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異変 ①

『~ ~』内のタイトル、入力ミスってない? と、思われるかもしれませんが、これがタイトルです。何を表すのか意味不明だとは思いますが、物語を読み進めていくとなんとなく意味やそれの言いたいことがわかってくる──と思います!

 アヴァル国で起こった事件を解決に導いてから半年が経った、ある日のこと。

 特務チームの八人は、任務先の国が有する母なる息吹がある地にいた。任務は数日前に終わっているが、次の任務が決まるまでは自由にしてもらっていいとのことだったので、その言葉に甘えて鍛錬を行うことになった。今は、その休憩時間だ。


「──よし。姉貴、イヴェット。これ。読み取ってみてくれ」


 クレイグは、原っぱに座って休憩していたアシュリーに、手のひらで包めるほどの小さな月白色のガラス球のようなものを手渡した。アシュリーは、それを隣に座っていたイヴェットに向けると、彼女はその球の上に手を乗せた。ふたりは集中しながら見つめ続けると、ある風景が脳内に浮かび上がる。


「二階から見下ろしてる庭──あ。この庭って、あそこか」


「ローヴァイン家の屋敷の中庭!」


「そう。そこや。ちなみにこの花の咲き乱れ方は、春の風景やな」


 アシュリーとイヴェットがそう言うと、クレイグは微笑んで「正解」と言った。


「すごいね、イグ兄! 文字だけじゃなくて風景まで魔力に書き込めるようになったんだ」


 この国での任務内容は、母なる息吹が活動する区域のなかにある遺跡の調査だった。その遺跡は何のために存在するのかを調べるために、ユリアたちは物に込められた魔力から情報を読み取る作業を行った。

 魔力に込められた情報を読み取るというとは、文字や概念、さらにはっきりとした映像や写真のような光景を脳裏に浮かばせることだ。魔力を介して情報を読み取る技能は、現代生まれの特務チームのメンバーであっても、ヴァルブルクの武器から戦闘技術を会得する経験がある。だから、これは楽な任務になるかと思われていた。

 しかし、そうはいかなかった。その技能を使って戦闘技術を会得することと、この任務で求められる読み取る技術は、また勝手が違うとても繊細なものであった。そのため、現代生まれの五人は苦戦を強いられた。細かい魔術技能は得意なほうと自負していたクレイグとアシュリーですら、習得に時間がかかってしまった。

 そのことが悔しかったのか、クレイグは魔力に情報を読み取るだけでなく、書き込む技能も習得するために地道な練習を繰り返し、今に至る。


「なんとか情報を書き込むコツは掴めた。……まあ、これが役に立つ機会なんざ滅多にねぇだろうけど」

 

 調査面積が広かったこともあり、任務は半年ほどかかってしまった。

 くわえて、現代は大気中の魔力が薄まっている時代である。そんな環境のため、情報自体に劣化現象が起こってしまっており、何を意味するのか解りにくいものが多々あった。このことも任務が長期化した原因だ。さすがに情報の復元はユリアたちでも難しく、──そもそもユリアたちは戦士であり、この手のことは完全に専門外だ。なんでもできそうなアイオーンも、「わたしはこれに関する技術は不得手だ」と言って復元することを避けた──その情報はやむを得ず調査することをやめた。この件で、特務チームの面々は戦闘に特化しすぎているとユリアは感じた。この地が一般人にとって猛毒の地でなければ、たくさんの専門家が入ることができるのだが、残念ながら魔術師──それも、ごく一部の耐性のある者しか足を踏み入れることができない。だからこそ、ユリアたちにこのような任務が舞い込んでくるのだ。

 それでも、この母なる息吹に存在する遺跡の詳細を解明することはできた。ここは、神々を祀る神殿と、その神殿を管理していた巫女たちの居住地だった。

 神殿にある遺物には、祀る神に関する情報が込められており、居住地跡の地中にあった石碑や宝石には、巫女たちの日々の記録が込められていた。


「ここまでできるようになれば、現代人というよりは古い時代の人ね」


 と、アシュリーとイヴェットのそばで休んでいたユリアが言う。

 魔力を用いた戦闘もできて、魔力を使った暮らしの技術もできる。それはもう立派な古い時代に生きている人だといえる。現代の魔術師でも、そこまでできる人はなかなかいないはずだ。


「魔力操っていろいろするより、機械に頼るほうが断然に楽だけどな」


「そうね。魔術というものは、多かれ少なかれ集中して頑張らないと目的の現象は起こせないわ。身体を動かさなくてもいいとはいえ、慣れていないと疲れてしまうわよね」


 そう言いながらユリアは笑う。息を吸うように魔術を使いこなせるユリアでも、やはり機械のほうが便利で楽だった。


「日常で使うだいたいの機械は、ボタンを押せば必要なことほとんどやってくれるし。そもそも魔術技能って習得することから地味に難しいもんね」


 イヴェットはそう言いながら、アシュリーから月白色の球を受け取ってユリアに差し出した。ユリアがそれ受け取ると、球は月が欠けていくかのように姿を消していく。これは、クレイグが情報を書き込む練習をするために作られた、魔力を凝縮させたものだった。


