25 この結末は間違っているけれど 3
登場人物紹介
ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。
イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。
ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。
その日、早朝。
皆が村の工場に集まる中、最後にタリンが現れた。
「お、準備はできてるな。じゃあ行くか!」
彼が言う通り、既にゾウムシ型の運搬機は火が入っていつでも出発できる状態だった。
(気にいった娘がいたようだな)
ガイは上機嫌のタリンを見て、内心ちょっと申し訳なく思う。
前金を渡したので、タリンは間違いなく風俗に行っていた筈だ。
機嫌が良いのは好みの嬢がいたからであろう。
「出発するぞ!」
雑念を振り払ってガイは指示を出す。
同行するメンバーは次々と乗り込み、残る者達がそれを見送った。
そして数日後……
――ケイト帝国現領境界の関所――
ガイ達が関所に着くと、ケイト帝国の兵士達が検問のため出てきた。
しかし告げられた名に兵士達は驚き、手元の帳面で確認して顔色を変える。
「あんた、いや貴方様は!」
改造魔竜ジュエラドンを打倒したガイは、この国でも最大の英雄なのだ。
「首都へ行きたいのですが、通していただけますか?」
「は、はい! 中央にも連絡しておきます」
スティーナが訊くと、兵士達はいっせいに敬礼して答えた。
「なら入った所で待たせてもらうよ」
ガイがそう言ったのを、少し奇妙に思わなくもなかったが……ともかく兵士達は関所を開けた。
――数時間後――
「【リバーサル】の人達が来ましたよ」
操縦でスティーナが皆に告げる。
荒野を貫く街道の向こうから近づく機影がモニターのMAPに映ったのだ。
ちょっとしてから多数の量産機が姿を見せた。
相手からの通信が入る。
『ガイ殿! シャンリー皇女を迎える事にされたのか?』
その声は【リバーサル】の女部隊長ミシェルの物だ。
「ああ。そうなんだ」
顔見知りの相手にガイ自らが通信を返した。
『ふん……皇女の仰った通りですね。貴方が考えを変えるかもしれないからしばらく様子を見るとの事でしたが』
そんな通信が返ってきた。
シャンリーは時間をおけばガイが自分を迎えに来る可能性もあると、予測も立てていたようだ。
自分と結ばれるため、ケイト帝国の貴族に加わってくれるかもしれない……と。
だからガイは相手に告げた。
はっきりと、誤解の無いように。
「でも帝国の貴族にはならない」
しばしの沈黙が降りた。
『はい?』
それでもミシェルには理解できなかった。
そんな彼女にガイはさらに告げる。
「シャンリーには皇族も貴族もやめてもらう」
『あの? ええと? 何を言われているんです?』
やっぱりミシェルには理解できなかった。
そんな彼女にガイはさらに、もうちょっとだけ丁寧に告げる。
「先日の条件を飲むというわけじゃないんだ。村で考えたんだけど……前に出された条件は全部蹴った上で、シャンリーは貰う」
しばしの沈黙が降りた。
『正気ですか!?!?』
ミシェルは絶叫。
そりゃそうだ。シャンリーが欲しければ条件を飲んで結婚すればいいだけ。
それをわざわざ、帝国側の条件を全部断り、女だけ貰っていくという。
無駄な波風を立て、帝国側を完全にコケにした話である。まともな頭があれば有り得ない。
しかもそれをここで宣言しているのだ。シャンリーの所まで無数の妨害が発生する事は容易に想像できるだろうに。
それはつまり……それらの妨害を蹴散らす自信がある、と考える事もできる。非常に傲慢な自信があるのだと。
「都へ最速の手段で伝えてくれ。俺達はこのまま首都へ行く」
ガイのその宣言は、まさに傲慢そのものだ。
そんな事を言われたミシェルの方が慌てふためくしかない。
『話が通るわけも、行かせるわけもないでしょう!?』
「わかっている。その上で行かせてもらう」
ガイが言うと、運搬機のハッチが開いた。
そこには既に変形を終えたリバイブキマイラの姿が!
『ら、乱心だ! 止めろ!』
ミシェルが己の部隊に大慌てで指示を出す。
構わずガイは聖剣に珠紋石をセット。
『スタンクラウド。ホワールウインド』
呪文を読み込む聖剣。
【スタンクラウド】大気領域第5レベルの状態異常呪文。麻痺性の毒ガスを作り出す。
【ホワールウインド】大気領域第4レベルの攻撃呪文。激しい旋風が敵を包み、風の刃で切り刻む。
「合成発動……パラライズストーム!」
ガイの叫びとともにリバイブキマイラが竜巻を放つ。
それは荒れ狂って肥大化し、ミシェルの部隊を呑み込んだ。
しかし……どの機体も壊れない。
だがどの機体も次々と膝をつき、倒れ、動かなくなるのだ。
操縦者は全身を麻痺させられ、機体は行動伝達の回路にある生体部品にエラーを吐いて、共に動けなくなっていた。
最後尾にいた伝令用の機体だけが範囲を免れ、一目散に首都へと逃げ帰っていく。
『う、ぐぐ……なぜ無用な争いを?』
動けなくなったミシェルが苦し気に通信を送る。
ガイははっきりとそれに答えた。
「俺にとってだけは必要なんだ」
動けなくなった部隊の間を、ガイを乗せた運搬機が通り過ぎる。
首都へ。シャンリーのもとへ。