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4 新生活 1

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。


イム:ガイが拾った妖精。不思議な木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで‥‥?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。

――ガイが救った村にて。夜――



「大体、期待した通りね」

 ベッドに腰掛けて屋内を見渡すミオン。

 村長が三人にくれた家は、村の一番端にある一軒家だった。空き家になって久しく、所々に隙間があったが、夜までかかって風が入り込まない程度にガイが修繕した。


「期待って……かなり痛んでボロだけど?」

 ガイは肩にイムを停めながら、ちょっと落ち着かない様子で、室内に運び込んだ荷物を壁際に片付けている。

 ミオンは頷いた。

「ええ。けれど寝泊まりするのに大がかりな修理は要らないわ。もっと肝心なのは、村外れで、他の住人に私達の話を聞かれない事よ」

 ガイの表情が引き締まる。

「ミオンさんは自分が誰かに狙われていると思っているのか?」

 訊かれたミオンも真剣な目つきで答えた。

「そこまではっきりと危惧しているわけじゃないわ。けれど私の身元はまだわからない。貴族で身柄がお金になるなら……余計な事を考える人もいるかもしれない」


「で、離れた所を要求しても怪しまれないための新婚設定というわけか」

 ガイが感心し、イムが合わせて頷いていると、ミオンは一転、いつもの笑顔になった。

「ええ。だからこれからは私の事を『ミオン』と呼び捨てにしてね」

「あ……うん。わかったよ、み……ミオン」

 ちょっと気恥ずかしいガイ。しかしこれも依頼人からの要求と考え、指示に従う。

 するとミオンの笑顔は悪戯っぽくなり、わざとらしく優しく(ささや)いた。

「はい。あ・な・た」


「それで俺を呼ぶの!? 『ガイ』でいいだろ」

 思わず抗議。

 ミオンはどこか余裕のある笑顔で「ふうん?」と呟く。

「それならそれでもいいか。じゃあもう寝ましょうか、ガイ」

 そう言ってベッドに腰掛け、毛布を持ち上げた。


 そしてガイに手招き。

 ここに入れ、という意味なのは明白。


「あ、おやすみ……」

 ガイはミオンに背を向け、自分の荷物から野宿用の毛布を引っ張り出した。


 ミオンは「あら?」と首を傾げる。

「設定を徹底しないの?」

「男にそういう冗談は感心しない!」

 ガイの語尾が少しキツめになっているのは、実は動揺によるものだ。

 にまぁ、と意地悪な笑みになるミオン。

「あら、ガイは本気にしちゃいたい?」

「もう寝るます!」

 変な言葉遣いになりながらガイは己の毛布に入って床に寝転んだ。

 胸元にイムが入り込む。


 ほんの少し、くすくすと笑って……ミオンも一人、眠りについた。



――翌朝――



 ガイ達が居を据える事になったのはカサカという村だ。

 なにせ昨日の今日である。村はまだあちこちが壊されていたし、道行く村人にもケガ人がごろごろいた。

 そんな中、ガイ達は村長に案内されて一人の人物と会っていた。


 禿げ頭の老人である。

 歳をとっているのに筋肉質で、腕も足もまだ太く、胸元にははっきりと筋肉が見てとれた。

 老人は徳利(とっくり)から酒を直飲みして「ぬふぅ」と唸る。

「あんたが村を救ってくれたのか。礼を言うぞ。不甲斐ないこの老いぼれに代わって、よくぞ助けてくれた」


 彼はイアン=ジャクソン。

 この村の鍛冶屋であり、ケイオス・ウォリアーの整備士であり、操縦担当にして村の守衛である。

 村を襲った魔王軍にも立ち向かったのだが、たった一機ではかなうわけもなく、撃墜されて負傷していた。


 そう、負傷だ。

 彼は今、体の各所を包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 今いるのも村の中央にある寺院。ケガ人が多いので緊急の病院として使われている。爺さん以外にも、何人もの重傷者があちこちで寝転んでいるのだ。


「薬がもっとあればいんですけど。司祭様も治癒の呪文を唱えてはお休みになられていますが、一人なのでなかなか追いつきません」

 そう嘆くのは村の尼僧・ディア。

 彼女の後ろでは、御座に横たわって年老いた神官がいびきをかいて眠っていた……MPを回復するために。


 ガイは顎に手を当て考える。

「回復薬の類があればいいんだよな。最安値のポーションでも、数あれば」

「そうですけど、なにせ田舎村の道具屋なのでもう在庫全て買ってしまいました。それでも足りないのです」

 村長のコエトールが涙ながらに言う。


 だがガイは笑みを浮かべた。

「材料を集めて俺が作るよ。その代わり、今後はケイオス・ウォリアーの修理に村の工場を使わせてもらうから」

 そして肩のイムに目をやる。

「すぐに行こうか。頼むぜ」

「了解だよぉ」

 イムは笑顔で大きく頷いた。



――近くの山中――



 イムとともに山の中を歩くガイ。

 安物のポーションなら材料もすぐ見つかるだろう。とりあえず夕方まで見つかるだけ探そう、と思いながら。

 山の中腹まで来た時――イムがふわふわと宙へ飛んだ。


(何かレア素材かな? 強力な素材からなら、安い回復薬を沢山作る事ができる場合もあるぞ)

 ガイは期待しながら後を追う。


 そしてほどなく花畑に出る。

 畑、だ。文字通り、人の手で人工的に整備された畑である。

 そこに紫の花がいくつも咲いているが……栽培が上手く行っていないのか、半分ほどは(しお)れていた。


(なんでこんな山中に畑? 周りは森で村からは見えないし、人の通る道も無かったけど……)

 戸惑うガイ。

 だが後ろに気配を感じ、慌てて振り向いた。


 両手にナタを握った中年の農民がガイを睨んでいる。

 殺気も露わに呟く男。

「見たな……」



(鍛冶屋イアン)

挿絵(By みてみん)

嬉し恥ずかし、ヒロインとの一つ屋根の下の同居だ。

しばらくこの状態が続く予定。

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