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ただ死神は、哭えばいいとされた

『これは罠ね。死体を発見させて校内を混乱させる作戦だわ。オカルト同好会の活動は閉塞的だからわざわざ訪れるか時間が経たないと気付かれようがない。そしてこんな場所を先に訪れるとすれば、高確率で生徒会の誰か。『死神』探しを大々的に行ったんですもの、不自然な考え方ではないわ』

『でも先輩。最初に発見したのに見なかった事にしたらなんか犯罪的なものに引っかかるんじゃ?』

『それ、死神に言う? 発見させるにしても私達じゃ駄目。生徒会が少しでも関与してしまったら事情聴取に時間が取られるわ。もし警察が介入したら立ち入った痕跡を見破られるかもしれない。まあそれは誰が発見しても危険性があるか。でも生徒会の活動として他の部活動に顔を出すのは自然な事だから、第一発見者でなければそこまで追及されないでしょう』

『…………じゃあもしかして、このまま放置ですか?』

『同好会には悪いけどね』


 と、そんな流れから、俺達は一度逃げる様に生徒会室へ。『偽死神』が校内の人間である可能性(名前がほぼ同じなので忘れがちだが、偽死神と売人のシニガミが同一人物とは断定されていない)が非常に高くなって先輩は喜んでいた。曰く近所に住んでてただ学校関係者だけを狙っていた方が絞り込めなくて面倒だったとか。

「どうして同好会の人達は殺されなくちゃいけなかったんですかね。やっぱり口封じ?」

「今はそれが一番丸いわ。だって専門家ですもの。私が『オヤシロ少年』を嘘っぱちだと思ってる理由がそこで、これが嘘だとしたら辻褄が合うからっていう、結論ありきの考え方なんだけどね」

「本当だとしたら?」

「同好会が知らないのは不自然でしょう? お化けなんて一日二日で生まれる訳ないのよ。こんな狙った様に生まれた怪談話なんて嘘に決まってる。でもみんな、オカルトにそこまで興味はないから調べようともしない。唯一例外が同好会で、嘘だと分かったらいつか私の耳に入るでしょ。だから殺した」

 そして先輩を警戒する理由は当然で、犯人が『偽死神』なら逆に警戒しない理由が無い。死神の目を盗んで殺人をしている、言い換えれば死神の存在を認知している。ならば本物を警戒するのは至極当然の事で、これを聞くのは愚問という奴だ。

 だがどうやって絞り込めばいいだろう。『偽死神』の仕業という可能性が一番高いとして、あまりに状況がかみ合わない。今は『シニガミ』が起こした事件も重なっている。これが全くたまたま偶然重なったとは思えないのでいつまでも同一人物説は頭の隅にあるのだが……とはいえ断定できない限りは違う可能性も考慮しないと。

「……そうだ。先輩、その人の死因を見て狙われるかどうかとか分からないんですか?」

「へ?」

「界斗の時、『串刺し』で死ぬ事が分かってたんですよね。でもそれって普通の死に方じゃない。予定通りでも何でも現実的に考えたら変な死に方です。偽物にとってはそういう変な死に方の方が殺しやすいんじゃないんですか?」

「考え方は分かるけど、それだったら偽物にも死因が視えてる必要があるわ。界斗君のは単に、通り魔か何かで殺される事が予定通りである筈が無いという反抗でしょう。それを言い出したら何でわざわざそんな事してるのかも分からないけどね」

 やはり考える事が多すぎる。特に成り行きとはいえ、俺は『オヤシロ少年』及び『偽死神』の正体に迫る必要が出て来た。しかもこの事はどちらにもまだ告げていない。先輩の真実に迫る試みはこんな事件が起きたせいで凍結中だが……草延より先に真偽をはっきりさせられるならそれに越した事はない。

 この学校に居る以上、この人を敵に回すのは危険だ。生徒会内の探り合いだからこういう言い方も大袈裟だと思うが、信頼案系が崩れるとやりにくくなるのは別に学校でなくとも同じだ。俺が二人の橋渡しをしないといけない。それは間違いなく。もう、確実に。



『犯人が見つかれば、そいつは近いうちに殺される』



 それは『オヤシロ少年』の噂を嘘と断定した教師の言葉。あの時は単に『シニガミ』が消しにかかる以上の意味は無かったと思うが、脳裏を過って閃いた。これだけ話が複雑になっているのはいつまでも『シニガミ』と偽死神が同一人物かどうかがハッキリしていないからだ。『オヤシロ少年』を盾に仲瀬を殺した犯人を先輩に見つけさせれば、それでこのもやもやは晴れる筈だ。

 その殺しに来た奴を死神の力で殺してもらえばいい。同一人物ならこの騒動は今後一切起こらないだろう。違うならそいつが『偽死神』で、売人は別人という事になる。『偽死神』じゃない可能性―――つまり全く関係ない誰かが殺しに来る可能性なんて考慮するだけ無駄だ。何処の世界に密室殺人はたまたま通りがかった通行人が行ったに違いないと推理する探偵が居る。思考の上では飽くまで因果関係に基づこう。『シニガミ』じゃないなら殺しに来るのは偽物だけだ。

