表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/147

21 魔の領域 3

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。

――魔物の居留地・バイオレントヴィレッジ――



 大通りを行くゾウムシの運搬機を、ゴブリンやオーク等の下級の魔物どもが警戒心を露わに窺う。

 しかし助手席にポリアンナがいるのを見て、そいつらは何も仕掛けてはこなかった。


 一方、ポリアンナは苦悩に満ちた顔でガイ達に過去を話していた。

「魔王軍に降ったのは兄の判断です。父がそんな事を承知したのは今でも信じ難いのですが、私の前で、確かに兄へ許可を出しました。おかげで我が領は戦火を免れたのですが……魔王軍が滅んだというのに、今でも魔物達が住み着いています」

「貴女が公安部隊を結成したのは、領内の秩序を守るためですね?」

 操縦しながらスティーナが訊くと、ポリアンナは頷く。

「はい。地元民と魔物達、両方を抑えるには両方に苛烈な態度をとるしかない……私の頭では他に思いつきませんでした」

 後部座席からシャンリーが口を挟む。

「両方から恐れ、嫌われるわよ?」

「承知の上です」

 動じる事なく、はっきりと。ポリアンナはそれにも頷いた。



 タリンは話にあまり興味が無いようで、往来の魔物どもを眺めていた。

「どいつもこいつも不細工なツラしてんな」

 共に外を窺っていたレレンがポリアンナへ訊く。

「しかしどうやって黒幕を探すのだ?」

「下っ端ではなくそれなりの地位がある相手でないと、話にならないと思います。村長の所へ行こうかと」

 そう答えながらポリアンナはモニターを指さす。

 示した点は……現在向かっている場所だ。彼女は始めからそこへ運搬機を誘導していたのだ。



――村長宅――



 村長はポリアンナと「そのお付きの一行」を快く迎え入れてくれた。

 砦のような無骨な石造りの建物の奥で待っていたのは一体のオーガーロード。赤銅色の肌に身長2メートルを超える屈強な巨体。畳の上にあぐらをかき、傍らには人間並みの大きさの棘つき金棒。

 そして何より奇怪なのは、頭が二つ有る事……ツインヘッドオーガーロードなのだ。


「「ようこそおいで下さった、ポリアンナ様」」

 二つの口が同時に喋る。口調は丁寧だが(かしこ)まった様子はない。だが敵意も感じられない。

 ポリアンナは頷き、自らも畳の上に座った。

「うむ、突然の訪問ですまないな。調べたい事がある。協力してもらえるな?」

「「それはもちろん! お付きの方々もどうぞそちらへ」」

 言って近くのテーブルを指さす村長。

 ミカンの入った(ざる)と茶瓶、複数の湯飲みが置いてある。自分らで勝手に飲み食いしてろという事だろう。



 ガイ達がテーブルにつくと、ポリアンナは兄の事を話した。

 その周辺でおかしな事をしている者、何か吹き込んでいる者はいないか……と。


(そんな正直に聞いて、話してくれるかなぁ?)

 ガイはそう思ったが、口は挟まない事にした。

 だが行動する時を誤らないよう、何か怪しい兆候がないか観察だけはしておく。



 しかし……意外にも。

「「はぁ、困りましたな」」

 村長ははっきりとそう言った。


「どういう意味だ」

 当然、ポリアンナは問いただす。

 それに対して村長は――

「「貴女の兄上について、詳しい事は()()()()()()()()()ゆえ」」


 己が何か知っている事を、堂々と口にしたのだ。

 その上で誰かに喋らないよう言われている事さえ。


「貴様、何を知っている!」

 いきり立つポリアンナ。その手を腰の剣にかけさえしている。

 しかし村長は動じない。そしてポリアンナに告げたのだ。

「「口止めしたのはマスターボウガス……貴女の兄上自身ですぞ」」

「なっ!?」

 目を丸くするポリアンナ。


 そんな彼女を前に、村長は神妙に(かぶり)を振った。

「まぁご両親にお聞き為さればどうか」

「ど、どういう意味だ!」

 思いがけなく両親の事が出てきて、ポリアンナは動揺する一方だ。

 問い詰めている側でありながら、彼女は会話の主導権を完全に失っていた。


 ミカンを食いながらタリンが肩を(すく)める。

「どうもあんただけ蚊帳の外みたいだぜ」

 そう言われて「ハッ」と気を取り直し、ポリアンナは少しの間逡巡(しゅんじゅん)した。

 だがやがてスッと立ち上がる。

「……いいだろう、両親に確かめる。もし私を(たばか)っていれば相応の処分があると思え!」

 そう言われても村長には全く恐れる気配も敵意の欠片も無い。平気な顔で頷くだけだ。

「「わかりました。あ……そうそう。お付きの方々はもしやガイ殿ご一行ですか?」」

「知っているのか」

 嫌な予感がしながらも聞き返すガイ。

 村長は畳を踏みしめて立ち上がる。

「「別の客人が先に来られておりましてな。あなた方がもしこの村に来られたら報せよとの事でした。その方はこちらで待っていますぞ」」



――村長宅・裏庭――



 屋敷の裏庭には沢山の石塔が立っていた。雑に切り出した石を崩れないよう積んだ無骨な物だ。

 しかし……見渡しても誰もいない。


「どこにいるんだ?」

 タリンが村長へ振り返るが、ガイは石塔の一つを指さした。

「あちこちにいる。あそこにも」


 すると石塔の陰から黒装束の男が音も無く現れる。

 魔王軍残党の暗殺者・影針(えいしん)が。

「流石に貴様は気づくか。ここに潜む者達の事も……な」


 敵の登場に驚きながらも、レレンは急いでガイに訊いた。

「どういう事だ?」

「待ち構えていやがったという事だ」

 ガイが答えるや、石塔や他の物陰から敵が姿を現した。


待っている=待ち構えている。

何も矛盾はしていない。

正直なのは良い事なのだと小学校の先生も言っていた。大人は嘘つきではないのです、間違いをするだけなのです。意図的にな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