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私を殺す前に  作者: 大木戸 いずみ
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3

 男性より女性をいつもターゲットにしていた。

 宝石を身につけるのは女性の方だ。男性からは時計を盗むことが多かった。

 そして、それを私が信用している質屋に売りに行く。

 要は貧困地域で盗みをしている人たちが訪れるブラックな質屋だ。

 正規の場所では売れない。盗んできたものだと一瞬でバレて、私は牢送りだ。

 とてつもなく高価なものだが、その質屋で売ると信じられないぐらいの安値で引き取られる。

 それに不満を言う人たちもいたが、私は一文にでもなるほうが良かった。

 

 あの日は、いつもに増して人が多かった。

 十歳の私は随分と調子に乗っていた。盗みの技術だけは誰にも負けない自信があった。

 私はいつも通り容赦なく貴族から色々な者を盗んでいた。

 通りすがる瞬間に時計を、人混みでぶつかった際に指輪を……。

 充分な収穫があったため、帰ろうとした時だった。

 立派で華のある大きな馬車が目の前に止まった。今日の人だかりはこのせいだったのかもしれない。

 貴族の方々がお辞儀の準備をしている。

 ……一体誰が出てくるのだろう。

 私は不思議に思いながらも、目立たないように建物に隠れながら端っこの方で馬車を見つめていた。

 本来なら盗みの後は、すぐに現場を離れなければいけない。それでも、私は馬車から一体誰が出て来るのか気になった。


「あの王子様にお目にかかれるなんて」

「宰相が舌を巻いたお方らしいからな」

「お若いのに大変優秀で……。その上、お顔もとても美形だとか」

「今日は何の御用で街に来てらっしゃるのかしら。お忍びじゃなさそうだし……」

「……それが私も一切分からないんだよ」


 近くにいる人たちの会話が耳に入ってくる。

 …………王子。

 この国の第一王子を見ることが出来るのか。噂で何度か聞いたことはある。

 完璧王子って言われているらしい。私が知っている情報はそれぐらいだ。

 今まで時にこの国の王子に興味を持って来なかった。私とは住む世界が全く違う。


「出てきたわ!」


 女性の高い声が聞こえた。

 その瞬間、一斉に皆が頭を下げた。私もワンテンポ遅れて頭を下げる。

 チラッと目線を少しだけ上にあげた。


「……え」


 視界に入ってきたのは、まさに物語の中に出てくるような王子様だった。

 異次元の美しさに私は見惚れた。


「なんて綺麗な人……」


 けど、威厳があり近寄りがたい。

 この国の国民性を象徴しているようなお方だった。

 私は思わずまじまじと見つめてしまった。その瞬間だった。一瞬だけ目が合ったのよに思えた。


 ……今、こっちを見た?

 王子が私の方など見るわけがない。きっと私の勘違い。

 金髪が珍しかったのかもしれないと少し焦ったが、マントをしているし髪の色が見えたわけではない。

 今の私に目立つ要素など一切ない。

 もしかしたら……。完璧と言われている方だ。この距離感で危険人物を察知したのかもしれない。

 今すぐここから去らないと!

 私は皆がまだ賑わっている中、王子に背を向けて走りだした。

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