表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/147

24 人の世に外れた物 6

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。

 右肩を骨がのぞくほど食い千切られ、ガイは息も絶え絶えになっていた。人間ならショックと失血で絶命もありうる。

 そんなガイを背後から鉤爪で鷲掴みにしながら、大顎から敵の血をだらだらと(したた)らせる肉食芋虫の半人半虫……獣人幼生蝿捕波尺蛾ワーハワイアンキャタピラー影針(えいしん)

「なるほど、貴様も人間ではないな。歯ざわりと味が伝えるぞ。人にはない循環管がある事を……」

 そしてとどめを刺すべく、再び大顎を開いた。

 硬質の牙が首を狙う……!


 だが間一髪!

 顎に木刀の先が突っ込まれ、噛みつきを防いだ。ガイが左腕でなんとか攻撃を防いだのだ。

 器用さを求められる職業柄、両手利きの訓練をある程度していたのだが……それが土壇場でガイの命を救った。


「だがこの体勢ではそれ以上の抵抗はできまい!」

 影針(えいしん)はそう叫ぶと、ガイの体にますます鉤爪を食い込ませる。右腕が動かせず、左腕で顎を防いでいるガイには為すすべが無い。

 苦しそうに呻きながら、体を左右に揺さぶり身をよじり、なんとか振りほどこうとしていた。

 だがそんな抵抗で鉤爪は抜けない。顎に木刀を突っ込まれながら、影針(えいしん)(あざけ)り笑っていた。



 そして、無数の閃光が(ほとばし)った!


【スーパーノヴァ】炎領域6レベルの呪文。術者を中心に全方位へ数千発の焦熱光線を放ち、範囲内の全てを焼き貫く。近距離の敵を攻撃するため、接近戦を避けるほとんどの魔術師は好まないが、その威力は同レベルの攻撃魔法の中でも群を抜く。


 密着状態でまともに受けた熱線で全身を穴だらけにされ、さしもの影針(えいしん)もぐらりと大きく仰け反った。

 ガイは近くの支柱へ飛び移り、敵との間合いを離す。

 その側にイムが飛んできた。

「ガイ、あれでよかったよね?」

「ああ、バッチリだ」

 心配している妖精にガイはほほ笑んで告げる。

 それを聞いた影針(えいしん)は察した。妖精の少女が珠紋石(じゅもんせき)をガイに渡した事を。


 事実、その通り。

 激しく身をよじったガイの腰カバンからは、珠紋石(じゅもんせき)がいくつもこぼれ落ちた。

 イムはその一つ――ガイの求める物を空中で受け止め、右手に握らせたのである。


「その妖精に、こんな判断力があるとはな……」

 呻く影針(えいしん)へガイは言い放つ。

「世界樹の分身同士だからな。俺の欲しい物を持ってきてくれたのさ」


 その通り、この妖精と意思が通じ合ったのも世界樹の分身な【ウルザルブルン】ならでは。

 また肩をごっそりえぐられた右手を握る事だけはできたのも、世界樹の分身【ウルザルブルン】ならでは。

 ガイもまた人の(ことわり)の外にいる者なのだ。



 ガイは下の支柱へと跳び移った。次々と足場を降りて真っすぐに下を目指す。

 逃すまいと追う影針(えいしん)

(この期に及んで場所を変えるとは、有利な位置取りを目論んでの事だろう……奴を自由にさせては危険だ)

 だがそう思っても、人なら死ぬほどのダメージを受けた直後だ。それでも強力な再生能力が有るがゆえに動けるが、流石にガイとの距離は縮まらない。


 ガイがいち早く部屋の底に着地した。そこにはガイが落とした珠紋石(じゅもんせき)がいくつも転がっている。

 目当ての物を素早く見つけ、ガイはそれを拾った。

 その右腕は動いている。再生の魔術でもなければ生涯動かないであろう右腕は、この短時間に動くようになっていた。聖剣の力と【ウルザルブルン】の体質、両方を合わせた高レベル再生によって。


 だがそれでも、右腕は珠紋石(じゅもんせき)を1個拾うのが限界だった。指は震えて動きも鈍い。完治には到底、時間が足りない。

 それは影針(えいしん)も見ていた。

(今なら間にあう!)

 獣人幼生蝿捕波尺蛾ワーハワイアンキャタピラーはその大顎を開いた。ガイの頭を狙って跳び下りた。


 だが、妖精がガイの側に舞い降りて、結晶をもう一個拾うのも見えてしまった。


 聖剣が呪文を読み込む。

『サンダー・ボルト。クラック』


【サンダー・ボルト】大気領域第5レベルの攻撃呪文。大気中より集まった雷電を敵に落とす。

【クラック】大地領域第4レベルの攻撃呪文。大地の亀裂が敵を挟んで圧し潰す。


合成発動(アマルガム)……サンダーヴァイス!」

 ガイの叫びとともに、頭上に迫っていた影針(えいしん)を落雷が捉える! その威力は影針(えいしん)を一気に地面へ叩きつけ……その地面が割れて、両側から挟み、押し潰そうとした。

 大地の磁場から電力を集め、帯電した地面が!

 身動きがとれないまま挟み潰されつつ電撃で焼かれ続ける影針(えいしん)。それでも怪物としか言いようの無い生命力で地面を掴み、脱出しようと体を引き抜きつつあった。


 だが脱出するまでガイが待つ筈もなく――聖剣を左腕で握り、渾身の力で一閃した。

「一文字斬りいぃ!!」

 呪文の力を籠める暇も惜しんでの、至極単純な、基本的な剣技。ただの横一文字。

 だがここまでの戦いを切り抜け、種族さえも変わるほどの激闘を経て身につけた技量での、全力での一撃。

 それは半ば埋まって避ける事のできない影針(えいしん)の側頭部を捉えた。


 その威力に、奇怪な肉食芋虫の頭が砕ける。


 だがそれでも。

 頭を失ってなお、半人半虫の化け物は身をよじり地面から這い出そうとした。


 そして、腹まで出た所で、動きがにわかに鈍り……やがて止まる。

 そのまま体を折り曲げて、ついに動かなくなった。



 大きな溜息を吐き、ガイは膝をつく。

(後は魔竜ジュエラドンだけだ)

 その魔竜をガイは見上げる。


 ぎょろりと動く魔竜の瞳と、ガイは目が合った……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