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第四節 小憩 ①

 陽が昇ると、アイオーンは屋敷に戻っていった。

 昨日に受け取った着替えは、戦いやすい極秘部隊の制服だった。そして、その証明である金の指輪も入っていた。今は必要ないが、これもアイオーンにとってはお守り代わりという意味合いだろう。あの人も不安に思っている。

 ユリアは、それを左手の人差し指にはめた。そして、制服に着替え、黒の手袋を装着し、両親の形見の剣を帯びた。この剣も、魔力が潤沢にある環境下では使う機会はないが、お守り代わりだ。今はこれが近くにないと少し落ち着かない。

 ひとりでいることなど慣れていたはずなのに、現代で長く暮らしていたことで感覚が変わった。今では、ひとりが寂しい。

 早く、誰か来ないかな。

 その数時間後、意外な者たちが来訪する。


「ユリアー」


 その声が聞こえた時、ユリアは、街を守る防壁の上に登って空を見ていた。下から聞き慣れた声がしたので、顔を声のした方向に向けると、そこにはアシュリー、クレイグ、イヴェットの姿があった。

 どうして三人もここに?

 ユリアは、ぽかんとした顔をしながら飛び降り、三人の前に降り立つ。


「アイオーンから電話あったから、言われたもん準備して三人で来たで」


「三人も来たの……?」


「アイオーンから、三人でユリアの心をほぐしてやってくれって言われたからや。──つーわけで、ほい。肌着の着替えとお店で買った軽食。上は、制服のほうが都合ええと思うて持って来んかった。あと、昨日着てた服も回収するで。こっちで洗濯するから、ウチらが帰るときにちょうだい」


 そう言いながら、アシュリーは、小さい女の子が好みそうな可愛らしい動物のアップリケがついた手提げ袋──おそらく、この袋は彼女自身が幼い頃に使っていたものだ。やけに子どもっぽいが、ちょうどそれが近くにあったから使っただけだろう──を差し出す。ユリアは、浮かない顔をしながらそれを受け取った。


「あ、ええ……ありがとう。……私としては、なるべく多数で、街にまた不審者が現れないかを見張っておいたほうが安全ではないかと思うけど……」


「街の警備は、とりあえず騎士団に頼むことになったんだ。あの不審者は、一般人なんか目もくれなかったって話だが、気が変わって一般人を人質にしてくるかもしれねぇ。だから、総長が、今の騎士団の総長の人と水面下でやり取りしてくれたんだ。時計塔の鐘が鳴り狂ったのは魔術師のせいだってことを伝えて、街の警備を強化してくれることになった。その魔術師が、極秘任務と何らかの関わりがある可能性があることも伝えてるから、街の警備情報はこっちにも流してくれることになってる」


 クレイグの返答に、ユリアはかすかに眉を顰める。


「それで、不審者を見つけたら現場に向かうということね……。ラルスと総長はともかく、アイオーンとテオはこの時代の人間ではないのだから、世間に目立つことは避けたほうがいいのではないかしら……」


「大丈夫だって。いざというときは、ヒルデブラント王家が助けてくれる。極秘部隊の情報を秘匿することは王室の仕事だからな」


 クレイグがそう言うと、イヴェットが頷く。


「ヴァルブルクの異変はヒルデブラント王国の問題でもあるから、カサンドラ様もしっかり見ていてくれてるよ」


 イヴェットも補足を伝えたが、ユリアの憂い顔は消えなかった。

 そのことに、アシュリーが軽くため息をつく。


「……まぁな。未だにヴァルブルクのことはなんも判らんし、記憶が一部欠けるとかよくわからんこともあってめちゃくちゃ不安やろな。せやからこそ、今日は気晴らしになることしながら調査しようや。カサンドラ様だけやなくて、ローヴァイン家とベイツ家全員が心配してるで。ユリアがひとりだけでヴァルブルクにおって大丈夫なんかってな」


(なんだか、想像以上にみんなから心配されていたのね……)


 そんな自分を少し情けなく感じるが、どことなく嬉しい気持ちもある。英雄として、そして予言の子として振る舞っていた頃は、テオドルスかアイオーンくらいしか心配の言葉をかけてくれる人物はいなかったからだ。

 さまざまな心配事があって、それらを常に案ずるあまり、心に疲労が溜まっていることは事実だ。このままでは何かに支障が出てしまうかもしれない。彼女たちが来てくれなければ、自身の精神状態を気にすることはできなかった。今日くらいは、気晴らしとなることをしよう。

