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死を祀ろう者

『…………それで、これが証拠と』

『荒唐無稽な話をしてるとは思ってたからな。だって非現実的な話だ。証拠がなきゃ信じようなんて無理な話だ。信用度はそれこそ前世占いとそんな変わらない。本当は話しちゃ駄目なんだけど……草延は『シニガミ』を追う仲間だ。隠し事はいつか露見する。隠すのが上手い自信もない。それに、お前は俺を信用してくれたから実銃を見せたんだろ? だから……教えた』

『そう。それは……どうも有難う。八重馬クンの懸念は理解してるわ。私が会長の変身と『シニガミ』を同一視するのではないか、というモノでしょう?』

『ああ。その……大丈夫なのか?』

『付き合いが長いとはお世辞にも言えないけれど、三人で奇妙な目に遭ってきて人となりは理解しているつもり。生徒会長はそんな悪行を働ける存在ではない。その『死神』だって、不本意だと思うわ。これはなんとなくだけど……人の性格を計る目は、ちょっと自信あるつもり』


 ―――電話越しに、安堵の吐息。


 向こうに聞こえても構うものか。俺は本当に心配していたんだ。都合よく同音異義になっているせいで話が拗れる可能性はどうしても考慮してしまう。それは口頭と文字では発音以外でそれを判別する手段が文脈しかなく、誤解される問題によく似ていた。

「……そう言ってくれて本当に良かったよ。湯那先輩にはこの事を伝えてない。あの人は俺と二人だけの秘密だと思ってる。だから、これを話した時点で俺は約束を破った最低野郎って事になるんだけど……」

「随分奇妙な板挟みにあっていたのね。どちらにも誠実な対応というモノは不可能だったけど、私に誠実な対応をしてくれた事は賢明ね。騙されていると分かったらうっかり銃を貴方に向けていたかもしれない』

『冗談だよな?』

『冗談……という事にしておきましょうか』

 何だその、今はそういう事にしてもいいみたいな言い方は。俺はひょっとして、本当に賢明な判断をしたのだろうか。実銃と死神、どちらが怖いかと言われたら……ちょっと判断出来ない。ただ死神が目の前で人を殺すところをばっちり見てしまったせいもあって、やや死神優勢か。しかし名前を聞いた瞬間の圧力は銃に軍配が上がっている。

 だってこの国は銃社会ではないし。

『それで、生徒会長はどうしてこんな姿に? まさか薬で……じゃないでしょう?』

『事情は聴いたけど人に詳しく説明出来る程理解してる自信はないな……あの人はただ、訳あって死期が近い人を殺さなきゃいけない。そうしないと……なんか。湯那先輩は死ねても全人類が不老不死になるみたいな話を聞いた』

『…………』

 それこそ、馬鹿げた話だ、と電話越しにも嘲るような沈黙が伝わってくる。先輩の事が嫌いとか、そんなんじゃない。突拍子も無さ過ぎて現実的に受け止められないのだ。性質が悪いのは決して試せない事。湯那先輩はそれで一度きりの死を得るかもしれない。得ないかもしれない。得た時は、戻れない。

 しかも、もし本当に不老不死になるなら俺達は知らず知らずのうちに勝手に身体を改造されたに等しい。不老不死とやらが本当に老いなくて死なないなら、最悪ではないか? 再生するなんて一言も言われていない。例えば車の交通事故で身体がバラバラになったら、それでも死なない? それは、本当に想定されている不死か?

 実際そんな身体になってみなければ仕様など分からないが、考えれば考える程不死なんてモノは碌でもない。何度でも言うが、これが嘘だったらどうでもいいのだ。ただ、本当だった場合に誰がどうする事藻出来ない不可抗力になるというだけで。

『……じゃあ彼女は、みんなのために人を殺しているのね。それが正しい事とは言わないけれど……間違っているとも思いたくない』

『迷惑かけてまで自殺したくはないってのも変な話だよな。まあ流石に迷惑の規模が違うけど、優しいんだかなんだか……』

『……一応聞きたいのだけど、私と八重馬クン以外にこの事を知る人は居る?』

『いや、まずいないと思う。居ても俺が把握してない。っていうか俺も本来危ない立場なんだ。先輩が人を殺す所を目撃して、本来殺されなきゃいけない所を、死神を騙ってる偽物を殺す為に生かされてるんだ。そう、ここがややこしい所なんだよ。死神は死期に沿って殺さなきゃいけないのに、死因をずらしてまで仕事の邪魔をする奴が居る。そいつはつまり死神の存在を把握していて邪魔してるんだ。俺と湯那先輩は本来、その居てはならない偽物を見つけ出す為に色々動いてたんだよ』

 しかしそこに怪異だのしにがみだの混ざってきて、事態の全容を把握する者は居なくなっている。草延が来たから話がややこしくなったと言っても過言ではない。まあ今は……偽物の死神よりも明らかに『しにがみ』の方が有害である。

 まあもう、殺した筈だから…………殺した筈……なのだが。

『草延。さっきもちょっと話したけど実際シニガミは死んだと思うか?』

『…………私の家族を滅茶苦茶にした存在よ。正直、映像を見せられても死んだとは思っていないわ。確かにクスリの被害はきかなくなったけど……そうだ。山羊さんに占いについて聞いてみたの。そうしたら言われたの。それは占いではなくて幻覚の類だって』

 何?

『幻覚…………前世占いが幻覚……? ちょっと待て。関連性のない人が共通で幻覚を見る事なんてあるのか……?』




『危ないクスリに幻覚作用は付き物でしょう。貴方に映像を見せられて少しゆらいだけど、やっぱりまだシニガミは居ると思うの』




 山羊さんの事を俺は深くは知らない。果たしてその発言が信用に値するかどうかを判断する事は出来ない。だがシニガミが生きているかもしれないという疑問については、俺も否定する事が出来ない理由が存在する。

『…………草延。実は、さっきの映像の死体なんだけど。俺が預かったんだ。通報したんじゃなくて、隠した……遺棄したって言うのかな』

『は? どうしてそんな事をしたの』

『クスリを服用した奴は消えるんだろ。俺はまだ消えてない。何で消えないのか知りたくて、さ。誰にも気づかれない状態で隠したら消えようがないと思ったんだ。密室に入れたし。それでも……死体は消えちまった。何故かな。原理も根拠もさっぱりだけど、あれが実は死んでなくて、自力で抜け出したって可能性も……いや、ないんだけど! この話してると一々現実味がなくて話しにくいな!』

『混乱しているのね』

 そりゃあ混乱もする。良く分からないものを良く分からないまま追っているのだ。命を握られているから追及を止める事も出来ない。それぞれ目的がある二人は良いとして、俺は完全に巻き込まれた形だ。勿論、湯那先輩の事は好きだし、どんな形でも関わっていけるならそれでいいのだけど。たまにはこういう愚痴も出る。明確な終着点が、一人だけ存在しないのだから。

『―――私も貴方にその映像を見せられて、ちょっと考えがこんがらがってきた。今回はこのくらいにしてまた明日話し合いましょう。隠し事を打ち明けてくれてどうもありがとう。嘘は吐かれたけど、その誠実さを信じる事にするわ』

『明日から、どうする?』

『丁度、貴方達二人が占いに執着されている所じゃない。次にどんな変化があるかを見てからでも遅くないわ。それじゃあ、お休みなさい、八重馬クン』

 

 通話が途切れ、静寂が訪れる。

 窓の外を見遣ると、月が顔を出していた。




『…………ああ、お休み』



 こんな良い月の夜には、『死神』との出会いを思い出す。夢で逢えたら、それでもいい。






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