「──姫さん。そろそろ、また『サンドバッグ』をお願いしたいんだけどよ」


 すると、少し離れたところからダグラスとテオドルスがやってきた。ふたりも少し離れたところで休憩をとっていた。


「わかりました。では、またテオと一緒に幻影術で魔物を作り出します」


 ダグラスの言う『サンドバッグ』とは、ユリアとテオドルスが作り出す魔物のことだ。『幻影』とはいえ、魔術に長けたふたりが協力して作り出すものは物質化した魔物であり、魔術も本物だ。そのため、攻撃を受ければ大怪我をすることもあるし、命の危険もある実戦である。


「俺も気晴らしに戦おうかね。──総長、タッグでいきませんか」


「ああ、いいぜ」


 それでも、クレイグとダグラスがこうして余裕綽々としているのは、半年も続いた任務の合間に行われていた鍛錬のおかげだろう。もちろん、鍛錬をする場合は遺跡から遠く離れた場所で行う。当然ながらこの鍛錬も遺跡から十分に距離がある場所だ。


「魔物との戦いにも余裕が出てきたようだね」


「そりゃあな。作り物とはいえ、いろんな魔物と戦ってるわけだしよ」


 テオドルスの言葉に、クレイグは自信を滲ませた微笑みを浮かべながら言う。しかし、テオドルスはかすかにため息をもらした。


「それは結構。けれども同時に、少し問題でもあるね。──ユリア」


「ええ」


 テオドルスがユリアに声をかけると、広い草原の地を漂う魔力が急速に動き出す。目に見えない魔力は結合し、やがて凝縮、そして像を結んでいく。

 現れたのは、ふたつの巨大な翼を持つドラゴンだった。


「えぇー……」


 そのドラゴンは二階建ての家ほどの高さだろうか。ドラゴンという種のなかでは(からだ)は小さめだが、恐ろしい形相をしている。くわえて、大きく鋭い牙と爪もある。恐怖を抱いてもおかしくない存在だが、ダグラスは落胆の声をもらした。クレイグも同じ様子だ。


「まーたドラゴンかよー……」


「『まーたこの料理かよー』みたいなノリで言わないでほしいのだけれどね」


 テオドルスがクレイグの言葉を注意するも、ふたりは不服そうな態度を改めることはなかった。


「ぶっちゃけウチも見慣れてきて危機感なくなってきたんやけど」


「だよね。さすがにドラゴンとの戦いも慣れてきたし」


 それどころか、アシュリーとイヴェットもまた空飛ぶドラゴンであることに疑問を抱いている。そのことにクレイグは「だよな」と声を上げた。


「ほら。姉貴もイヴェットもそう言ってるだろ? 別の魔物に変えてくれよ」


「別のって……。ならば、どういうものがいいの?」


 クレイグのわがままな要望に、ユリアは小さくため息をついた。


「ウチは、体液ネバネバクソキモ寄生虫みたいなの見たい。なんか、おったやろ? イソギンチャクっぽくウネウネしたもん」


「姉貴の好みニッチすぎんだろ……。俺、見るならキモいのじゃなくてかっこいいのがいいんだけどよ」


「じゃあ、派手でトゲトゲでキラキラとした鱗があるサイみたいなやつは?」


「俺はドラゴン以外ならなんでもいいぞー」


 アシュリー、クレイグ、イヴェット、ダグラスの順で思ったことを口にしていく。そして、テオドルスはそんな緩んだ場を収めるために何度か手を叩いた。


「──はいはい、そこまで。これは魔物展覧会ではなくて鍛錬だ。そういった余裕さが、逆に危険を呼ぶことになる。戦いにおいて油断は大敵だよ」


「そうよ。戦い慣れていても、慢心していると負ける時は負けてしまうものなの。というわけで、はい。鍛錬開始」


 ユリアが言った直後、幻影術で作り上げられたドラゴンが口を開き、灼熱の火球を放った。それと同時にクレイグ、アシュリー、イヴェット、ダグラスはそれぞれ悲鳴を上げながら遠くへと飛び退く。


「うぉおおおい!?」


「どぇええっ!?」


「ひゃあああ!?」


「いきなり始めんのやめてほしいんだけどぉ!?」


「すみません。慢心する恐ろしさを実感してもらおうと思ったので」


 火球は、四人の傍にいたユリアとテオドルスをすり抜け、野原の植物にも当たって燃えることはなかった。これは幻影術の特徴だ。術者が攻撃対象と見なしたものにしか幻影の攻撃は当たらない。

第二部のときより更新速度は遅めになると思いますが、ゆっくりでも書き進めていこうと思います! よろしくお願いします!

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