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第六節 Restart ①

 黄金に輝く大剣が、振り落とされる。

 まばゆい大剣は、真っ黒な空間に裂け目ができ、その向こうにいた気配と相対する。

 敵の力と大剣がまとう魔力がぶつかり合うと、爆発を起こしたかのような衝撃波を生み出し、ユリアたちは黄金の光に包まれた。そこから巨大な光の柱が生まれ、空間を突き破る。ユリアたちを囚えていた空間は、強風にあおられた砂山ように消滅していった。


「……」


 衝撃波による爆風と強い光が収まった。

 目を開けた仲間たちが見たものは、ユリアの後ろ姿だった。手にあった黄金の大剣は消えている。彼女は、何事もなかったかのように長い髪をなびかせて佇みながら、目に見える光景を見据えていた。

 謁見の間は、ほぼ全壊している。半年前の事件でも、この場は一部損傷してしまったが、今回はそのときの比ではない。まるで何かに食べられたかのように、玉座の周辺は床も壁もすべて姿を消しており、階段だけが若干の形を留めている。天井は完全に崩落しているため、空がよく見える。


「ユリア……」


 助け出した瞬間、敵が作った空間とその力をたった一撃で消滅させた。そんなユリアの後ろ姿を見た仲間たちは、胸を躍らせるように微笑んでいる。

 そんな仲間たちに光をもたらした、頼もしい後ろ姿を見せている当人はというと──。


「……ちょっと待って……?」


 顔を引き攣らせ、手や首筋から冷や汗を滲ませていた。じょじょに鳥肌も立っていく。

 やがて、おずおずと崩壊した空間を細かく確認をしはじめた。柱の残骸から見える彫刻の紋様、短い階段の残骸。床に敷かれていた絨毯──何度も残骸を見ては、壮大に空いてしまった天井を見上げる。


「こっ、ここって……ま、さか……ヴァル、ブルク……。謁見の、間……? 玉座は、どこへ……?」


 彼女の声は震えていた。

 敵を撃破できたことと再会の喜びを抱いていたはずの仲間たちは、挙動不審なユリアの声を聴いた瞬間、真顔になって黙り込む。

 そんな仲間たち──これでもユリアにとっては、遠い過去へと飛ばされてから実に半年ぶりの再会となるのだが、自ら玉座を吹き飛ばしてしまった疑惑に恐れをなしてしまい、再会の感動が完全に飛んでいった──には目もくれず、ユリアは悲惨な光景となった謁見の間から目をそらすように後ろを振り向き、目線を下に向けてキョロキョロと目線を泳がせはじめる。

 そして、もう一度振り返り、おそるおそる玉座があった場所へと顔を向けた。


「……やっぱり謁見の間なの!? えッ!? 玉座ごと吹き飛ばしてしまったの!? エッ!? 私、実家の謁見の間を玉座ごとぶっ飛ばしたの!? ──イヤだーーッ!」


 現実を見ることができない叫びを発した後、ユリアはとうとう足の力を失ったように両膝をつき、前方へ倒れて両手までも地面についた。

 そんな彼女の背後からセウェルスが近づいてきた。彼は、近寄るとしゃがんで彼女の肩に手を置いた。若干、笑いを堪えている顔をしながら。


「……昔から魔力の力加減が下手だったお前なら、ここまで盛大にやらかして──いや、やってくれると信じていた」


「言い直しても何のフォローにもなっていないわよ! どうして囚われている場所が謁見の間だと教えてくれなかったの!?」


「たとえ教えていたとしても、この結果は免れなかったと思うぞ」


 わかっている。手加減できる敵ではなかった。

 だから、これほどまでの大火力を出したのだ。

 それでも、どうにかできていたかもしれないのではと思ってしまう。無理だとは思うけれど。


「──ともかく、おかえり。よくぞ戻って来きてくれた」


 そう言われてセウェルスから手を差し伸べられると、深く凹んでいたユリアはその感情をいったん引っ込め、彼を見つめながら微笑んでその手を掴んで立ち上がった。


「……ただいま。あの領域では、何もできなかったけれど、あなたたちが繋いでくれた空間だけは干渉できたのよ。──やけくそにしがみついて、術式を感覚でこじ開け続けていた甲斐があったわ」


