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前世は私の王子様

「…………偶然とは言い切れないけど、気になるわね」

 

 放課後。最早いつもの流れで生徒会に立ち寄った。『草延』にあの映像を見せるのはまた今度だ。違和感があるならすぐにでも共有した方が良い。『ハクマ』ではないが、様子を見るという選択肢はそこまで状況を好転させない。

 俺だけならいざ知らず、草延にまで同じ被害が及ぶのはちょっと気まずい。理由はそこまで大したものじゃないけれど。妙な目に遭うのは誰もが懲り懲りというだろうから。

「因みに俺と別れた後、先輩にも同じような事ってありました?」

「そんな押しかけ告白みたいな真似はされた事もないし、前世とか関係なく断るわよ。恋愛よりやるべき事があるって、分かるでしょ?」

「これ……どうなんですかね?」

「同じ占いが流行ってるだけって可能性は、ないの」

 至極真っ当な意見だ。そもそも草延の方はこの占いが共通している点についてさほど問題視していないので然るべき流れだ。これで人が死んだとか消えたとかでもない、只々共通していたというだけ。問題視という程ではないが気にしている湯那先輩と、妙な胸騒ぎを根拠に騒ぎ立てる俺と合わせて生徒会内では意見の違いが目立っていた。

「流行ってたら私も気付いてるわ。仮にも生徒会長、生徒の話題を把握していないなんて会長の名が廃るってもんよ。興味があるかないかは別だけどね」

「流行ってたら俺も疑問に持たないよ。俺のクラスだけ流行ってるなんて事も考えにくい。気にしてるのは……頭のおかしい奴がハマってる占いと同じ占いだって事だ。リン……草延には説明してなかったけど、実は―――」

「九十にもモテ期が来たって事ね」

「湯那先輩、茶化さないで下さいよ」

「成程」

「草延!」

 話を真面目に聞いていない二人に振り回されている。いや、俺が大袈裟なだけなのか……? 地団太を踏む勢いで噛みついていると湯那先輩は満足気に俺の頭に手を置いてぽんぽんと叩いた。

「冗談冗談。確かに私も気にはなってるし。ただ……今の所二人は告白されただけなんでしょ? 妙な事が起きる兆候かもしれないけど、それだけじゃ動けないのよ。動くって言っても何をするのって感じだし」

「実際は何があったの」

「珍しく告白されたけど、そいつがお前に告った奴と同じで占いのせいで頭がおかしくなった……? うーん、いやあ、元々おかしいかもしれないけど。とにかく占いのせいで自分をお姫様だと思ってるんだよな」

「………………それだけ」

「それだけだよ! 何だよ、確かに話してる内に問題にする程じゃないかなって思ったけどさ。でも流行ってもない占いに影響を受けた奴が居るんだぞ? 大事にしろとは言わないけど……先輩の意見を聞かせてください。真面目な奴」

「まあ、気になる事を直ぐ相談するのは良い事だと思うわよ。九十に頼られるのも悪い気しないし、そうね。真面目に……確か貴方が言うには占いにハマッてからおかしくなったっていう話だったと思うけど、それって時系列がおかしいと思わない?」

「え?」

「あの子は前世占いにハマってからおかしくなったんじゃない。元々おかしくなきゃ悪評なんて流れないでしょ? 今回はたまたま、前世占いの情報を聞いたタイミングが被っただけ。違う?」


 ―――あ、そうか。


 昨日今日の話ならアイツが告白していない男子など山ほど居た筈だ。御紀に話を聞いたタイミングのせいで誤解してしまったが、前々からハマっていないと状況はここまで酷くならない。彼女も拗らせないだろう。

 そう考えると全く同じタイミングで占いに傾倒する人物がいたのではなく、遅れてその占いにハマった哀れな男が居ただけの話だ。これを怪しいと言い出したら世の中の偶然全てを疑わないといけない。占い自体が胡散臭いから話がややこしくなっているだけで、疑う程の事ではない……ない…………

「…………怪しくないですね。すみません。俺が悪かったです」

「でも、占い自体は変だと思うわ。私はその子を知らないけど、話を聞いてると有名なんでしょ。だったら私に告白をした人も私じゃなくて同じ占いを好きな子に告白すれば良いのに」

