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24 人の世に外れた物 1

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。

――ケイト帝国・軍格納庫――



 出撃前、ユーガンはテーブルに地図を広げて皆に行き先を説明した。

 地図は現在の帝国領、首都近郊の山岳地帯のもの。岩山ばかりで採石場ぐらいしか無い場所だが――

「敵軍の移動跡、地形、地質……見込みのある所から順に巡って行く事になる」

 彼が貰った資料だと、この地がまず第一候補となった。無論100%など保証はできない。もし違ったら第二、第三の候補……と順に捜索してゆくだけだ。


 ユーガンの意見にその場の皆が頷く。

 そしてその中の一人が力の籠った声で申し出た。

「ならば先導は我々に任せてもらおう。首都近郊なら一度ぐらいは見回った事がある」

 それは、街道でガイ達に遭ったレジスタンス【リバーサル】の部隊長・ミシェルだった。

 彼女だけではない……格納庫には【リバーサル】の隊員がかなりの数集まっているのだ。


「なんだ、オレらだけで行くんじゃねーのか」

 不満そうなタリンが呟いた。

 それが聞こえてしまい、ミシェルが息巻く。

「我々に指をくわえて見ていろ、とでも? 貴方(あなた)達の腕は認めるが、だからといって(おご)るのはやめてもらおうか!」

 その目には明らかに対抗意識が燃えていた。


 タリンがそれに言い返そうとした時……

「そこまでにしな」

 先にミシェルへ声をかける男がいた。

 2メートル近い体躯の角刈りの巨漢だ。無骨な鎧と両手剣で武装しており、若いながらも迫力がある。

 男を見上げ、ミシェルは恐縮した。

「グスタさん……」

 だが男は。そんなミシェルに野太い声で命じる。

「先導はお前に任せるぞ」

「は?……はっ、了解です!」

 一瞬面くらったものの、ミシェルは自分の望み通りの命令が出た事を理解し、背筋を伸ばして敬礼した。



――山間の街道――



 宮殿を、城下町を出て山岳地帯へ向かう一行。

 ゾウムシ型の運搬機の、その操縦席の後部座席で、タリンが不満でいっぱいの顔で「チッ」と舌打ちする。

「出しゃばって身内贔屓までかましやがってよぉ」

 無論、先陣をきるミシェルの部隊とそれを命じたグスタの事だ。タリンは【リバーサル】が自分たちの立てる手柄を横取りするのではないかと疑っていた。

 運搬機を操縦しながら呆れるスティーナ。

「手を貸してくれるなら良い事でしょう」

「手柄をオレらにとられたくねーだけだろ」

 タリンはあくまで【リバーサル】を信用してなかった。



 だがしかし。

『そこまでじゃない。まぁ役立たずだと思われると具合が悪いのは本当だがな』

 野太い男の声が通信機から届いた。皆、その声には聞き覚えがある。

『俺はグスタ。【リバーサル】の団長だ。よろしくな』

 格納庫で会った大男だった。


 スティーナが額に指を当てて考え、この男の情報を思い出す。

「確か……魔王軍を撃破した勇者達の最終決戦に同行した人です」


 それを聞いてタリンの鼻息が荒くなった。

「なんだと!? やっぱオレらを差し置いて全部もっていく気じゃねぇだろうな!」

「この馬鹿の事は詫びますので忘れてください」

 一方的な対抗意識満々の大声を、相手に詫びるスティーナ。

 しかし通信機から返ってきたのは笑い声――気を悪くした様子は無い、おおらかな物だった。

『なんか昔の俺みたいな奴だな。ま、本命の怪獣は任せるから雑魚ぐらいはこっちにやらせてくれ』

 そう言うと相手は通信を終えた。


一角(ひとかど)の人物だな。崩壊したケイト帝国が頼るだけはある」

 感心するユーガン。

 グスタは部下が不満を持たないよう、またガイ達のメンツを潰さないよう、考えながら調整しているのである。

 レレンも安心したようだ。

「自分達の地位や立場を気にして、こちらにつまらん事をしてくる……なんて事はなさそうだ」

 しかしタリンは「はん!」と鼻を鳴らす。

「部下まで全員できた奴だとは限らんぜ」

「同じ内容の事を言おうかと思いましたが、コイツと意見が合うのはなんか嫌ですね……」

 スティーナは実に複雑だ。



 皆が話し合っている中……ガイだけは黙って窓の外を伺っていた。

「ガイ? どうしたの?」

 疑問に思ったイムが訊く。

 するとガイは腰の鞄から珠紋石(じゅもんせき)を取り出し、それを握りしめた。

 結晶に籠められた魔法が発動する。


【ディテクト・シークレット】精神領域第2レベルの呪文。魔法の探知能力で、隠れた物があれば「何かがある」事を察知できる。


「……近くに何か潜んでいるな。先行している部隊に通信を入れてくれ」

 険しい目でスティーナへ告げるガイ。

 スティーナは慌てて頷いた。

「わかりました」



 こうして先を行くミシェルへ忠告したのだが……



『それがわかっていれば敵の奇襲を迎え撃てるな。このまま先行する。報告には感謝しておく』

 ミシェルは意気込んでそう答えたのだ。

 通信が切れ、彼女の部隊がどんどん前進していく様が運搬機のレーダーMAPに表示された。

「大丈夫なのか?」

 レレンが不安そうに皆を見渡す。

 腕組みして考え込むユーガン。

「とはいえこっちが勝手な事をすれば、余計に統率が乱れるしな」

「あー面倒くせー。いっそやられてオレらの引き立て役になっちまえ」

 タリンは面倒臭そうに背もたれへ身を預けた。


 直後、前方から爆発音と何かが崩れる音が響く!

 地面が揺れる!


 通信機から複数の怒号が聞こえた。

「本当にトラップに引っかかったようだぞ!」

 たまげるレレン。

 しかも間髪入れず、グスタの声も届く。

『チィ! 後ろからも来やがった!』


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