 召喚術は古い時代から禁忌とされていた。そのことから、ユリアは召喚術についての知識は何も無い。

 つまり、一歩間違えれば術式に異変が起き、あのタイミングに彼女が戻って来ることはなかった。だが、セウェルスはそんな彼女を信じた。


「……姉さん……」


 ルキウスの声が聞こえると、ユリアは即座に弾けんばかりの喜びを露わにした顔を少年のほうに向けた。


「──ルキウス!」


 そして、力強く少年を抱きしめる。

 急に抱きしめられたルキウスは、戸惑いと恥ずかしさを抱えながらもやんわりと抱き返した。


「お、おかえりなさい、姉さん──。遅くなってごめんなさい……」


「違うわ。あなたが謝ることなんて何もないのよ。……今までよく頑張ったわね。ありがとう、ルキウス」


 その時、ルキウスとセウェルスはユリアが気付かぬよう、ちらりと離れたところにいる仲間たちに目をやる。

 ユリアに近寄ったのがルキウスだけなのは、彼女の両親のことを気にしているからだ。

 彼女の両親は、気配を消しているようだ。仲間たちとの再会の喜びに水を差さないようにか、いざ本物の娘を見ると一歩踏み込めずにいるのか──おそらく、どちらともだろう。

 気配を消しているため、ユリアはまだ両親の存在に気づいていない。他の仲間たちが、どうしてこちらへ近寄ってこないのかという疑問を彼女が抱かないのは、謁見の間と玉座を吹き飛ばしてしまったことが、今もまだ彼女の頭の中のほとんどを占めているからだ。


「……ねえ、ルキウス。本当にどうすればいいのかしら──謁見の間と玉座……」


 ルキウスから離れ、再び崩壊した謁見の間を見つめながらそう呟くと、彼女はがっくりと首垂れた。


「……う、うーん……」


 ルキウスは、ユリアに気づかれないように彼女の後方にいるシルウェステルとカタリナを見る。彼女の両親は、特にこの被害を問題視しているようには見えない。


「──ようやく再会が叶ったというのに、俺達のことよりもそのことを気にかけるのか?」


 セウェルスが呆れたように声をかける。


「そういっても……これでも私は、この城に住んでいた王族なのよ……。玉座だけでなく、謁見の間ごと半壊させてしまったなんて……」


「理由が理由だ。お前が悪いわけじゃない。カサンドラ曰く、ここは今もヴァルブルク王家の所有地だそうだ。失態によるお咎めはないだろう」


 謁見の間を直すことになれば、かなりの時間がかかる。瓦礫が残っていればまだよかったのだが、それすらもほとんど消滅させてしまった。

 なので、まずは資材集めをする必要がある。近くの山から石材を見つけて運び、記憶を頼りに修復させなければならない。ステンドガラスはどのようなものだったか。柱の彫刻──考えるだけでますます気落ちしていく。

 今は、何も考えないでおこう。せっかくもとの時代に帰ることができて、敵も撃破できたのだから。今は喜びに浸っていたい。

 気を取り直したユリアは「そうね──」と呟くと、改めてセウェルスとルキウスを目に映す。


「……助けてくれて、本当にありがとう。また会えて嬉しいわ。セウェルス、ルキウス」


「あの敵を倒すことができたのは、ユリア・ジークリンデのおかげだ。お前ならやってくれると信じていた」


 アイオーンの姿であっても、彼女は迷うことなくセウェルスという名前を呼んだ。そのことに、彼は嬉しそうに微笑む。


「──不思議なものね。あなたとは、ずっと昔に出逢っていたというのに、『ようやく再会できた』なんて」


「ああ……。アイオーンとして出逢った頃は、本当の記憶は無く、ルキウスも居なかった。だから、今この時こそが、あの時に交わした約束を叶えることができたんだ」


「そうね……。そういえば、私がいなくなってからかなり経っているの?」


「いや。まだ一日だけだ」


「一日だけ……。まあ、こちらの時間が過ぎすぎていても困るものだから、一日でよかったわ」


 半年ほどまったく別のところで過ごしていたが、あそこは今から三、四千年は過去にあたる時代だ。

 過去で過ごした時間と、現代から姿を消してから過ぎた時間の差が違っても、なんら問題はないだろう。


「……そうだ。姉さん、これを──」


 そう言いながら、ルキウスは自身の襟元を探る。服の中から出てきたのは、ネックレスチェーンに通された金の指輪だった。

 この指輪は、ヒルデブラント王国軍の極秘部隊である証。時を渡っているときに、ユリアがルキウスへ渡したものだ。ルキウスはそれを外し、ユリアへと渡す。


「やっと返すことができました」


「ありがとう。ずっと持っていてくれたのね」


 その時、後ろから背中を勢いよくバシッと叩かれ、肩に誰かの肘が置かれた。

 クレイグだ。なにやらニヤニヤとしている。

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