21 魔の領域 6
登場人物紹介
ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。
イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。
ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。
――村外れ――
ゾウムシ型運搬機の背中が開いた。そこへ駆け込む骸骨馬・シロウ。背に乗るのはタリンだ。
格納庫の中に伏せるSバスタードスカルの背中へ駆けあがり、開口部へシロウが突っ込む。タリンが叫んだ。
「ドッキーング!」
操縦席内部でシロウが固定されと、スカルの目に光が灯る。骸骨武者型の機体は身を起こし、運搬機から発進した。
骸骨馬を操縦席のシートにする事で素早い発進を可能にしたSバスタードスカル。おかげでガイ達より一早く出撃できたのだが……それでも古竜を改造した怪獣ジュエラドンは居留地の側まで迫っていた。
しかも怪獣は二匹。早く出撃したせいでスカルは単機である。
それでも正面から戦わねばならない。砂と石だらけの荒野に隠れる所など無いからだ。
操縦席となったシロウはガチガチと歯を鳴らす。
『焦るなよ。まだ俺達しか出撃できていない。ここは防戦に徹するんだ』
「ああ、わかっているぜ」
タリンは頷く――が、その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
そしてタリンは叫びと共に機能を発動!
「召喚! いでよオレの僕!」
スカルが刀を大地に刺すと、地面が割れて巨大な躯が大地を揺るがし這い出した。平べったいカエルの骸骨が。
スカルの能力により、かつてガイが倒したアンデッドが呼び出されたのだ!
召喚したアンデッドと横並びになるスカル。その操縦席でタリンが叫んだ――いや、吠えた!
「そして行くぜ! デッドリーアサルトタイガー!」
スカルが刀を構えて怪獣へ突進!
『おい待ておい』
シロウの抗議もなんのその、アンデツド怪獣も共に突進!
それを見た敵の怪獣二匹も巨体を前傾させて突進!
四つの巨体が激突し、大地の震動はまさに巨大なパワーの暴風注意報!
敵怪獣ジュエラドンの太い腕での殴打がバスタードスカルを叩きのめした。
「ウギャアー!」
悲鳴をあげるシロウ。
もちろん怪獣はお構いなしにスカルをブン殴り、地面に倒して踏みつけた。
『防戦に徹するのをわかってたんじゃないのか?』
「だって攻撃は最大の防御だろ!」
シロウは呆れ、タリンは悔しそうに言い訳する。
『敵の戦力を削ってこちらへの被害を減らせる状況ならばの話だ。言葉の意味を理解せんかい』
シロウは呆れ、怪獣は獰猛にスカルを殴打し続けた。
その横では巨大カエルのアンデッドもジュエラドンに殴り飛ばされていた。
パワーが根本的に違う。太くがっしりした体のジュエラドンに比べ、カエルのアンデッド怪獣は骨ばかりなのだ。
アンデッドの首が外れて地面に転がった。
「ウギャアー!」
さらなる殴打を受け、タリンの悲鳴と共にスカルも地面を転げまわった。
『こりゃ死ぬか。明日の朝刊載ったぞお前』
そう言うシロウには焦りも苛立ちもなく、完全に投げているようだった。
絶対絶命……だがその時。
「「させん!」」
2匹のジュエラドンを撃つ二条の熱線。怪獣が咆哮をあげて退く。
それを放ったのは2機のケイオス・ウォリアー……ガイのSサバイブキマイラと、レレンのSヒートタートルであった。
敵が後退した所に割り込む2機。その後ろでよろめきながらもバスタードスカルが立ち上がる。
操縦席でタリンが舌打ちした。
「しまった……このままじゃオレの手柄が!」
『ここで気にするのがそれか』
呆れるシロウ。
しかしタリンは歯軋りして唸る。
「だってガイはタイマンでアレ倒したんだろ。さっきもザコ全部片づけやがるしよ。ここでヤらなきゃオレはついて来てるだけの人じゃねーか!」
「こんな状況で何を言っているんです、貴方は……」
通信機からスティーナの呆れた声が届いた。
ところがシロウが……
『いや、それならやれ』
うって変わって発破をかけるではないか。
「正気か!?」
通信機から、今度は驚くレレンの声。
それへシロウは、さも当然のように言い返した。
『チート野郎の太鼓持ちに甘んじてサスガサスガと連呼する仕事を選ぶならそれもいいだろう。だがおそらく二度と浮かぶ事はできんぞ。それなら駄目元の挑戦も有りで有りだ』
一瞬口籠りはした。けれどレレンは問いかける。
「やられて死んだらどうするんだ? お前達とイアンとタゴサックの三機で、ジュエラドン一匹に負けたのに」
それに対し、シロウはどうでもいいかのように淡々と答えた。
『タリンも不死怪物になるだけだ』
「そんなに不死怪物ばかりカサカ村に増やさなくても」
再び通信機からスティーナの呆れた声が届いた。
ちょっと悠長にし過ぎたか、ジュエラドン達が口から破壊光線を吐いた。それは真っすぐにカサカ村の一行を襲う。
だがガイの機体――既にイムの力でリバイブキマイラに変形していた――が剣をかざし、二種の結界を同時に張った。
【ヒートプロテクション】火領域第5レベルの呪文。あらゆる高熱に対して抵抗力を増し、ダメージを軽減する。
【ブラストウォール】大気領域第5レベルの呪文。気流が敵のブレス攻撃を押し戻し、威力を大きく損ねる。
二重結界の表面で破壊光線が弾け、空気も大地も焼き焦がす!
だがガイ達の機体は全くの無傷だった。
敵の攻撃を遮断しながら、ガイは機体の背中越しに指示を出した。
「一匹は俺が受け持つ。タリンとレレンは協力してもう一匹を頼む」
「え……この機体での初陣がこの組み合わせって……」
予想外の指示にレレンは困惑するが、タリンは意気揚々と叫ぶ。
「今こそ雪辱の時だ! この前のオレと違う事を見せてやるぜ!」
「だ、大丈夫なの……?」
スティーナは物凄く不安そうだったが、シロウが一言。
『大丈夫かどうかは結果でわかる』
「その時には手遅れなんじゃ……」
レレンはどうにも府も落ちないようだが、対するシロウの言い分にはいつになく強い意思が籠められていた。
『その時はそういう結果だったというだけの事だ。結果が駄目だったというのと結果を出す事もできないというのは、似ているようでも全く違う』
これ勝てんの?という流れをあえて用意するのが起伏のある展開になるとどこかで見た。
事実がどうかは知らんがそこは無料ネット小説、やってみるのもいいだろう。