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会長は、死んでいない

 死体を隠す。

 俺は犯罪と知っていながら手を貸している。言う事を聞かなければ今すぐにでも殺してきそうな生徒会長はもう死んでいるのに。死神の呪縛に囚われて逃げ出す事が出来ない。いや? それは嘘だ。殺されるのは確かに本意ではないけど、湯那先輩を怖がった事なんてない。


 ―――あの人は多分、本当に生き返る。


 というかそれを前提にした作戦だ。まさか死体を見て隠した上で犯人から接触があるまで堂々と振舞わないといけないなんて。元々表情の固いうえに何も知らない草延はまだしも俺は気が気じゃない。朝早く来たのは自分の生存を先生辺りに印象付ける為だろうか。水田も『生徒会長は俺が殺した』なんて言える訳ないから黙るしかない。

 湯那先輩が死んだのは明らかでも、それを証明出来る人間が居ない。この不思議な状況は、普通の人間には重すぎる。


「そういや生徒会長は今日来てないのかね?」

「俺、朝見たような気がするけど……」

 

 こういう何でもない噂話にも一々ドキドキしてしまうのが良くないと分かっているのに体はどうしても反応する。演劇部に入っておけば良かったかもしれない。草延のように拳銃を所持してても何食わぬ顔で生活出来る図太さが欲しいものだ。

 クラスの違う相手の反応を窺いに行くのは不自然で、相手が見ていなければそれで良いが同じ思考だったらどうだ。何故生徒会が自分を見に来るのかと怪しまれたらそれでもう、全てが破算になる。

 する事はない。

 やるべき事もない。

 ただ耐える。相手からの反応を待つ。何よりそれが辛いのだと分かっていても尚、これは続けないといけない。

 一時限目は何事もなく、二限目も変化はなく。

 三限目にも代わり映えなく、四限目には頭がおかしくなりそうだった。

 我慢比べなのは分かっている。あっちだってただならぬ気持ちの筈だ。人を殺して、明らかにならない。いや、誰もそれを認識していない。特に同じ生徒会の俺や草延が騒ぎ立てないのはおかしいと思っているだろう。その前の同好会殺人事件は十分話題になっていた上に、そこは警察によって現場周辺を封鎖された。

 同好会が何処の部活の活動も邪魔しない場所にあったのが不幸中の幸いというか。警察は度々立ち入るものの、それは多くの生徒を阻害する行為ではない。だとしても警察は目立つし、彼からしても本来なら生徒会室に同じ事が起きて騒がしくなる想定だったと思う。

「暇ね」

「俺は草延先生の個人授業についていけるように必死で授業受けてるよ。昼休みが早く来て欲しいと願いながらね」

「……そう」

 気の利いた返しは期待していない。ただ日常を演出しているだけ。四時限目が何事もなく終わって昼休み。普段は生徒会室で昼飯を食べているが、今回はどうしようか。どっちが水田君に心理的負担を押し付けられる?

「草延。騒がしい所と静かな所と、どっちで御飯食べたい?」

「静かな所。生徒会室とか、いいと思うわ」

「そっか。じゃあ会長からの要件はそっちで話そう」

「――――――なるほど」

 教室の会話なんて騒々しくて普段は誰も彼も自分に関連がなければ聞き流すのだが、裏を返せばいつでも盗聴出来る。だから敢えて大声で言ってやった。単に草延と二人で御飯と言うとそのファンから恨みを買いそうだが、湯那先輩の仕事絡みと分かれば誰も羨まない。

 それをするならもっと生徒会に人はいる訳でして。

 白兵に向かってため息をしてやると、彼は複雑な表情で口を開けながら親指を斜め下に向けてブーイングをしていた。



「な、なあ。二人共…………ちょっといいか?」



 ―――我慢比べは、俺の勝利。

 振り返ると、容疑者の水田君がただならぬ様子で体を震わせながら俺達を引き止めようと手を伸ばしていた。

「何だ?」

「そ、その…………」

 自分から話しかけに来ているのにあちこちに視線が散って落ち着いていない。確かに季節は寒いかもしれないがそれにしたって唇が青いし、汗を掻いている。別に体育があった訳じゃないと思うし、あったとしてもそのままにしている奴は稀だ。タオルで拭くにしろ水で洗うにしろどうにかはするだろう。

