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3 旅立ち 4

巨大兵器戦がハジマルヨ。

 罪も無い村を襲う邪悪な魔王軍。

 それを遠目に、ガイは迷わなかった。


 山裾の小さな森の中に急いで隠れたのだ。操縦席で息を潜め、見つからない事を祈る。


 情けないと言うなかれ。

 今乗っているのは武器も装甲もボロボロの機体である。対して魔王軍の機体はほぼ無傷。種類違いの機体が4機。

 一対一でも勝てない相手が数でも四倍。これに挑むのは自殺だ。

 その上、今はミオンの護衛を請けている。顔も名も知らぬ村人達と心中してやるわけにはいかないのだ。

 肩のイムも座席背部のミオンも、村の惨状を見て(おのの)いたのか、ガイを批難する事もなくじっと黙ったままだ。


 幸い、ガイは工兵(エンジニア)。隠密行動は得意分野だ。操縦者が一体化して動かすというケイオス・ウォリアーの特性のおかげで、操縦者の技能(スキル)を活用できるのは利点である。



 だがしかし。

 焼けた村から痩せた馬に乗り必死に逃げてくる者がいた。ご丁寧に、ガイ達が隠れている森へ真っすぐに。

 森から村までの距離は大した事はなく、馬の駆け足ならすぐそこである。馬の上で鼻水垂らしながら泣きじゃくっている肥えた中年男にしてみれば、命からがら森の中へ逃げ込みたい……というだけの事なのだろう。


(ば、馬鹿野郎! よりによってこっちへ来るかよ!)

 胸中で罵倒するガイの思いを嘲笑うかのごとく、なんと魔王軍の機体が一機、逃げる馬を追いかけて迫ってくるではないか。

(ば、馬鹿野郎! そんな馬無視して村に専念しろよ!)

 胸中で罵倒するガイの思いを嘲笑うかのごとく、魔王軍の機体は弩を放った。馬を狙った一撃は見事に()()、ガイ達の隠れていた木立を撃ち抜き、ヘシ折る。


 当然のごとく露わになるガイのポンコツ機。

 当然のごとく魔王軍の機体はそれに気づいた。

 追い打ちをかけるかのごとく、馬上の男が泣き叫ぶ。ガイ達の機体に。藁にも縋る思いで。

「ひえぇ助けてくれぇ!」


(ば、馬鹿野郎! こっちのセリフだよ!)

 ガイは思わず額を抑えた。



 もはや馬上の男など気にする事なく、魔王軍の機体はガイ達へ迫る。その機体は鎧の巨人機・Bソードアーミー……ガイの乗機と同機種だ。

 だが相手は万全の状態。ガイ機はスクラップを寄せ集めた半壊状態。

 勝率は、贔屓目に考えて絶望的である。


 ガイの決断は早かった。

 機体を膝立ちにすると他の二人に叫ぶ。

「降りて逃げろ! できるだけ時間を稼ぐ」


「や、やだよぅ」

 イムは泣きそうになりながらガイにしがみついた。

「魔王軍がすぐ側にいる状況で放り出されても……。なんとか逃げられないの?」

 流石に恐怖で青ざめていたが、それでもミオンはそう訊いてきた。

「そうは言ってもな。機動力も低下してるんだ、コイツは」

 ガイが自機のコンディションを説明している間にも、次の矢が機体を掠め、木をまた一本ヘシ折った。


 ガイの首にしがみつくイム。必死な彼女の翅が震え……薄ぼんやりと輝く。

 その時――不思議な事が起こった。



 ガイは見た。自機の数メートル先に虹色の渦が生じるのを。

 そして見た。そこから花吹雪が吹き付けてくるのを。

 さらに見た。どこから生じたのかわからない蔓と枝が機体に絡みつき、そこかしこで葉を繁茂させるのを。


「何が一体!?」

 驚愕してそう叫んでいる間に、花吹雪は止んで渦は消えた。

 その時には既に、ガイの機体は灰茶色と緑の鎧を纏っていた。


 ガイは機体を立ちあがらせる。

(なぜこんな物が? イムの力なのか? 追加装甲……いや、それだけじゃない!)

 無かった筈の左腕が()()

 ぼろぼろの剣は倍近い長さの大太刀になっており、刃こぼれ一つ無い。

 欠けていた部品が再生――というよりこの場で生成されたのだ。

 追加装甲により外観も変わり、肩には葉が固まってできた板が、兜の両側には吹返(ふきかえし)ができている。


 ギリシャの重装歩兵(ホプリテス)がごとき機体が、鎧武者へと変化していた。

 その胸には大きな一輪の桜花が刻まれている。



 戸惑うガイの眼前のモニターにデータが転送された。

 一つはガイ機の変化に驚き足を止めた、魔王軍の機体の能力値。


Bソードアーミー

ファイティングアビリティ:100

ウェポンズアビリティ:100

スピードアビリティ:100

パワーアビリティ:100

アーマードアビリティ:100


 そしてもう一つ、()()()()()の能力値も。


パンドラアーミー

ファイティングアビリティ:140

ウェポンズアビリティ:120

スピードアビリティ:120

パワーアビリティ:130

アーマードアビリティ:130


「名前変わってる!? アビリティも激変してる!? 何がどうなってる!?」

 驚愕のあまり顎が外れそうになるガイ。

 その肩でイムが発破をかけた。

「ガイ、今だよぅ!」

 その声にハッと我を取り戻し、ガイは急いで森から駆け出す。敵へと、真っすぐに。


 原因が全くの不明でも、これが生き残るチャンスである事は間違いないのだ。


 敵機は(おのの)き、戸惑っていた。敵にもガイ機の変化は見えているし、アビリティも表示されているのだろう。

 だが相手が迫ってくる事でなんとか行動を決め、剣を構え直して斬りかかってくる。


 ガイ機の鎧武者と敵機の重装歩兵が、互いに切り結んだ。

 刃と刃が交錯、激突する。


 金属の砕ける激しい音!

 折れた刃が宙を舞った。

 その刃が地面に突き立つと同時に……魔王軍のBソードアーミーの、()()()()転がり落ちる。

 一瞬遅れて倒れる下半身。


 ガイ機・パンドラアーミーの一閃は、剣ごと敵機を一刀両断した……!

設定解説


【操縦者が一体化して動かすというケイオス・ウォリアー】

 魔法の鎧を作成する技術が紆余曲折を経て枝分かれした技術なので、ケイオス・ウォリアーは操縦者が意識を一体化させ「巨大化した自分の体」として操縦する。

 これにより操縦者の戦闘技術をダイレクトに反映させる事ができるのだ。

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