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4 新生活 2

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。


イム:ガイが拾った妖精。不思議な木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで‥‥?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。

 両手にナタを構え、中年の農夫はじりじりと迫る。

「見てはならん物を覗いたな。好奇心は猫も阿呆も殺す……」

「この畑、もしや違法物!?」

 殺気に満ちたその態度からピンと来るガイ。

「感のいいガキは長生きできん!」

 叫ぶや農夫はナタを振り上げ跳びかかって来た!


 だが相手がにじり寄る間に、ガイは珠紋石(じゅもんせき)を用意していた。

 緑の結晶がとび、宙で砕けて煙を放つ。

 一息吸い込み、農夫は地面に倒れて痙攣した。


 珠紋石(じゅもんせき)に籠められていた魔法は麻痺の霧【パラライズ】。ガイのスキル効果により、それは半端な耐性なら貫通して敵を行動不能に陥れる威力を持っていた。


「うおぉ……無念」

 苦しそうに農夫は呻くが、もはや地面に突っ伏すだけだ。



 農夫を横目に、ガイは畑を調べる。

 植えている植物は複数種類のポーション素材に使える物で、ガイの知識にも有った。

「ああ、これリョウゲシか。確かに毒物にもなるから届け出が必要だけど、役所に行けばその日のうちに許可が出るじゃないか」

 呆れるガイ。


 だが農夫は突っ伏したまま呻く。

「出しておらんのじゃ」

「そりゃアンタが悪いだろ!」

 怒鳴るガイになお農夫は呻く。

「出したら隠し畑にならんじゃろが」

「隠し畑!? 重罪じゃないか!」

 驚くガイになお農夫は呻く。

「ああ、死罪じゃな。皆やっとるけど」

「あ、うん、そうらしいけど……」

 戸惑うガイになお農夫は突っ伏したまま叫んだ。

「どうせやっとるからと思って御上は五公五民なんて年貢をとっとる! だから必要悪になるんじゃ! ワシは悪くねぇ! ワシは悪くねぇ!」


(世の中の汚ぇ部分を見ちまった……)

 うんざりするガイ。そんな事で自分は殺されそうになったのかと思うと農夫にトドメを刺そうかとさえ思う。


 しかし考え直し、溜息混じりに農夫へ声をかけた。

「わかったわかった。俺は何も見なかった。どうせ俺もカサカの村にしばらく厄介になるんだからさ」

 すると農夫はガバリと顔を上げる。

「なんと! では小僧が村を救った勇者か!」

「ゆ、勇者……」

 今までなかった持ち上げられ方にガイは面食らった。



 だが話題が村に移った事で、改めてガイは山へ来た目的を思い出す。

 そこで農夫に話を持ち掛けた。

「丁度今、回復薬が要るからこの花を買いたいけど……手入れが雑だなぁ」

 咲いている花の半分ほどは力なく萎れているのだ。当然、そんな株からは薬を精製する事はできない。

 農夫は突っ伏したまま溜息をついた。

「去年、綿花が暴落してから思いつきで始めたからのう」



 困って頭を掻くガイ。

(使い物になる株だけ買うか。それでも本来期待したよりは多くの回復薬が造れるし……)

 そんなガイの憂い顔を見て、肩のイムがふわりと宙に舞った。


 イムは畑の上で羽ばたく。陽を浴びて翅は虹色の輝きを強めた。

 そこから鱗粉が宙に浮かび、イムを取り巻いた。

 ゆっくりと踊るように宙を舞うイム。その動きと羽ばたきにより、鱗粉が畑に降りてゆく。


 萎れていた花が瑞々しさを得て、顔を上げるかのようにゆっくりと茎を伸ばした。

 元々元気だった花も増々色鮮やかになるようだ。

 満開の花が咲き乱れる畑の上からイムがガイの肩に戻る。ちょこんと腰かけ、にっこりと微笑みかけた。



 驚き、戸惑い、それでもイムの笑顔に「あ、ありがと……」と返すガイ。

 はっと気を取り戻し、改めて農夫に持ちかける。

「えっと……この花、売ってくれるか?」

「あ、ああ……口止め料と花の蘇生代も勘定して、一割引きで売ってやろう」

 同じく驚き戸惑いながらも、農夫は承諾した。

(そこまで入れて一割かよ……もうちょっとまけてくれても良さそうなもんだが)

 ガイはちょっとそう思わないでもなかったが。



――村への帰り道――



 予想を超える収穫を背嚢に入れ、ガイの足取りは軽い。

 だが山を下りて街道に出た辺りで、ガイは声をかけられた。


「あの、すいません。この近くに村はありますでしょうか?」



(謎の女・正体は次回)

挿絵(By みてみん)

隠し畑と年貢の関係は、中世の事を調べようとして昔読んだ本に書いてあった。

昔の記憶なので史実とズレているかもしれないが、まぁこの世界のこの地方ではこうなのだ……という事にしておく。

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