六話
「アイリス王女が死んだ?」
「ああ、なぜ亡くなったかまでは分からないが、これは亡くなったのは間違いないらしい。近々、国葬を開く話になっていて。今は王都ではその話が出回っている。」
「・・・そうか。(アイリスが死んだか・・・もしかして、このままこの姿で生きていかなければならないのかな・・・)」
俺はアイリスが死んだことより、この先の事を考えていた。アイリス自体は、見た目がタイプだったが、それ以外の事はよくわからない、だた、初めから身体を奪うことが目的だったと考えるなら、あの積極的な行動は頷ける。
「(アイリスにあったら、身体を返してもらう以外にもいろいろ言ってやりたかったんだがなぁ。)」
俺はそんなことを考えていたら、もう一つ別の情報に驚いた。
「あとは、新たな英雄が誕生したって話が王都で出ているみたいだ。」
「新たな英雄?」
おじさんの言葉に首を傾かる。
「ああ、何でもサウス帝国軍2万をたった一人で撃退したって話だ。」
「たった一人?」
俺はそれは流石に話を盛りすぎじゃないかって思った。しかし
「そう、俺も最初は疑ったんだが、何でもそこに滞在していた、ローベル国の兵たちが声をそろえて言ったんだってさ。」
「へえ・・・(もしそんなことが可能なら、本物のチートだな。もしかして俺と同じ異世界人?)」
俺と同じ異世界人なら、ポイントの振り分け方次第では可能だろうし、肉体を強化してもらった状態でこの世界に来ているのであれば可能だろう。後は固有スキル持ちなどが考えられる。
「その英雄ってどんな特徴だったかわかる?」
俺は気になって店のおじさんに聞いてみた。
「俺も噂程度だが、この国では珍しい黒目黒髪の少年だったみたいだ。今はアイリス王女の国葬のために王都に戻っているらしい。」
「そう、ありがとう。」
俺はおじさんに礼を言って店を離れた。
「(黒髪黒目か、異世界人の可能性が高いな・・・)」
俺は最低限の用事を済ませ、宿に戻った。正直、観光気分はすっかり失せていた。
「しばらくこの町に滞在予定だったが、至急、王都に向かおう。アイリスの死が本当であれば、俺は二度と元に戻ることが出来ない。そういえば、アリシアも死んだのかな?もし生きているなら彼女が何か知っているかもしれない。まあ、多少は覚悟してもらうけど・・・」
俺はアイリスほどではないが、アリシアにもそれなりの感情を持っている。一言言わないと気が済まない。
「王都には明日出発しよう。まずは、買ってきた本を読んで、いろいろ知識を手に入れよう。後は冒険者ギルドから買った、モンスター図鑑を見るとするか。」
俺は、今日の残り時間を読書に費やした。
翌日
「さて、王都に向けての馬車が無いか、確認するか。」
この世界には定期的に王都やそのほかの場所に向けて馬車が出ているらしい。なので、王都に向かう馬車が今度いつ出発するのかを確認する必要がある。
「一応、旅に必要な物は昨日のうちに揃えたけれど・・・」
取りあえず俺は、馬車が集まっている場所に向かって歩き出す。
「あった、あった。結構な馬車があるんだな・・・」
馬車が止まっている場所は門をでてすぐのところにあり、そこには20くらいの馬車があった。
「この中から王都行の馬車を探さないといけないのか。」
俺はそう思っていてが
「何だ。普通に見つかった。」
馬車の近くに行き先が書かれている看板が設置されていた。
「王都行の馬車に乗れるかな?」
王都となればそれなりの人数が向かうはず。ましてやアイリスの国葬ともなれば人が多いはず。
「やっぱり、人が多いな・・・」
案の定、王都行にはたくさんの人だかりができていた。
「乗れないかな・・・」
乗れない場合は歩いて向かうしかないと考えていたが
「まもなく次の馬車が王都に向けて出発します。」
どうやら、王都行の馬車は結構な本数で出ているようだ。
「なら、順番を待つか。」
俺はそう思い列に並び馬車を待った。それから
「ふう、何とか乗ることが出来たな。」
俺は10人くらい乗れる馬車に乗った。それから、護衛の冒険者がこの馬車につくようだ。本来は馬車を運営している商会などが雇っている護衛などが付くはずなのだが、今回は通常より本数が多いため、冒険者にも依頼を出したようだ。
「それに、一台一台で動くわけではなく、五台くらいで集団を作って移動するようだ。なるほど、人数が多い方が賊に狙われにくくなるという事か。」
確かに人数が多い方が賊は狙いにくいと考えるのはいい考えだ。賊も、こちらより多い人数か腕に自信がある者くらいしか狙わないだろう。まあ、商会の馬車でも品物を詰んでいるわけではないから、狙われる可能性も少ないかな・・・人身売買目的なら別だけど。ここは俺が考えても仕方ない。
「さて、王都までの道のり(たしか20日くらいだったか)楽しもうか。」
俺はそう思い、王都までの旅に心躍るのだった。