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私は幼い頃に両親に捨てられた。
理由は分からないし、ほとんど両親のこともその頃どういう生活をしていたのかも記憶がない。
それぐらい幼い時だ。木箱に入れられ船に乗せられ、知らない国へと来た。
ゾガルト国というところだ。
この国はよく「蛇国」と言われている。国民性として、狡猾で野心強く、あまり表情を表に出さない。
物語に出てくるような表情が豊かで天真爛漫な女の子ややる気に満ち溢れた正義感の強い男の子はいない。……実際はそうでもないけれど。
ただ私がここで過ごしていて感じることは、全体的にみんな計算高いと思う。
傍から見れば、私は異国人になるのだろう。この国にはいない容姿をしている。
この国の人たちの特徴は真っ黒い髪だ。
その中での金髪はとてつもなく浮く。疎外感や孤独を感じるだけではない。皆から敵視されるのだ。
茶髪や赤髪もいるが、私のように透き通るようなブロンドヘアの者はいない。
幼い頃にここに来て何とかこの場所で生きてきた私は、この国の言葉しか話せないし、考え方もこの国に染まっている。
だからこそ、白い目で見られるのは少し辛い。
木箱から出て、ゾガルト国の貧困地域に行くしかなかった。
そこで私はただ我武者羅に生きた。物乞いにだけはならなかった。
自力で生きていく術を見につけた。
街に出て盗みもしたし、詐欺のようなこともした。時には人を傷つけてでもその世界で必死に生活をしていた。
生きていくために何でもした。それしか手がなかったのだから。
もちろん、何度も痛い目に遭ってきた。半殺しになるまで殴られたこともある。
それでも私は「生」に足掻き、しがみついていた。
高慢な貴族から何かを盗むことに少しも罪悪感など抱かなかった。
ただ、私は彼らに劣等感を抱いていたわけでもない。この不公平な世界に苛立ちを覚えたり、下克上を狙っていたわけでもない。
きっと感情をあの木箱の中に置いてきたのかもしれない。
それぐらい私は喜怒哀楽という感情が欠けていた。相手の気持ちも分からなければ、自分の感情も分からない。
とにもかくにも、私は生きることだけを念頭に日々を過ごしていた。
何も持ってないし、何か目標があるわけでもない。それなのに生きる気力だけは誰よりもあった。
ここに来て七年、十歳になった時だった。
いつものように街へ出て、高貴な人を探し、盗みを働いていた。