 そして殺しに来なかったら、『シニガミ』だとか偽死神だとか以前に殺されると断言した康永先生の信用にケチがつく。いずれにせよ話が進展するならこれを狙わない理由はない。殺人を推奨するなんておよそ健全な学生らしくもないが、あまり役に立たないとこの人に殺されるかもしれないし。

 生徒会室の鍵を掛けてパイプ椅子に座る。先輩は首を傾げて、腕を組んだ。

「どうかした?」

「……湯那先輩。その、出来れば誰にも内緒の話という事でお願いしたいんですけど。実は『オヤシロ少年』は嘘だろうって言ってる人が居てですね……その人は仲瀬を殺した奴はただの人間で、嘘が明らかになればそいつが死ぬだろうって思わせぶりな事言ってるんです。これ、利用出来ませんか?」

 さほど案は練っていないが、たった今思いついた閃きを全て生徒会長に明け渡した。倫理観もなければ道徳性もない会話だったが、社会正義でこの悪は葬れない。正当化する為の理由だったとしても、それの何が悪い。俺は命を握られているのに。

「…………良い案ね。気になるんだけど、そこまで言ってどうして本人の名前は教えないの?」

「―――信用問題みたいな。こんな事言うのもあれですけど、俺は生徒会長の御堂湯那じゃなくて死神の御堂湯那に教えてるつもりです。だから……この情報だけ利用して欲しいって事で」

 視点は多角的に。草延と組んで『オヤシロ少年』を調べるのと先輩と組んで『オヤシロ少年』を調べるのとでは得られる情報にも違いが生まれるのではないか。例えば『草延』と得た情報と先輩と得た情報で、先輩の方に誤情報が多すぎれば言った奴には偽物の息がかかっていると仮定する事も出来る。

 先輩はあまり良い顔をせず、苦々しい顔で顔を引き攣らせながら笑っている。

「死神としての私、か。本当はそんなの要らないんだけど……これ以上偽物を放っておく訳にもいかないし。いいわ、調べましょうか。ただ今日はそっち方面に足突っ込んじゃうと疑われるから同好会の死体が見つかってからね」

 湯那先輩は立ち上がって棚から一冊の日記帳を出すと、二つある内の一つと一緒に俺の胸に押し付けた。

「これは?」

「見たまんま日記帳。草延さんに介入して欲しくないから、何か情報入手したらこれに書いていつでもいいからこっそり渡してくれる?」

「交換日記で情報共有とか新しいですね」

「いっぺんやってみたかったのよね~……あ、うん。今のは冗談。半分だけね。とにかく失くしちゃ駄目だから。そこんとこよろしく頼むわね」

 日記帳の裏面の名前欄には、寸分の狂いもない綺麗な文字で一言。



『貴方と私の、二人だけの秘密』






















「え、同好会が……!?」

 草延と合流した。湯那先輩は他の誰かに見つけてもらうのが理想と言っていたけど、だからって彼女に嘘を吐く理由はない。普段は淡白で仏頂面気味な草延も同好会の部室で殺人が起きていた事には動揺を隠せなかった。

「…………それで、通報したの?」

「いや、まだ。ちょっと気が動転して、立て直すのに時間が掛かったって言うか。それに何か情報があるかもしれないかrさ。そっちはどうだった?」

「昇降口で二人の話をしていた人間なんて、探しようがないわ。収穫なし。そっちの成果があって助かってる。早速向かいましょうか」

「え、もう一回入るのか…………?」

「当たり前」

 そう来るとは思っていたけれど、入りたくないのは本当だったりする。死体のニオイに慣れたくないし、そもそももう一度死体を見ることがまず嫌だ。そんな俺の憂鬱など露知らず、草延はオカルト同好会の部室に躊躇なく侵入。

 鼻をつまんで、戻って来た。

「凄いニオイね」

「入らない方が良いと思うけど……大丈夫なのか?」

「死んだという事は、『オヤシロ少年』の嘘に対して有効な情報を掴んでいたんじゃないかしら。その口封じと考えるのが妥当。だから入って調べないと。八重馬クンも早く」

「…………」

 先輩の計画をおじゃんにする可能性もある為、手短に済ませようか。携帯のライトを頼りに再度入室。草延は真っ先に棚や段ボールの中を漁っていた。


 ―――足元に、違和感。


「ん…………?」

 照らしてみると、床に大量の血液がぶちまけられていた。出所は机の上の杯であり、最初来た時には立っていたそれが、床に転がっている。それを堂々と上履きで踏んでしまったどころか、段ボールから転がり出た死体が消えていた!

「ま、不味いぞリンネ!」

「……静かにしてくれる?」

「んな場合じゃない! 俺が来た時は死体もあったし足元に血なんか溜まってなかったんだ! 俺がお前の所に来るまでに誰かここに来た! 早く逃げないと誰か来るぞ!」

「――――――!」

 目を剥いて振り返る草延。視線の先は部室の入り口。





 




 廊下の奥から、駆け込んでくるような音が聞こえる…………!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか流れるように死体がでてきて慣れてきちゃった。 これ誰の死体?  後あなたの作品のヒロインだいたい好きです [気になる点] 誰が現れた? 怪異、それとも人間 味方それとも敵なの  [一…
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