表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/147

24 人の世に外れた物 5

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。

 壁から生える無数の支柱を足場に、次から次へと飛び移りながら、ガイと影針(えいしん)は凄まじい速さで攻撃を撃ち合う。

 聖剣を手に敵を追い、魔法の籠められた珠紋石(じゅもんせき)で様々な属性の呪文を撃つガイ。

 鋼線を結んだ棒手裏剣を自在に操りながら、炎や毒や酸の雲――この世界の忍者が忍術として取り込んだ何種類もの魔法――を放ち逃げ回る影針(えいしん)

 互いに機敏で回避の技に長け、またなまなかな魔術は装備と人外の抵抗力で無効化してしまう。

 手数は多くとも、決定打はなかなか打てなかった。


「ふん……この足場で俺と五分以上とは」

 多少苛立ちながら呟く影針(えいしん)

 それを聞いたガイに疑問が生じる。

(このバトルフィールドが奴の切り札なのか? 確かにこの地形では、まともに戦える奴は限られるだろう。でも射程距離のある攻撃ができる奴ぐらい、この世界には……あるいは聖勇士(パラディン)には珍しくもない)

 放たれた毒の雲を聖剣で散らし、ガイは敵を追いながら周囲を窺う。

(この部屋にはまだ何かが隠されている。それが奴の次の手だ)


 基地に入る前にかけておいた【ディテクト・シークレット】の効果時間は長い。休憩せずに奥まで駆け抜けたガイには、隠された物の存在を報せる探知魔法の効果がまだ持続している。

 だがこの魔法は「何かが隠れている」事を警告するだけだ。どこに何が潜んでいるのか、暴き出すのは他の手段で行う必要がある。ガイの場合はそれを盗賊系技能(スキル)で行うわけだが……

 この激しい戦闘中にそんな事を調べている暇は無いのだ。


 だが答えはすぐにわかった。

 影針(えいしん)がある支柱に降りたつと、再び壁に触れたのだ。

 そこに隠されたスイッチを入れるために。


 次の瞬間……

 ガイは全方位から光の強襲を浴びた!

 この広大な部屋のあちこちに、強烈な光を放つ装置が密かに埋め込まれていたのだ。

 あまりの光量に目が眩む。ガイは白い闇の中に落とされた。


(破壊エネルギーの類じゃない。これは……陽光?)

 効かない視界の中で、肌に浴びる光を分析するガイ。


「ユーガンが乗り込んで来た時のために準備した物だが、今使わせてもらおう」

 影針(えいしん)が高らかに笑った。

「魔術の中には光を生む呪文がある。その上位には陽の光を作り出す物も。そしてこの世界には呪文と同じ効果を発揮する魔法道具(マジックアイテム)もな……そうした道具(アイテム)をお前はいつも使っているが、もちろんこちらとて使う事はできる」


 ガイにとって、この光は視界を奪うだけだ。

 だがこの足場で目が潰されては動く事ができない。

 そして動けない敵を影針(えいしん)は自由に攻撃できるのだ。この仕掛けを造った張本人が、己の視界も潰すようなヘマをするわけもない。



 だからガイは、()()()()()()珠紋石(じゅもんせき)を使った。

 スイッチを入れた影針(えいしん)が、次の攻撃に移る前に。

 存在を知らない罠にならば、そこまで迅速な対応はできないだろう……だがガイは「何かある」事だけは先にわかっていたのだ。その一点が明暗を分けた。



 影針(えいしん)は毒の雲を放った。持続する呪文の一種であり、空中に残留して敵の生命力を削り続けるスリップダメージ型の呪文である。

 だが突如巻き起こった嵐が周囲に荒れ狂った!

 それは毒の雲を吹き飛ばし、影針(えいしん)の体を容赦なく襲う!

 嵐に翻弄されながら、黒装束がズタズタに裂けた。皮膚が瘡蓋(かさぶた)のように変質し、割れて砕けて散ってゆく!

 ガイとの間には何本もの支柱が存在し、直線の攻撃を遮る障害になっていた筈だが――風の魔法であるが故に、その間をぬって気流が荒れ狂った。


【デッドリーエア】大気領域第7レベル、最高位の攻撃呪文。崩壊の風が嵐となって荒れ狂い、範囲内の物を破壊する。


(上手く……いったか?)

 光が収まるとともに、ガイの視界が回復してゆく。二つの循環器系による【ウルザルブルン】ならではの回復力で。

 己が攻撃を受けていない事から、敵に有効打を食わらせた予感はあった。スイッチのある支柱に影針(えいしん)の姿はない。

(ならばどこへ?)

 ガイはまず下を見た。

 だが洞窟の床にはいない。落下したわけではなさそうだ。

 ならば上か。ガイは頭上へ視線を……



 強風で吹き飛ばしたのだから、まず落ちた事を疑うのはおかしくはない。

 だが今回に限っては逆だったのだ。



 ガイの背後に何かが落ちてきた!

 それは後ろからがっちりと体をホールドしてくる。鋭利な鉤爪が肉に食い込む激痛!

 だが遥かに強烈な激痛に見舞われ、ガイは苦痛に絶叫した。派手に血飛沫があがる!

「ひ、きゃあぁあ!」

 イムが恐怖に絶叫した。


 ガイの右肩が無くなっていた。ごっそりと食いちぎられ、僅かとはいえ肩の骨が露出している!

 滝のような(おびただ)しい流血。それはガイの傷からも、千切れた肩の肉からも流れる。

 その()()()()()()()肩の肉は、そのままぐしゃぐしゃと咀嚼され、呑み込まれた。


「そ、れ、が……お前の、正体か」

 息も絶え絶えに漏らすガイ。

 己を背後から抱え、肩を食いちぎった化け物へ。


 ぼろぼろになった黒装束は影針(えいしん)の着ていた物。手足も二本、人と同じ体形と言える。

 だがそれを「人」と思う者はおるまい。


 厚い緑の皮膚。

 いくつもの単眼が光る無毛の頭部。敵の肉を食った、左右に割れた大きな顎。そこに生えた短剣のような牙。

 敵の体を抱えるのは、胸部にある三対六本の鉤爪。まるで肋骨が悪意をもって飛び出したような……。


「獣の耳だの尻尾だのがあっても、人は忌避せず、むしろ好みさえする。だが頭部が丸ごと獣なら……哺乳類なら受け入れられても、他の種族だと敬遠されがちになる。そして俺達のような虫と人の混ざり物は、まず化け物扱いよ」

 化け物の顎から聞こえるのは間違いなく影針(えいしん)の声。

「所詮は容貌と己らの嗜好よな……!」

 ガイの血で染まった凶悪な大顎から吐き捨てる怒りと敵意。

「長年の修業により、俺は化け物の中でも特に強力な個体となった。その俺が俺の嗜好により……人類が忌避される地を、人類の生息域の中に作ってやる」

 己の動機さえも吐き捨てるようだった。

 ガイの体にますます鉤爪を食い込ませ、化け物は叫ぶ。


「世の中は! お互い様でなければなぁ!」


 半人半虫の化け物、獣人幼生蝿捕波尺蛾ワーハワイアンキャタピラー

 そいつはガイを食い殺そうと、再び大顎を開いた。


 ハワイアンキャタピラーという生き物を知らないなら、ぜひ画像検索していただきたい。

「これはモンスターとして作品に出演してもらわねばならない」と確信したワシの気持ちをきっと理解していただけるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