 草延の疑問は尤もだがある意味ズレている。同じ趣味を持つ者同士気が合うからみたいな意味合いで言っているのだと思うけど、そもそも告白は好きな人に対して行うものだ。彼女に告白した人間には天月葉子は魅力的に映らなかった、そういう話で終わってしまう。

 釈然としないが特別怪しむ程でもないような謎について延々と話し込んでいると湯那先輩が何やらファイルを開いて情報と睨めっこしている事に気が付いた。

「湯那先輩、何を?」

「タイミングがズレてるって自分で言ったけど、天月葉子さんがいつ頃それにハマったかは調べておきたいじゃない。自分を『お姫様』って呼ぶなら例えば文化祭の出し物とかで何かしてるんじゃないかなって思ったんだけど。ハズレみたい」

「出し物って体育館で行うあれですよね。あれ有志だから無理じゃないですか? クラスで模擬店出すのとはまた違うんですから」

「八重馬君。ちょっと」

 ちょんちょんと肩をつつかれて振り返る。草延が机の上に携帯を置いて女子のSNSグループ画面を指さした。彼女の性質的にこんなグループに入るのは珍しいと思ったが、情報を集める為らしい。クラスを跨いでグループに入っている。基本的には幽霊なので誰も気にしていないとの事。

 さて、問題はそんな幽霊が所属するクラスグループの一つ。具体的には天月葉子と灰音御紀が所属するクラスで、草延リンネに向かって名指しでこんなメッセージが送られている。



『九十君ってもう帰った?』



 三人で画面を覗きこんでから、草延は小さく首を傾げた。

「告白は断ったって聞いたけど」

「いや、断ったよ。そこで嘘を吐く理由がない。好きだったら断った話自体するのもおかしいだろ」

「じゃあ諦めきれてないのね。生徒会室に呼んだら来ると思うけど」

「うーん」

 やっぱり釈然としない。妙だ。

 

 何故昼休みに告白して、もう一度探している?


 俺は確かに断った。断ったから説明を受けた。単純な理屈だ。相手に勘違いさせる余地もないくらいハッキリと断った。俺に脈がない事は絶対に伝わっている。だが考えられる線としてやはりもう一度告白をしようとしている可能性が一番高い。単にあきらめが悪いだけという可能性はあるが、それ以上に考えられるのは―――


『友達のツテとか頼って、まだ葉子の事知らなそうな男子を調べてもらったの。そしたら八重馬が多分知らないだろうって事で私がけしかけた。告白に成功したら占いは真実だし、失敗したら出鱈目だから金輪際信じるのをやめなって』


 友人である灰音御紀との賭けに負けたくないからだ。

 尤もこの賭けで彼女が失うのは金銭でも尊厳でもない。占いに対する信頼だけで、それは失った所でこの世界を生きていくにはあまり必要のない物だ。占い自体全部が出鱈目とも言わないが、前世が分かったからなんだという話である。これが手相占いなら例えば病気にかかる相が現れているから気を付ける、とか。お金持ちになれそうだから努力する、とか。前向きに努力のしようがあるし生産性も生まれない事はない。前世占いは、分かったからなんだ。それが分かったから何か変化があったのか。

 現実的に考えて実益があるとも思えない占いにそこまで固執するのだから何か理由があるのだろう。それに、灰音御紀は成功したら占いは真実とも言った。本人からすれば賭けに乗らせる為の方便だったかもしれないが彼女からすれば証明だった可能性がある。

 親友もこの占いを本物だと言ってくれた、みたいな。

 だから成功させる必要がある。だから失敗出来ない。だから一度や二度振られたくらいではへこたれない。

 

 これは本当にそういう問題だろうか。


「どうかしたの」

「いや、やっぱり納得がいかない。告白を俺にだけしつこくする理由がさ。他の奴にもやるべきだと思わないか? でもやってたらうちのクラスの民度的に絶対ネタにするだろ? 『かぐや姫』なんて呼ぶくらいだし」

「九十に思い入れがあるとか?」

「アイツの友達が俺に彼女をけしかけた理由は知らなそうだからですよ。実際俺は知らなかったし、『かぐや姫』呼ばわりは後で聞いたんです。実際告白された感じも初対面だったし……」

「それで、返事はどうするの。無視は良くないと思うけど」




「ちょい返事待った」




 そう言って、湯那先輩は生徒会室を後にした。





 …………?

 ある程度の頻度で更新していきます。もう繁忙期なんてないんだ。

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