顔は人のままではあった。だがその頭には山羊のような捻じれた角が生えている。


「変身したよぉ」

「魔物なのか!」

 怯えるイムに叫ぶガイ。

 女は自信に満ちた笑みを浮かべて声高に名乗った。

「同時に異界から召喚された聖勇士(パラディン)でもある。私はこの世界に存在しない筈の、魔獣の獣人……魔獣人! 魔王軍旧陸戦大隊最強の親衛隊・マスターキメラだ!」


 強大なエネルギーが彼女の周囲に立ち昇る。

異界流(ケイオス)! 同じ聖勇士(パラディン)とはいえ、シロウより確実に上だ……!)

 ガイはパーティ追放のきっかけとなった聖勇士(パラディン)の事を思い出す。己の異界流(ケイオス)が底上げされた事で、ガイにはその強弱を感じる感覚も備わりつつあった。


 強敵を前に、急いで珠紋石(じゅもんせき)を腰のポーチから取り出す。

 それを見て、女――マスターキメラは声を上げた。

「やる気か。ものども! こい!」

 途端に周囲の草陰木陰からわらわらと魔王軍の雑兵達が現れる。オークやゴブリンと言った下級の兵士達が。

「かかれ!」

「ヒャッハー!」

 マスターキメラが命令すると、雑兵どもが鬨の声をあげてガイへ駆け寄ってくる!



 青く輝く珠紋石(じゅもんせき)をガイは投げた。それは宙で砕け、氷片の舞う超低温の気流が渦を巻く。水領域4レベルの攻撃呪文【アイスボール】が発動!

 それは魔物の群れを飲みこみ、傷口から流れる血さえ凍る凍気で粉砕した。


 呼び出した部下が簡単に全滅させられたマスターキメラ。

 しかし彼女は不敵に笑う。

「ほう、やるな。ならばこちらも真打登場といかせてもらうか!」

「チッ、やってやるさ!」

 叫んでガイは次のアイテムを取り出し、投げた……いや、地面に叩きつけた。


 弾ける音と共に、爆発!

 異様な量の煙がもうもうと立ち込め、付近の全てを包み込む。


 刺激の強い煙に巻かれたマスターキメラは「ごほっ、げほっ」とむせてしまう。

 そこを狙った攻撃が来る事を警戒し、防御のため身構える……が、何も来ない。

 やがて煙が晴れた時。彼女は、街道の遥か向こうを、背を向けて走り去るガイを見た。


 ガイが使ったのは、逃走用の煙玉だったのだ。


「おい? おい! おおい! やってやるさって言って、なんで逃げてんだぁ!」

 マスターキメラがそう叫んでも、ガイはますます速度を上げて走っていった。



――カサカ村――



 村に駆け込んで来るガイを見つけ、村長は朗らかに声をかける。

「おお、戻られましたかガイ殿……って?」

 村長を無視し、ガイは村の中へ走ってゆく。ケイオス・ウォリアーを置いてある工場へ。


 土地だけはある田舎村。工場も村の人口に比べて広い。

 屋根のある駐機場には四台の機体が横たわっている。一台はガイが持ち込んだガラクタ同然の巨人戦士機。三台は昨日撃墜した魔王軍の機体、その残骸。


 そして四機の横で膝をつく機体が一台。

「一機だけでも使えるようにしておいて正解だったぜ」

 呟きながらガイは機体に乗り込んだ。

 敵が襲って来た時のため、最も破損の少なかった機体を修理しておいたのだ。


 ハッチが閉じ、火が入り、ガイの感覚が機体と一体化する。

 鎧を纏ったリザードマン型の機体、Bクローリザードが立ち上がった。



――村出入口の外――



 村を出たガイが見たのは、のしのしと村に迫る巨大生物。

 ずんぐりした体に短い手足を持ち前傾姿勢で二足歩行する甲虫。サイズはケイオス・ウォリアーより頭一つ大きい。

「ヘンなの来たぁ」

「怪獣かよ。これが奴らの真打か」

 怖がるイム。敵を睨みつけるガイ。


 そこへ通信が入った。

『おいこら貴様! なんでいきなり逃げるか!』

 マスターキメラの怒りの声だった。

「真打を出すって言ったじゃないか。だから機体を取りに戻ったんだよ。あんな奴の相手を生身でできるわけないだろ」

 ガイからの当然の抗議に、しかしマスターキメラはますます怒る。

『いや、違うって! そのナパームヘッピートルは巨大戦の真打で、さっき言った真打は私自身だ! 怪獣を出すのはもっと後の予定だったの!』

「紛らわしいだろ!」

 ガイからの当然の抗議に、しかしマスターキメラはますます怒る。

『順番から行けば当然だろ! 戦闘員の次が私でその次が巨大兵器というのが! 私をゴブリンとオークの引率だと思ったのか? んなわけあるか!』


 怒鳴りあっている間にも、怪獣は村の前に来た。

『あ、お前、まだ話が……』

 マスターキメラの制止は全く無視され、怪獣は狂暴な咆哮をあげる。

 その口から炎が噴き出した。



 Bクローリザードは量産機の中では運動性に優れる機種である。炎のブレスを跳躍して避け、ガイは怪獣へ跳びかかった。

 近接用の武器、長い爪で相手に切りかかる!


 だが怪獣はお構いなしに太い腕を振り回した。

 リザードの爪が僅かに甲殻を傷つけるも、吹き飛ばされたのはガイ機の方である。たまらず地面を転がった。


 急いで機体を起こすガイ。

「チィ! パワーがでかい! こりゃ量産型四機どころじゃねぇ!」

 呻いている間に測定が終わったらしく、モニターに敵の能力値が表記される。


ナパームヘッピートル

ファイティングアビリティ:120

ウェポンズアビリティ:140

スピードアビリティ:90

パワーアビリティ:130

アーマードアビリティ:130


(……こりゃ勝てん)

 ガイは肩のイムに訊いた。

「なぁ……昨日の鎧、また出ないかな?」

 すると、イムは。


 ぐっと力を籠めて、ぱたぱたと翅を動かした。

 すると虹色の渦がガイ機の正面に発生する!


「おお! ナイス!」

 ガイの声にイムが「てへへ」とちょっぴり恥ずかしそうに笑った。


 渦から黄色い花弁が舞う。

 その花吹雪に包まれた機体に、どこから生じたのかわからない蔓と枝が機体に絡みつき、そこかしこで葉を繁茂させた。

 花吹雪が止んで渦が消えた時、ガイの機体は灰茶色と緑の鎧を纏っていた。


 しかしガイは顔を顰める。

 鎧は昨日より遥かに軽装で肩当ては小さいし、長く尖った葉が頭部から後ろ首筋へ鬣のように連なっている――地球・南国の酋長の頭飾りのように。

「……昨日と違う?」

「登場人物は出来る限り女で埋めるべし」という近年のセオリーに基づき、敵幹部を女にしておいた。

 尺の都合で本人の戦闘は割愛。

 主人公にやられた時に鎧が壊れるようにすべきかと思うが、今回の人は自前の皮膚(鱗と毛皮)なのでどうしたものか。はてさて。

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