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第二節 明日への調律 ②

 眠ったアイオーンを連れ、一同がローヴァイン家の屋敷に戻ると、ラウレンティウスたちは自分といとこたちの両親に先ほど起こった出来事を説明した。

 その途中に、カサンドラとエドガーがやってきた。

 彼女たちはやって来てすぐに「(わたくし)たちは、ユリアに起こった事などを説明するためにやってきたの。なので、貴方がたの両親たちへの説明は、私に任せてちょうだい」と言ってくれた。眠ったアイオーンに関しても、彼女たちや両親たちが引き受けてくれた。

 そして、特務チームは応接間のソファーに座ってルキウスから説明を聞く。

 ユリアが突如として消えてしまった理由、はるか昔の時代とユリアが関連していること、ルキウスとアイオーンの関係とその過去。そして、それらの過去によってこの星の状態に変化が起きてしまったこと。それに伴い、ユリアの運命とアヴァル国の聖杯の事件──特務チームがユリアとアイオーン伝えに聞いたこと、あるいは見てきたことは、『とある出来事』から連鎖し起こったものであるとを知る。


「……長くなりましたが、皆さんに伝えるべき話は以上となります。ユリア・ジークリンデさんとの出会いから別れ、おれと兄さんを含めた人間でも星霊でもない〈きょうだい〉という存在たち──。このような過去があったからこそ、おれは……ユリア・ジークリンデさんを助けるためと、歴史を守るためにヴァルブルクの環境を大きく変えました」


 ルキウスからの説明を受けていた『現代に生まれた者』たちだったが、顔を見るかぎりうまく事態を飲み込めていないようすだ。あり得ない話ばかりが続いていたからだろう。

 ただ、テオドルスだけは疲れきったような悲しげな顔を片手で覆い、俯いていた。


「旧ヴァルブルク領にいる魔物たちは、おれが星に命じて生み出したものであり、純粋な魔物ではありません。おれたち〈きょうだい〉と似たような生まれ方をした存在で、各種の魔物の姿をし、その真似事をするだけの『生き物もどき』ですね。その肉体は、星に刻まれた記録と星の内部に満ちる魔力、そして、さまざまな元素で構成されています。だから、普通に食べることもできます」


「……わざわざ魔物を生み出した理由は、『ユリアが知っている未来のとおりに事を進める』ためってことか?」


 クレイグが問う。


「そうですが──あれらの魔物は、ユリア・ジークリンデさんを救出するために使う『魔力を保管するための入れ物』でもあります。あとは、皆さんの思考を混乱させるためという理由も大きいです。おれの目的は、ユリア・ジークリンデさんを過去へ送るまで勘づかれてはいけないものですから、現代ではあり得ない事をしたほうがいいと思いました」


 すると、ダグラスが不思議そうに唸る。


「……今から千年ほど前に生まれた姫さんが、過去へ行く──そして、生まれた時代よりもさらに先の未来で再会する約束をした……。それが、正しい歴史……」


 そのようにひとりごとを零すと、彼はあることに気がついた。


「これって、『あの言葉』に当てはまらないか……? 『鶏が先か、卵が先か』ってやつ──。その一連の歴史は、どのタイミングで始まったんだ……?」


「ユリア・ジークリンデさんは、この世の(ことわり)が通用しないところがある(・・・・・・)『イレギュラーな存在』──〈星の特異点〉です。ユリア・ジークリンデさんが〈星の特異点〉だからこそ、『事の始まりがどこなのか判らない不思議な歴史』になっているのだと思います。『説明することが難しく、納得がいかない事象』は、そのように説くほかありません」


「アイオーンを経由してだけど……ユリアちゃんは、自分で自分の名前を名付けてたってことになるよね? それも〈星の特異点〉だからということ……?」


 イヴェットが首を傾げながら聞くと、ルキウスは頷く。


「はい。〈星の特異点〉だからこそ、あり得てしまった事象かと思われます。──つまり、ユリア・ジークリンデさんの未来や過去といった運命は、はるか昔から定まっていたともいえるのではないかと思っています」


 その言葉の後、クレイグが「なあ、ルキウス」と声をかける。


「ユリアは、この世の(ことわり)が通用しない部分がある存在だっていうんなら……もしもユリアが過去に行かなかったら、今までの歴史が変わった可能性はあったかもしれないのか?」


「あったと思います。ですが、その変化の過程や規模などは、おれにもわかりません。そのような事象は、さすがに見たことがありませんので……」


 少年は言葉を続ける。


「──ヴァルブルクの環境を変えてからユリア・ジークリンデさんを過去へ送るまで、おれも頭痛と記憶障害に悩まされていました。あの頭痛と記憶障害は、星に刻まれている歴史が変わってしまうという『星からの警告』のようなものだったのでしょう。もっとも、このように星が警告を発するのは、この星と『関わり』が深く、かつイレギュラーな存在であるユリア・ジークリンデさん絡みの出来事くらいだと思います」


「魔力は、情報を保持できる……。魔力そのものはこの星が作ってるから、警告できたってワケやな」


 アシュリーがそう言うと、ルキウスは「その通りです」と答えた。


「この星も、実際にこの地上で起こったさまざまな歴史を記録しています。大気中の魔力が薄くなった今でも、魔力が及ぶ範囲内の出来事を刻んでいるはずです」


「星が魔力を介して人間や星霊の歴史を記録してるってことは、魔力研究者の間でも仮説は立てられとったけど……その仮説、あっとったんやな……」


「はい。おれは、星の内側で誕生した〈名もなき神〉という存在から生まれた『人間』ですので、母なる息吹から星の内界の様子を調べることができます。だから、その仮説は正しいということをはっきり言い切ることができます」


