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20 真の名 1

登場人物紹介


ガイ:主人公。冒険者の工兵。在籍していたパーティを追い出されたが、旅で妖精と記憶喪失の女性に出会った。なんやかんやあって今では村一つを丸ごと所有する地主。


イム:ガイが拾った妖精。謎の木の実から生まれた。何かと不思議な力が有るようで?


ミオン:戦場跡で出会った記憶喪失の女性。貴族の子女だろう彼女から護衛を頼まれ、ガイは行動を共にしている。表向きは夫婦を装って。

――ガイの家――


 集会場から帰るなり、ガイはテーブルに器材を広げた。そして魔法道具(マジックアイテム)の合成を始める。どうやら液体を扱っているようだ。

 イムが何かの実を抱えて運び、助手を務めている。

「何をしているの?」

 ミオンが尋ねると、ガイは顔をあげて微笑を浮かべた。

「記憶喪失を回復できる薬は造れないかと考えてさ。精神系バッドステータスの高位治療薬を作成するんだ。俺は元々ポーション造りは得意じゃないから植物系の素材だけじゃ造れなくて、村の商品買ってきたりしてちょっと手を焼いているけど……」

 そしてまた作業に戻る。


(記憶が、戻る……)

 微かな不安をミオンは感じる。

 それが何故なのかはわからないが、漠然と。

 失った物が災いを呼ぶ可能性か、現状を失う事への心配なのか……。


 だが本来は自分が何者なのか、判明する事を望んでいた筈だ。

 ガイの作業を邪魔しないよう、ミオンはそっと離れた。



――夕方、陽が傾く頃――



「できたぜ!」

 ガイが自信に満ちた声を上げる。

「!」

 夕食を作り始めていたミオンだったが、その声に思わず手を止めた。


 少しだけ逡巡して……ミオンはテーブルへ向かう。

 ガイは薄い橙色の液体が入った薬瓶を手にしていた。

 器材もそのままに、ガイは急ぎ薬を持ってミオンの前にやって来た。


 薬瓶を手渡すガイ。

 ミオンはそれを受け取った。

 不安げな眼差しをガイへ送る。


 ガイは逆に自信と期待があったので、ミオンの視線を不思議に思った。

「少なくとも体に害は無い筈だけどな……」

(そういう心配じゃないんだけどね)

 しかしそれを口に出す事なく、ミオンは薬に口をつけた。


 小さな瓶である。飲み干すのに時間はかからない。

 空になった瓶をテーブルに置き、ミオンは額に手を添えた。

「どうだ?」

 自信はあった筈だが、流石にそう訊くガイには僅かな不安もあった。


 イムがドキドキしながら見守る中、ミオンは「ふう……」と小さく溜息一つ、ガイの目を見つめる。

「……よく効く薬ね」

「て事は!」

 ガイの言葉に頷くミオン。

 宙にいるイムの顔がぱあっと明るくなった。


 だがしかし。

 ミオンの顔にあるのは、暗い(かげ)りだった。



 彼女はガイを真っすぐ見つめ、重々しく口を開く。

「ガイ。ちょっと大変よ」

「そうなのか?」

「そうなのぉ?」

 予想外の反応に思わず訊き返すガイとイム。

 それに頷くミオンが告げるのは――

「私、あのマスターボウガスを知っているわ」


 ミオンの過去かと思いきや、突然出て来た元魔王軍親衛隊の名。

 ガイは一瞬、面食らう。

 しかしすぐに思い至った――ミオンの存在に反応し、主目的ではないにせよ機会があれば捕えようとしていた……あの男が関係者なのはわかっていた事だ、と。

「まぁそうだろうな」

 頷くガイの前で、ミオンは視線を落として考える。

「なぜ魔王軍にいたのか、今なぜケイト帝国に(あだ)なそうとしているのかはわからない。不死怪物(アンデッドモンスター)らしいけど、それを信じ難くも思っている」

 そう言うと再び顔を上げた。

 そしてガイと目を合わせる。今度はまるで覗き込むかのように。

「彼は、私の……婚約者候補の一人。ケイト帝国・ホン侯爵家の長子、ユーガン=ホン」


 やはり貴族家同士の結びつきがあったのだ。

 結婚当日まで互いに顔も知らないような婚姻もあるが、逆に幼い頃から会わせて顔馴染みにさせておく事もある。後者だとすれば、マスターボウガス――ユーガンという青年がミオンを知っているのも、他人の空似ではないと確信するのも当然だ。

 場合によっては……己の手に取り戻そうとする事も。



 それにしても、婚約者候補の()()とは。同じような相手が複数いたという事だろうか。

(とすれば、かなり大きな貴族家なのか?)

 そう考えてガイの心に重圧がかかる。

 しかし……

(そういう可能性だって考えていただろう?)

 自分に言い聞かせて覚悟を決めた。

「ではミオン……じゃなくて、君は。どこの誰だ?」

 静かに、はっきりと。

 ()()()()()()()()()()()()は告げた。


「ケイト帝国、皇帝一家の長女。シャンリー=ダー」


 貴族どころではなかった。


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