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第三節 ふたたび ⑤

「はは……。たしかに、普段の姫さんは王族感ないよな。ローヴァインの屋敷に行ったら、だいたい家事しててあっちこっち歩き回ってるし」


「けど、台所にいる時間が長いのは間違いなく──って、その本人が何か言いたそうに笑い堪えた顔してんな」


 クレイグがそのことに気付くと、指摘された本人は「ふふ」と小さく笑う。


「いや、な……。何事もなかったかのように雑談をはじめるものだから、どう反応しようかと迷っていたんだ。俺がセウェルスとしての記憶を取り戻したことは、わりと大きな出来事だと思っていたのだがな」


 その言葉に反応したアシュリーは、何かを企むようにニヤニヤとしはじめる。


「──あ。まさか記憶取り戻せたお祝いパーティー開催してほしいとか? せっかくやし、盛大に祝おか? ローヴァイン家とベイツ家総出で」


「いや、遠慮する。むしろしないでくれ。十中八九、面倒な方向に盛り上がって収拾がつかなくなる」


「失礼やな。否定できんけど」


「そんなお前だが──」


 セウェルスは誇らしく伝える。


「俺は、お前たちに出逢えてよかったと思う。お前たちと出逢えたからこそ、俺は本来の自分を取り戻すことができて、弟とふたたび会うことができた。……ありがとう」


 出逢えたことへの感謝を贈られた特務チームの面々は、突然の言葉に面食らった。

 まごついたり気恥ずかしがったりして言葉に詰まる仲間たちを見て、セウェルスは面白そうに微笑む。


「──兄さん。もう大丈夫そうだね」


 すると、兄とその仲間たちとのやり取りを静観していたルキウスは嬉しそうに言った。


「ああ。……いつの間にか、お前は立派になったんだな。はじめの一、二年ほどは、俺の姿が見えなくなると不安そうな顔をしていたというのに──誇らしいやら寂しいやら」


「おれ、もう子どもじゃないよ」


「いいや……まだだ。まだ子どもでいろ。少なくとも成人するまではな」


 そんな兄の言葉に、ルキウスはムッとする。


「成人って──今が何歳かわからないのに?」


「今のお前は、十四、五……。いや……十ニ、三歳くらいだろう」


 思っていたよりも低い年齢を言われたルキウスは、少しずつ不機嫌そうな顔へと変える。


「なんで低くなったの……? 十五でもいいでしょ?」


「お前はまだ幼い。時を渡って、現代に辿り着いてからどれくらい経った? 外見や身長はあのときからほとんど変わっていない──経っていても半年くらいだろう? そこを加味しても、お前の生まれてからの体感時間はまだ三年ほどだ。だから十三歳ほどが妥当だろう」


「なんでさ!? 立派になったって言ったくせに!」


「理由はもうひとつある。子どもでいられる時間は、大人になってからの時間よりもはるかに短い。だから、お前にはまだ子どもとしての時間を満喫してほしいんだ。身体が大人として成長しきってしまった俺の分もな──この外見では、さすがにもう無理だからな」


 セウェルスは、自身の大きくしっかりとした手を見て、笑いつつもため息をついた。

 兄の言っていることがよくわからなかったルキウスは、小さく首を傾げる。


「兄さんだって、たまには子どもみたいにはしゃいでも全然いいと思うけど……? 誰かに迷惑かけるのはダメだけどさ」


「──」


 セウェルスは困ったように微笑んだ。やがて、目を伏せて息をつく。


「……そう出来ない理由が、『大人』になるといろいろと出てくるものなんだ。それがわからないなら、お前はまだまだ子どもということだ」


「なにそれ。というか、子どもじゃないって言ってるのに」


 子どもっぽく不機嫌になるルキウスに、セウェルスは「わかったわかった」と軽く受け止めた返事をした。

 わかっていなさそうな兄に対し、弟は兄の胸板に一発の拳を軽く打ち込む。その後、自身の身体を体当たりさせるように抱きついた。


「──おかえり、兄さん」


 ルキウスの口調から苛立ちが見える。子ども扱いされた怒りがまだ収まりきっていない弟に、セウェルスは小さく笑った。


「……フ」


「『ただいま』は?」


 子ども扱いされた仕返しか、ルキウスは叱る口調で催促する。

 そんな弟に、セウェルスはどうにか口角を上げながらも笑いを堪えながらルキウスの頭に手を置いた。

 兄と再会できてからしばらくすると、冷静で大人びていた少年は、幼い一面を隠すことなく素の自分を見せた。特務チームは、そんな兄弟を見守りながらも密かに笑っている。


「ああ。ただいま、ルキウス」

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