 すると、ルキウスは気遣うようにテオドルスへと目線を向けた。今も彼は、片手で顔を覆って俯き続けている。ルキウスは目を伏せ、口を開いた。


「……そして……母なる息吹を介して現代の星の内界を調べると、この星には、人為的に加えられた『設定』──術式があったことが判明しました。そのひとつが……先ほど申し上げた『約千年前に起こった大気中の魔力の減衰』──それが発生する術式です」


 その後、室内には静かな時が流れた。

 しばらくしてからラウレンティウスが「ひとつ、いいか?」と、先ほどとは別の話で質問をする。


「〈名もなき神〉が見たという〈星の特異点〉の予知には、『無数の運命を持っている』というニュアンスの言葉があっただろう。ルキウスは、それはどういう意味だと思っている?」


 予知の内容は、『時を越えし遙かなる存在、この時代に舞い降りる。()は、無数の運命を携えし〈星の特異点〉なり』だった。

 彼が問うているのは、この『無数の運命』の意味だ。


「……もしかしたら、『これから、さまざまな運命が待ち受けている』という意味かもしれません。ユリア・ジークリンデさんがこの時代に戻ってきても、〈星の特異点〉であることに変わりありませんから……。けれど、予知能力で見た言葉というものは、あくまで未来のひとつにすぎません。そうならない可能性もあります」


「心配しすぎるな、ということか……?」


「はい。それに、もしもそのようなことが起きてしまっても、あの人なら大丈夫です。ユリア・ジークリンデさんは強い人ですから。それに、あの人なら『みんながいるから何が起きても大丈夫』だと言うはずです」


 それから、ややあってラウレンティウスは「……そうだな」と零す。

 その時、テオドルスが動く。顔を覆っていた手を離し、俯かせていた顔を上げた。


「……魔力の減衰は、星の自然現象などではなく……人間と星霊の可能性を信じなかった者たちが、この星を意図的に弄り、魔力量を減らしていたことが原因──。ユリアの心に、絶え間なく負の感情を生み出すようにして──」


 その顔には、行き場のない怒りがあった。


「そのせいで星霊たちに死の恐怖と絶望が生まれ、悲劇と負の感情が連鎖し……やがて戦争へとなった──。そのせいで、どれだけの人間と星霊が……無辜の民が死んだと思っている……!? 我々をなんだと思っているんだッ……!?」


 静かながらも、彼がここまではっきりと怒りを露わにしたのは初めてだった。そのこともあり、仲間たちは目を見張っている。

 それに気付いたテオドルスは、小さな声で「すまない……」と謝罪する。


「今は、怒りをさらけ出している場合ではない──。それでも……あの戦争の始まりが、この星の魔力に溶け込んだ者たちの意思だとは思わなくてね……」


「……この星と『一体化』した〈きょうだい〉たちは、ユリア・ジークリンデさんについての情報を知ったのだと思います……。〈きょうだい〉たちを阻むために星の内界へやってきた兄さんの記憶を垣間見たのでしょう……」


「だろうね……。私の勝手な想像だが……ユリアが生まれた時に、名前を贈るという約束をしていたから露見してしまったのかもしれない……。名前と贈るタイミングだけは覚えておけるよう、セウェルスはその記憶を魔力に強く刻んでいたはずだ。それが悪目立ちしてしまって、『妨害』を受けた時に見られてしまったか……」


 「かもしれません」と、ルキウスも推測を語る。


「〈きょうだい〉たちは、ユリア・ジークリンデさんが負の感情に囚われて、ゆくゆくは自分たちの味方になって、この星の在り方を変える一助となってほしいと望んだのでしょう──。だからこそ、あの時代の魔力が薄まっていくように星に『設定』を加えたのだと思います。ユリア・ジークリンデさんは、敵対していた〈きょうだい〉たちと対話をしたときに、少しだけ〈きょうだい〉たちに理解を示していましたから……」


「その結果──あの子は、生まれる前から〈予言の子〉として祭り上げられたのか……」


「そのことも、星に『設定』されたことでした……。大多数の予知能力者たちが一斉に同じ未来を視るなんて、普通ならあり得ません」


 これらの歴史は、イレギュラーな存在とさまざまな者たちの想いが重なりあい、複雑な歴史となっている。

 ある意味では、この区間の歴史は特異点と化しているといえるだろう。

 特異点となったこの歴史は、人智を越えている──。

 テオドルスは息をつき、眉間に指先を添える仕草をした。


「──かつて、私がいた『無の空間』のこともそうだ……。この星の内部だったなんて思わなかった……」


「星の内界ですね……。〈きょうだい〉たちからの妨害を受けながらも、兄さんはユリア・ジークリンデさんの血によって未来を知ったことで、あなたを助けるための『設定』を星に施していました。おそらく、テオドルスさんがこの時代に出られたのも、兄さんが星にそういう『設定』をしていたからだと思います。あのような場所にいながら死ななかったのは、兄さんの血によって肉体が変質していたからです」


「そうか……私は、セウェルスに……。目の前に命の恩人がずっといたなんて──まったく、予想外なことが多すぎる……」


 と、テオドルスは力が抜けた顔をして天井を仰ぎ、気を取り直してルキウスに顔を向ける。

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