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22 ホン侯爵家 8

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。

――ホン侯爵領の岩山(がんざん)地帯――



 侯爵邸からほぼ丸一日の移動の末、ガイ達は荒涼とした荒野の向こう、岸壁が連なるかのような岩山だらけの地にやってきた。

 その中の一つが丸ごとくりぬかれ、そこに古竜の本体を確保した基地を作ってあったのだ。

 ユーガンに案内させ、そこに踏み込む――



 しかし既に誰もいなかった。

 巨大な魔方陣やその天井にある()()を引っこ抜いた跡、ケイオス・ウォリアーの格納庫や巨大生物の飼育室等……確かに基地はある。

 だが人っ子一人いないのだ。


「どういう事だ! もぬけの殻だと?」

 驚いているのは他ならぬユーガン自身。

 彼の指示ではないという事だ。


 と、壁に備え付けられたモニターの一つが起動した。

 そこに映るのはダブルヘッドオーガー……魔物の居留地村長だった!

 彼は面白くもなさそうに告げた。

『『おかえりなさいませ、()()()()()()()()』』

「村長!」

 思いもよらない相手からの通信に、またも驚くユーガン。


『『あんた様には世話になりました。最後の意思を確認したい。それ次第では、今からでも影針(えいしん)の側を離れてあんたにつきます』』

 村長のその言葉に、ようやくガイは合点がいった。

「ああ、影針(えいしん)が全部持って行ったのか」



 村長はユーガンを睨みつける。

『『あんたは領を追い出され、ポリアンナ様が新領主に就任なさると。あんた、それを受け入れるんですかな?』』

「……敗れた以上、やむをえまい」

 ユーガンがそれを認めると、村長は「「はっ!」」と呆れた声をあげた。

『『ああそうですか。なら好きになされい。こっちも好きにさせてもらいます。ではさようなら』』


 そこへ慌てたポリアンナが声をかける。

「待て! なぜ影針(えいしん)と手を組む?」

 彼女を村長は鬱陶しそうに睨みつけた。

『『むしろなんで組まないと思うかね。ユーガンが後ろ盾になると思ったから人間の勢力内に居住区を構えたのに。ポリアンナが頭じゃあこっちが追い出されるのは火を見るよりも明らか。なら先に身の寄せる先を確保しておいて当然でしょうが』』


 居留地の魔物達は、この地に好きで移住してきた元魔王軍の魔物達である。

 だが()()()()好きで移住してきたのではない――生息圏を広げられると思って移り住んだだけだ。

 旗色が悪くなったと思えばこの地の住居を捨てて逃げる事に躊躇(ちゅうちょ)など無い。


影針(えいしん)は何を目論んでいるんだ?」

『『ユーガンが知っているでしょうよ。じゃあこれで』』

 ガイが訊いても適当に答え、ついに村長はモニターを切ってしまった。



 静かになった基地の中、ユーガンは「ふう」と重い溜息をつく。

 そしてぽつぽつと語りだした。

「……魔王軍壊滅後、私は腕の立つ協力者が欲しく、何人かに声をかけた。その一人が影針(えいしん)で……奴は二つ返事で私に雇われた。その時に目的を訊かれたのでケイト帝国の壊滅を話したが、それを聞いて奴が言っていた。自分も人間の社会で暮らす気は無い、魔物こそが住民の国をぜひ作ってもらいたい……と」


 それを聞いてタリンが首を傾げた。

「ん? もしかしてアイツ、人間じゃないのか?」

 ハッと気づくスティーナ。

「いつも覆面で顔を隠しているし……ヒューマノイド型のモンスターだとしても不思議はないわ」

 レレンは難しい顔をして唸る。

「規模は小さくなったが、魔王軍の征服事業を自分が引き継いだという事か」

 それを聞いて皆が重苦しい顔で頷いた。

 戦いはまだ終わらないのだ。


 まぁタリンだけは愉快な笑い声をあげていたが。

「あれでオークだったりしたら笑うな! 王様になったらまずハーレム作りから始めるんだぜ! おい、あいつのオンナの趣味がどんなのだか、いっちょ賭けねーか? 村の女は誰一人テゴメにされなかったからあの中にはいねーな……もしやフリフリピンクの幼女とかかあ? フヒヒヒヒ」

 周囲の刺さるような視線を、彼は全く気にしていなかった。というより気づいていないのだが。


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