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21 魔の領域 2

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。世界樹の木の実から生まれた分身体。


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。その正体はケイト帝国の第一皇女だった。

 ならず者どもを震え上がらせ逃走させた騎士達。その隊長は赤毛を後ろで束ねた、ガイと歳の変わらない少女。

 彼らを遠巻きに見る地元民の目にも薄っすらと恐怖があった。

 ガイはゾウムシ型の運搬機から降り、すぐ側にいた地元民に訊いてみる。

「ポリ公だって? あの騎士は一体……?」


 操縦席の中から女騎士を見ていたシャンリーが窓を開けて身を乗り出す。

 そして小さく呟いた。

「彼女は、ポリアンナ……?」


 それを聞いた地元民が頷く。

「ああそうじゃ。領主の一人娘、ポリアンア様じゃ。子供の頃から文武両道の才媛じゃったが……領が魔王軍の配下になってから、あの緋色の鎧を纏って公安維持部隊を結成なされた」

 そう言うと、地面に転がる三つの生首を見て震えあがった。

「その裁きは即座かつ絶対にして弁解無用。強制両成敗を掲げ、揉めた連中から一人ずつを必ず血祭にあげる。あまりに問答無用で必ず死者が出るがゆえ、領内のならず者どもはポリアンナ公安維持隊を『ポリ公』と呼んで恐れておるのじゃ」



 地元民の言葉が聞こえる筈もないが、赤い女魔法戦士ポリアンナがガイ達の方を振り向いた。

 その目が大きく見開かれる。と、彼女の顔色が蒼白になった。


 ポリアンナが大股でガイ達へ迫る。

 地元民が、潮が引くかのように道を開けた。

 付き従っていた騎士達は戸惑っている――彼らにも女隊長の行動が理解できないのだ。

 ガイ達の側へ来たポリアンナは、()()()()()話しかけてくる。

「……お前達。我らが本部に来い」


 目の前に来られて、ガイはポリアンナがどこを見ているのか察した。

 運搬機にいるシャンリーだ。


 シャンリーもポリアンナを見つめて頷く。

「ええ、行きましょう」



――ポリアンナ公安維持部隊本部――



 街の警備兵の詰め所の一つを丸ごと使っている、公安維持部隊本部。

 その一室で人払いをし、ポリアンナはシャンリーに片膝をついて頭を下げた。

「ついにこの時が来てしまったのですね……何も弁解はいたしません。シャンリー様、我が領は魔王軍に従う事で安全を得ました。今となっては討伐されて当然というもの」

 そして強い眼差しでシャンリーを見上げる。

「しかし両親に情けをかけ、お取り潰しだけはご容赦願えませんか。私のこの首なら差し出します」


 そんな彼女に――冷たささえある眼差しで見つめながら――シャンリーは言った。

貴女(あなた)が死んでもユーガンを放っておいたら意味がありません」


 ポリアンナは視線を落した。床についた手をぎゅっと握り締める。

「あ、兄としても苦渋の決断だったのだと思います。あの理知的で優しかった兄の事、領民の犠牲を最小限にするために仕方なく……」

 だが途中でタリンが「ハァ?」と口を挟む。

「いやいや、アンタの兄貴を吸血鬼にした奴を探して倒さないと意味ないだろ」

 するとポリアンナが仰天し、跳ねるような勢いで顔を上げた。

「ええ!? い、今なんと!?」

「……知らなかったのか」

 ガイは思わず呟いた。



 ガイ一同はマスターボウガス……ユーガン=ホンについて、わかっている事を全て話す。

 人払いがされていたのは幸いだった。

 ポリアンナは愕然としていたが、ケイト帝国第一皇女がいるガイ達一行の言葉を疑いはしなかった。



 呆けたように「そんな、そんな……」と呟くポリアンナを前に、タリンが「はーあ」と気の抜けた声をあげる。

「家族でさえ知らないなら黒幕がどこに潜んでいるかわかんねーな」

 少し考えスティーナが訊く。

「あなたの兄さんが変わる前後に家に入り込んだ者はいませんか?」

「いません」

 即答するポリアンナ。

 少し考えスティーナがさらに訊く。

「……使用人とかメイドとかも含めて」

「いません」

 即答するポリアンナ。


 ここまでの事を思い出し、ガイは首を捻りながらなんとか考えを絞り出した。

「魔物の居留地……この領にあるんだよな? そこが一番怪しいのかもしれないぜ」

「ならば私が案内します!」

 即答しながらポリアンナがア立ち上がった。



――サイーキの街から運搬機で離れる事、数時間――



 埃っぽい風が吹きすさぶ荒野をガイ達の運搬機が進む。

 ホン侯爵家領にある、魔王軍残党の居留地へ向かって。


 ポリアンナも同行を願い出て、運搬機の操縦席にいた。

 公安維持部隊の隊員は他には一人もいない。

「すいません。あそこに黒幕がいるという証拠を何も掴んでいない状況では、部隊を率いて乗り込む事はできません。あくまで私個人の視察という形になります……」

 詫びる彼女にタリンが肩をすくめる。

「立場って奴か。面倒くせーな」

「そこが適当よりはいいだろ」

 ガイはそう言いながら前方に注意を向けた。


 遠くに町並みが見えたからだ。

 岩山の裾にある、あばら家の並ぶ雑然とした街並みが。


 ポリアンナが嫌悪感を見せて呟く。

「あれが魔物達の居留地、バイオレントヴィレッジです」




(魔剣士ポリアンナ)

挿絵(By みてみん)

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