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世界は星の掌の上に

「何事もなく帰れたのはいいけど、後が心配ですね」

「そういうのは何事もないとは言わないのよ九十。さて、私も考えを改めたわ。うん、どう考えても様子がおかしいわね。草延さんもそろそろ考えを改めるべきよ」

「私はもう、変えましたけど」

「湯那先輩が一番信じてくれなかったってマジですか」

「え、そういう事言う? 可愛い後輩の為に一肌脱いであげたのにその言い草? はー恩知らずはこれだから」

 気軽な悪口を言い合えるのもホッとした証拠だ。緊張でとがった心をちょっとした心の棘に変えて仲間内で清算し合う。まだこの違和感は終了した訳ではないが休息は適度にあっていい。決まった瞬間にしか休憩しちゃ駄目なんて、そんなの何処かで狂ってしまう。勿論、悪い方向に転がれば人はそれを油断と呼ぶのだが。

「で、どうするのよ九十。今日はおかしな行動を咎められたから無事に帰れたけど、明日もそうなるとは限らないわ。まともを装える程度の頭があるなら次はもっと上手くやる。いっそ付き合った方が丸く収まりそうだけど」

「好きでもないのに付き合うのは不誠実だと思いますよ。利害が一致したならともかく、害を取り除く為に付き合うってのは利害じゃないですし」

「それを正しいとは言い切らないけど、まあ良いように利用されてる感はあるわね。草延さんはさっきから黙っているけど意見はないの? 私より先に考えを改めたなら? 一言あっても良いと思うんだけど」

 うわ、そこを引きずるんだ。

 先輩も存外大人げない所がある。あれはさらっと流されて然るべきだと思っていたのに。

「…………もしかして、また何か……あるんじゃ」

「何かって?」

「シニガミ……とか」

 三人の歩みが一斉に止まった。それは口に出してはいけない―――否、終わっていて欲しいという願望から―――誰も口には出そうとしなかった言葉。でもそれはおかしい。だってシニガミはあの時、本物の『死神』によって殺された筈だ。そうでなければあの場に現れた事がおかしくて。

 呼吸が、浅くなる。まるで拳を打たれたように唐突に、圧されて。

「………………まさか。占いってだけで大袈裟よ。死人が出てる訳でもなし、やめましょうそういうのは、まだ警察が出歩いてるのよ。下手な動きして目をつけられても困るわ」

「でも占いってだけであんなおかしくなるなんて思わないんですよね。俺も、どっちかって言うと草延の憂慮に賛成っていうか。先輩も告白されたら気持ちが分かると思いますよ」

「……おかしな点が多いのは認めるけど! 流石にまだ気が早いわ! この件は一旦保留。何かあったらまた話し合いましょう」

 そう言い捨てて湯那先輩は機嫌の悪そうな顔で「べー!」と叫んで違う道を行ってしまった。普通こういう時は舌を出す筈だが、仲間外れな事を腹に据えかねたのだろうか。そこから少し進んだ先の帰路で、草延もまた歩みを変える。

「家に帰ったら山羊さんに聞いてみるわ」

「詳しいのか?」

「一番詳しい、と思う。もしも山羊さんが知らなかったらその場合は……占いに見せかけた何か違うモノってくらいには」

 あの人、何なんだろう。大体同居人なんてざっくり言われたけどルームメイトという認識でいいのだろうか。顔は間違っても似ていないし、スタイルなんて正反対だ。血縁関係という線は薄いくらいでそれ以上は家にでも遊びに行かないと分からない気がする。

「じゃあ、そういう事で」

「………………」

 その心に穴が開いたような虚しい後ろ姿を止める権利はないだろう。今日、話そうと思って遂に話さなかった先輩の正体。あれは確実に彼女の追い求める『シニガミ』ではないけど、でも知っていてもらわないとこの先ややこしい事になるのは目に見えている。

 大体、なんだって『シニガミ』を名乗る奴が『しにがみ』って名前の薬を売っていて、その傍らで関係ない『死神』が存在しているんだ。同音異義にも程がありすぎる、ややこしくなるように仕向けているとしか思えない。もしくは『死神』に喧嘩でも売っているか。