「せ、生徒会長どこにいるか知らないか? は、話したい事があって」

「湯那先輩? そう言えば今日は見てないな。自分のクラスに居ないのか?」

「い、居ない…………何処にいるのか知らないのか?」

「知ってたら教えるよ。で、生徒会長に話したい事ってのは何だ? 居ないなら俺が聞くけど」

「いや……い、居ないならいいんだ。わ、悪かったな」



「休んでるって発想はないのかしら。水田君」


 

 事情を勘違いしている草延が、口を開いた。

「私達は会長の居場所を知らないけど、どうして休んでるかもとは考えないの?」

「え、あ、い、いや……や、休んでる……? え? あれ? じゃあ俺は……違う! 会長は居るんだよ! 学校に来てた! 俺は会ったんだ!」

「じゃあその時に話せば良かったのに」

「え…………」

 まさか自分の口で殺したとは言えまい。だからと言って草延の物言いは助け舟でもあって、多少怪しまれようとも乗っかれば良かったのに。尋常な判断力があるならそうしている筈だ。生徒会長が休んでいるならこの話はそれでお終い。

 休んでいないが誰も居場所を知らない(知っている)から、話がややこしくなっている。

「あ…………あああ。違うんだ! 違う違う違う! 違うんだこれは……その……うわ、あああ! もういい! お前等なんかに聞かない!」

「あ、おい―――」

 そういう反応がまず駄目なのだけど、そんな事は水田君には分からない。こんな状況が状況なら大して慌てる必要もない状況で、必要以上に慌てちゃって。問題はこの後どうするのが効果的かという事だが…………


 水田が仲瀬を殺したその証明はどうすれば可能だろうか。もう一度同じ状況を作れば本性を現す? それか……どうにか夜に彼を誘導して生き返る湯那先輩と鉢合わせさせるか。いや、もっと良い方法があるはずだ。


『しにがみを奪われると思い込んで刺してきた』。


 つまり、今。彼はあれを所有している筈だ。仲瀬を殺したのが怪異でないなら、殺す動機があり得るなら。

「あー……でもそう言えば会長からあれを貰ったんだよな。なんだっけなあれ。陸上部から押収した……」

「八重馬クン」

「あれ落とし物みたいでさ、そう言えば落とし主を見つけてくれって言われてたんだよな」

「ほ、本当か! それは俺のだ! 返してくれ! 返せ!」


 二人で顔を見合わせる。

 今のは隠す気もないその場だけの出鱈目だ。まず押収したと言っているのに落とし物扱いしている。押収したので落とし主を見つけろと言うのは訳が分からない。水田君の発言的にまともな判断ができるかどうかが怪しかったので本当の意味で出鱈目な嘘を言ってみた。話の前後を理解しているなら騙されない。

 思った通りというか、水田君は話の前後を理解出来ていない。

 正常なようで、その場その場の会話だけを認識して反応しているに等しい。それは健常な人間の反応ではなく、全体的に不審な様子と合わせて、薬物を服用した人間のようではないか。

「いやーでもな、落とし主で嘘吐いてる場合もあるから、会長に確認取ってみないとなー」

「生徒会長は何処だ!」

「用事は俺が聞くってのに。どうしてそんなに生徒会長に会いたいんだよ。何処探しても居ないんだろ。だったら会えないに決まってるじゃないか」

「じゃあお前はいつそれを言われたんだ!」

 そこは繋がるのか。

「ん…………………」

 水田君の言い訳を潰すには現行犯で捕えればいい。だから俺を狙わせればいい。







「今朝。ちょっと話したんだよな」



 

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