 すると、アシュリーが突然、悲しみの顔を作り、わざとらしく泣く仕草を始めた。


「ウチかって、アンタが寂しがりなん知ってるから、影で泣いてんちゃうかって思うと居ても立ってもおられへんくてな──」


 さらに妙に殊勝なことを言い始めたが、絶対に嘘だ。その裏に隠された彼女の欲望がなんとなく解る。

 いや、なんで解ったのかしら。解ってしまったことがなんだか悔しい。

 そんなことを思いながら、ユリアはアシュリーにジト目を向けた。


「要するに、アシュリーは調査のついでにヴァルブルク特有の生き物か植物を見せろということね? クレイグとイヴェットは、ヴァルブルクにある神殿が見たいの?」


「ウチ、アンタに惚れそう」


 すると、アシュリーの顔が真顔なった。おそらく解ってくれたことに感動しているのだろう。

 冗談でも惚れないでほしい。惚れられても困るし面倒事が増えてしまう。


「なんだ、バレたか」


「ヴァルブルクにある遺跡に行くなんて、普通ならできないから……」


 このふたりの本音も正解だったようだ。

 ユリアは空を見上げる。曇り空だが、雨は降らなさそうだ。


「そうね……。たしかに、ちょっとくらい気晴らしになることをしないと心がもたないわよね」


「そうそう。せやから、今日は気晴らし兼調査や」


 なんだかんだ、この三人が来てくれて良かったのかもしれない。少しだけでも気分が軽くなれるは事実だ。


「そうしましょうか」


 今日の予定が決まった。拠点としている民家に受け取った荷物を置きにいった後、四人はヴァルブルクの街を発った。


「──んで、どこ行くん?」


 草と花以外に何もない平原を歩いていると、アシュリーがユリアに問うた。


「向かっているところは、とても古い神殿よ。昔からクレイグが行きたがっていたところ。こちら側の調査がまだだから、そのついでに行きましょうか」


「オレの興味を覚えててくれていたなんて記憶力いいな」


「昔からさりげなく定期的に行ってみたいという主張をされたら嫌でも覚えるわよ」


 と、ユリアは呆れた笑みを浮かべる。


「──あと、その周辺にしか生えないといわれる珍しい花があるから、それを紹介するわ。何千年も前からある花なんですって」


「どうしてそこにしか生えないの?」


 イヴェットが問うと、ユリアは悩ましげに小さく唸る。


「……環境は別に普通だから……土に含まれる成分か何かが特別なのかしら……。けれど、それでも特殊すぎるわね……。その花は、種子を作らず、季節が変わろうともずっと生き続けている花なの。採取しようとしても、花びらすら固くてとれないし、根も深すぎてどこに先端があるのか判らないらしいわ。テオも、あれは神様が作ったものかもしれないと言っていたわ」


「生殖せずに生き続けるとか──なんか星霊みたいな植物やな」


「ええ。だから、星霊がその花になったという伝説が古くからあるわ。種ができないから、その花の数は増えなくて、たぶん今はもう数本しか残っていないと思うわ」


「貴重すぎるなぁ……。上の部分だけ千切っても、魔力のうっすい現代やとすぐに花枯れるやろうから、写真撮るだけにするわ……」


 と、アシュリーは研究サンプルにできそうにないことが悔しいように眉間にしわを寄せた。


「──そういや、アンタ腹減ってないのか? アイオーンが持っていった分だけじゃ足んなかっただろ?」


 珍しい花の話が一段落すると、クレイグがユリアの食事面について質問した。


「魔物がいるから大丈夫よ」


「魔物ねぇ……。肉食べるっつっても、ドラゴン系ばっかだろ? 栄養が偏りそうだな」


「別にドラゴンばかり食べてないわよ」


「そもそもどんな栄養素あるんだろうね? 魔物って」


 ふとイヴェットが疑問を言うと、クレイグは少し意味深な微笑みを浮かべた。


「脂質が多そうなイメージはあるな」


「あら、何かしら? 太るって言いたいの?」


 その意味を察したユリアは、軽く睨みつけながらクレイグに微笑みを返す。


「そんな言葉、一言も言ってないだろ。個人的なイメージ言っただけだって」


 と、クレイグはユリアと目を合わせることなく笑った。


「あら、そう。これでも魚も獲って食べているし、野菜代わりとなる植物も食べてるわよ。たまに昆虫系も口に入れるわね」


 何気なくユリアはそう言った。だが、最後の言葉があまりに衝撃的だったため、三人は一斉に、驚きを含ませた引き攣った顔でユリアを見た。

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