 ともかく、あれを見せない事には権利なんて一生生まれない。先輩には悪いけど、このままずっと黙っておくのは不可能で、その内決定的な矛盾が生じる可能性が高い。あの力は狂暴すぎる。その力でしかどうにもならない状況が生まれた時とか、どう説明すればいいのだ。

「……」

 占いくらいで考え過ぎかとも思いつつ、帰路を完了して玄関を開ける。百花が丁度自室に戻る所であり、視線が合ってしまった。

「…………」

 だから何、という事もない。草延を連れてこなかったら俺なんて用なしだ。そのまま階段を上がろうとする妹に対して俺も洗面所の方へ行こうとすると、唐突に思い至って呼び止めた。

「あ、百花。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「?」

「お前って占い好きか? もしくは占い好きの友達って居るか?」

「ごめん質問の意味が分からない。何、手相を勉強したからちょっと得意気になってる感じとか? そんな事で友達紹介するのも気が引けるし私の手で我慢してよ」

「結論が早すぎる。まず好きかどうかだけ聞かせてくれ」

「結構好き」

「詳しいか?」

「んー…………普通?」

 首を傾げて自信なさげに答えている様子からもそれが本音だと分かっている。隠す意味はない。ここまで聞いて何でもないとお茶を濁すのもどうかと思うし、駄目元で聞いた方が良いか。

「前世占いってさ、どんな感じなんだ?」

「―――お兄ちゃん。流石にそれはふわっとしすぎ。どうって名前の通りじゃん。前世を占うんだよ」

「それで?」

「前世から引き継がれた性格とか、縁みたいなものも見るね。人生の転機とか、こういうアイテムを持ってたら開運しますよとか。私が知ってるのは姓名占いとか心理テストとか……数字占いもあったっけ。そのくらい」

「じゃあその……前世で結ばれてたからって今世でも結ばれようみたいな事ってのは結構あり得る話なのか?」

「前世占いってそんな誰々さんと結ばれましたって具体的な名前が出るものじゃないし、占い師だって占ってる人以外の前世なんて分からないからないと思う。二人一緒に来たとかならもしかしたら……?」

 そんな詳しい事まで知らないから、と百花は少し機嫌を損ねてしまった。いやはや、十分だ。俺と『かぐや姫』は初対面。そういう状況になる事などあり得ないから、つまり彼女が受けた占いはインチキのそれに近いと分かった。

 占いなんて殆どインチキという言い分も分かるが、それにしたってルールに沿っていない。当たるも八卦当たらぬも八卦、だがテンプレートはあるだろう。それに沿っていないなら違うと言っていい。

「ありがとう、参考になったよ。そうだ、実は兄ちゃん少し出かける予定があるんだけど欲しい物あるか? 千円以内なら買ってきてもいいぞ」

「え、ほんと! じゃあチョコ味のカップアイス買ってきてよ! 新発売なの! こういう系って買い支えないとすぐ消えるんだから!」

「おーけー。正当な報酬を待っていてくれ」

「うっしゃー!」

 さて、出かける予定は今回の一件とは何の関係もない予定だ。全く無関係でもないが、誰にも関わって欲しくない。


























「んしょ……」

 錆びてそろそろ崩落の危機を迎えそうな階段を上ると、俺は屋上に上った。ここはかつて俺が入院していた市立病院だ。今は閉鎖している。ここで死にかけていた時、あの人に出会った。

 家族すら見舞いに来なくなった絶望的な状況、俺がどうして死にかけていたかは覚えていない、聞く気もない。今更気にしても仕方ない事だ。確かなのはただ一人、あの人だけが傍に居てくれたという事。

「………………貴方は結局誰だったんですか?」

 死神は俺にとって救いの存在だ。だから先輩の事も悪しき存在だとみなさなかった。これからも味方で居るつもりだけど、何だか偶然とは思えない。死神に助けられた俺が、事情は違えどまた『死神』と関わっている。占いではないが、運命的な物を感じずにはいられない。人間誰でも死神に会える訳ではないだろうから。

「湯那先輩が好きなのは、あの人の人柄に惹かれてるからか。それとも死神が宿ってるからか。分かんないですけど、でも」






「また、会えますよね。そう遠くない内に、会えたら…………会いたいです」


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