表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/55

前世で死なずに今世で

最終章に行った小説に手を回していて更新が遅れました。

「いや、不死じゃないですね」

 即答だった。

 会話の風呂敷を広げようとはしない。これはするべきじゃないと本能が認めた。勿論湯那先輩の事は大好きだけど、この人が死神である事も重々承知している。あどけない笑み、裏の無い、そんなつもりなんてこれっぽっちもないような怪訝な表情。

 でも、人間にとっては死活問題だ。

「こ、殺さないでくれますか? 俺は普通に人間なんで、死にますよ」

「…………」

 顔を向けたままじっと近寄ってくる先輩、視線だけで圧されてどんどん座る場所を失う俺。夜でもなければ『シニガミ』の話でもないのに命の危機だ。それも今までと違って俺にはどうしようもない。じと~っとした殺意の目線が身体に注がれている。

「あ、あの! 殺さないで! 先輩! 助けて!」

「…………あっははは! そんなにびびらなくてもいいじゃない! 何、九十ってばいつになくびびっちゃって。私が貴方を殺すと思ったの?」

「はい」

「……あのねえ。不死かどうかを調べたいならわざわざ殺さなくても手っ取り早い方法があるわよ。死因を視ればいいの」

「死因……あ、そっか。死因があれば死ぬって事だから」

「そ。でも九十の死因か…………見たくないなー。やっぱり知ってる人がどう死ぬかってのを先に視ちゃうのはちょっと……精神的にねー」

「先輩でもやっぱりそういう風に思うんですね」

「死にたがりの癖にって言いたい?」

「いや、そこまでは……」

 死神になった経緯は正直触れ辛いのが本音だ。いじめを苦にして自殺しようとしたところを無理やり死神にさせられたなんて。どう触れていいかも分からない。茶化すにはあんまりな経緯で、シリアスに捉えるには今の先輩はお気楽に見える。

 顔を顰めて色々考えを巡らせていると、先輩の箸がウィンナーを運んできて口の中に入った。

「…………もぐ」

「そんな重苦しく考えないの。死神になったのは最悪だけど、今はこれはこれで楽しんでるんだから。その一番の理由は、貴方が傍に居る事。ほんと、ありがとね。いつも仕事手伝ってくれて」

「…………先輩」



「それに、死因ならもう見たし」



「え?」

 じゃあ今までのやり取りは何だったのかと言いたくなる所だが、よくよく考えたら先輩が自分の発言を矛盾させただけで俺が怒るような事はない。気を取り直して、俺の死因。気にならないと言えば嘘になる。

「死因…………いつ見たんですか?」

「死神になった時に自動的に見えるの。隣に居たんだからそりゃ見えるでしょ」

 人はいつか死ぬ。いや、生物はいつか死ぬ。生きている限りは避けられない運命。あらゆる生命の共通点とは死がある事だ。いつか来る終わりは本当にいつか来てしまう。それは一分後だったり五年後だったり八〇年後だったりする。そのいつかに備える事は不可能なのでせめて楽に死にたいと願うのは普通の完成だ。多くの人間は老衰で死にたがる。間違っても焼身、窒息なんかで死にたいとは思わない。

 思わないだけで実際どういう風に死ぬかは死ぬその瞬間にしか分からない。だから死因が気になるのも、人間としては当たり前の感性だ。一方で死因なんぞ知ってしまったら、俺はその死因に怯えながら今後を生きて行かないといけない。それは困るから聞きたくないというのもまた当たり前の感性。

「…………俺の死因って、どんな感じでした?」

「聞きたいの?」

「…………あんまり惨たらしかったら黙っててほしいですね……」

「私は良いけど、それって逆に怖くない? でも安心して? 答えられない程惨たらしい事はないわよ。ただ、答えるのも難しいわね」

「はい? どういう事ですか?」

 そこで会話の間が欲しくなった先輩は弁当に再び口をつけ始めた。余程気分が悪くなる話なら俺も食べておいた方がいいかもしれない。むしろ吐き出すだろうという声も分かるが、せっかくシェアしてもらったのに食べられなくなるという方が嫌だ。湯那先輩のお弁当なのに。

「………集中して食べると案外一瞬で終わるのね」

「美味しかったです、湯那先輩!」

「はいはいお粗末様でした。それじゃあ結論をさくっと言っちゃうけど、貴方の死因は―――」
























 湯那先輩との会話はとても楽しかったけど、どうにも最後の一言が離れない。


『多すぎて話せない。貴方の寿命どうなってるの? 死因だけで言うならもう四十回は死んでるけど』


 予定通りの死を迎えないのは問題ではないかという危惧には、『そもそも予定がごちゃごちゃだから私も判断できない』という一言で一蹴された。死神に組織形態とかはないらしいからこれで先輩が怠けていると判断される様な事もない―――というか、勝手に任命した方に責任があるとは彼女の弁明だ。


 ―――死因が多すぎるってどういう事だ?


 『シニガミ』を追って来た都合上、『ハクマ』然り薬物中毒者然り、命の危機には晒されてきた。死にかけてはきたが結局死んではいない。死因が多すぎるとは何だ? 不死ではないがゲームみたいに残機があるとか?

 あまり試す気にはならない。残機があるならいいが、ないならそれまでだ。やり直しなんて人生にはない。

「八重馬君、今日は暇かしら」

「草延」

 放課後には決まって生徒会の仕事があるので暇になる筈もないのだが、彼女にはどうしても話しておきたい事がある。湯那先輩の『正体』についてだ。本当は昼休みに話すつもりだったのに居なかったから、何処かしっかりとした時間が欲しかった。

「生徒会寄る前に軽く勉強教えてくれるか?」

「……ええ」

 二人だけの秘密の合言葉。実際やましい事をするでもなく勉強しているだけだが、隠し事は抜きに話せる素晴らしい密会だ。これはどうでもいいが、クラスメイトすら居ない状況だと『リンネ』呼びに切り替えるので、それもまた何となく秘密っぽい。

「お前何処行ってたんだ? 昼休みに探したんだよ」

「告白を受けてたの。前世占い……? とかいうので、私とその人は昔は愛し合っていたから今度も結ばれよう、みたいな」

「ん? 前世占い?」

「私も詳しくは知らないわ。けど前世は前世はって。何かにつけて言ってたから」

 どこかで聞いた事のあるワードだ。あれはそう。突然モテ期が来たのかというくらい唐突な呼び出しからの告白を受けた日……つまり今日。かぐや姫を自称する天月葉子がどうして彼氏を欲しがるのかという理由を俺は聞いた筈だ。友達の灰音が見せてくれただろう、あの日記を。

 単なる世迷言だと思っていたが、彼女の方にも同じ単語が出て来たとなると話が変わる。これは……湯那先輩にも共有した方がいいかもしれない。『正体』に言及するどころではなく、何かが始まっていると見るべきだ。

 前世占いを読者は信じますか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