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「俺のことを一瞬でも愛したことはあるか?」
重い沈黙と私をじっと見つめる哀しい瞳。
私はスゥッと小さく息を吸い込み、確かな声で答えた。
「いいえ、殿下を愛したことなどございません」
それが生涯で最も大きな嘘だった。
絶対に泣かないと心に誓った。私は溢れ出そうになった涙をグッと堪えた。
それが私に出来る王子に対しての最後の恩返しだった。王子は身寄りのない私を引き取って、今まで育ててくれた命の恩人だ。
自己満足でいい。王子はこの発言に納得がいかないかもしれない。
それでも、彼を守れるのなら私はこの命を捨てても構わないと思った。
「そうか」
彼は俯いて、少し震えた声でそう呟いた。
王子を傷つけたくはなかった。……けど、仕方がない。
最初から私と王子では格が違う。釣り合わなかったのだ。
私は衛兵に腕を掴まれ、その場から強制的に退出させられた。
このまま牢へと連れていかれるのだろう。私は抵抗することなく衛兵に従った。
最後に王子の方を振り向いた。
なんて切ない表情を浮かべているのだろう。王子のこんな表情を見るのは初めてだ。
もう二度と会えないかもしれない。……もはや見ることすら許されない可能性もある。
この目に彼の姿を焼き付けておこう。生まれて初めて「美しい」と思った方が王子だった。
私はきっと貴方のことを生涯忘れません。
……誰よりも愛しておりました。